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小学五年生の頃、「クラブ活動」なる学校の設けた謎の風習により、部活動を悉く回避していた僕だったものは、半ば強制的に、何かしらの文化的な活動に片足を突っ込む羽目になった。

そうして、僕は「折り紙クラブ」を選んだ。

特段折り紙が好きというわけでもなかったし、得意というわけでもなかった。寧ろ手先は異様に不器用で、何かを作ろうとして、出来るのは決まって鮮やかなスクラップだった。もう、それは、一周回って、微妙な芸術性すら孕んでいた。

「折り紙クラブ」
活動内容は、聞いて驚く勿れ「只管に折り紙を折る」これだけだった。特に教わる事は無い。折り紙に造詣の深い、有志の誰か地域住民が手を貸す、と言う事もなく、淡々と「折り紙クラブ」の活動は始まり、終わる。

折り紙を折る。
解散。

折り紙を折る。
解散。

毎週、それが繰り返されるのだ。
正直、気が狂いそうだった。
紙を折って、折って、折って、たまに折り目をつけるだけで、折って、折って、折って、折って、折って、たまに折り目をつけるだけで、折って、折って、折って、折って、折って、折って、折って、折って、折った。たまに折り目をつけるだけだった。

そんな淡白な時間に、初めて展開が訪れたのは、クラブ活動も終りに近づいた頃だった。
いつもの様に折り紙の本に記されていた、嫌に難しそうなライオンにでも挑戦してやろう、と、意気込んでいたその時だ。

「低学年の子達に、皆の折ったやつをプレゼントしよう」みたいな奴が、来た。

僕は阿鼻を見た。

如何したって僕のヘッッッタクソな折り紙を可愛い後輩に押し付けないといけないんだ、一歩間違えば児童虐待だぞ、それはもう。

学校は変な所で分かち合いの精神に満ち溢れているが、そう何でもかんでもあげれば良いというものではない。歪な花なんぞ誰も貰いたくは無い筈だ。
本当ムシャクシャしちゃう。
あたしだって、折り紙上手かったら後輩ちゃん達にあげたくもなるわよ。
でも、下手なのよ。
下手な折り紙、それはもう捨てづらい塵紙じゃない。
絶対に、折るものか。

絶対に今日は折らないぞ。

ライオンも、今日はやらないからな。

折らないぞ。



そう、心の中で密かに悪態を吐いている僕のすぐ隣では、無垢な目をした低学年の子等が、籠の中から自分の気に入った作品を手に取って、去って行く。

皆、ちゃんと折っている。

しかも、ちゃんと手に取ってもらっている。





ええい、かくなる上は。

折り紙と心中よ。



何か、簡単に折れるモノは無いのか。

絶望的な折り紙の腕前を、隠し切れるモノは。
折り紙の本のページの一つ一つが、はたはたと擦れ合う。一枚の紙切れが、動物やら食物のイデアに変わっていく、その過程が、次々に視界に現れる。

はたはた。


はたはた。







「かぶと」





有った。

これだ。

さっ、と、薄っぺらい正方形をばひとつ手に取り、紙上に記された記号の通りに、一つもそれに逆らう事なく、淡々と折って、折って、折って、折って、

刹那のうちに、兜のイデアが僕の掌に君臨した。


やったあ。


それからは、只管に紙切れを兜に変えた。

紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。紙切れを兜に変えた。








籠には、それなりの数の兜たちが、兜らしからぬそれらの色を、静かに主張し合っていた。

そこを通りかかる、無垢。







小さな手が兜に触れる。







そうして、僕の兜は、次々と彼等に持ち去られた。



やったあ。

兜、子供に人気だとは思っていたが、僕が想定していた以上に、それの人気は安定していた。
兜の作り方が異様に簡単だった事も相まってか、それは、兜は、折り紙、ヘッッッタクソな奴の作品なのに、子供達の承認を得たのだ。

もう、めちゃくちゃ嬉しかった。

兜の手柄なのに。
僕は、只、本に書かれていた通りに、紙を折っただけなのに。誰でも出来る事なのに、



かぶと

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