記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

『蜜柑』芥川龍之介 「一瞬の情景が美しい」と、カッコつけて

このnoteは、まだ本を読んでいない人に対して、その本の内容をカッコよく語っているという設定で、一方通行的に語りかける形式で書いています。なのでこの文章のままあなたも、お友達、後輩、恋人に語ることが出来ます。 ぜひ文学をダシにしてカッコよく生きてください。


『蜜柑』芥川龍之介

画像1

【芥川龍之介を語る上でのポイント】

①『芥川』と呼ぶ

②芥川賞と直木賞の違いを語る

③完璧な文章だと賞賛する

の3点です。

①に関して、通の人がモノの名称を省略するのはどの分野でも適用されます。文学でもしかり。「芥川」と呼び捨てで語ることで、文学青年感1割り増しです。

②に関しては、芥川賞は純文学、直木賞は大衆文学に贈られる賞です。それ以上は僕もよくわかりません。調べてください。

③に関しては、芥川はその性格上完璧を求めるが故に、短文が多いです。僕個人短くて凝ってる文章が好きなので、まさに芥川の文章は僕の理想です。


○以下会話

■情景が美しい小説、蜜柑

 「心があったかくなる話か。そうだな、沢山あるけど短いのでオススメは、芥川龍之介の『蜜柑(みかん)』かな。

芥川は『羅生門』とか『蜘蛛の糸』とかが有名で、個人的には『鼻』が好きなんだけど、考えさせられる系統の小説が多くてちょっと説教くさいんだよね。でもこの『蜜柑』には説教は一つも無くて、ただ書いてる情景が美しくて心温まるからすごいおすすめだよ。

『蜜柑』は小説というよりエッセイに近くて、芥川が電車、当時は汽車で田舎娘に遭遇した出来事を書いてるんだ。多分10ページくらいの短い小説だから、一瞬で読めるから読んでみて。

■芥川と田舎娘

お話はね、芥川が憂鬱な気持ちで汽車に乗るとことから始まるんだよ。仕事もプライベートもうまくいってなくて、疲労と倦怠感を抱えながら、2等室で新聞を読んでたのね。空いた車両でだらっとしてたら、隣の車両から乗客がやってきたのね。チラッと見ると13歳くらいの少女なんだけど、ほっぺが真っ赤で霜焼けしてて服が汚くて、風呂敷に何か包んでて、いかにも田舎から出てきた娘なの。しかも手に握ってる切符を見ると3等室の切符なんだよ。芥川は気持ちが沈んでるから、その娘の無知さと田舎臭さにイラっと来て、冷たい視線をチラッと送った後は無視してたのね。

しばらくしたら、その娘は突然窓を開け始めたの。ガタガタ揺らすんだけど、重いのか中々開けられないでいて、芥川はまたその姿を見て「何やってんだよ」って軽蔑の目を向けて、ずっと開かなきゃいいのにって意地悪な思いも抱くんだよ。それでも娘は一生懸命開けようとして、やっとガバって開いた時と同時に、汽車がトンネルに入るの。電車と違って、汽車はモクモク煙を出して走ってるから、トンネルに入っちゃうとその煙がトンネルの中に充満して、窓からその煙が入ってきちゃうんだよ。だから、その娘が開けたところからモクモクモクって黒い煙が入ってきて、喘息持ちの芥川はもろに咳き込んじゃって、もうめちゃくちゃ腹たって叱りつけてやろうって思うの。

そしたらすぐパッとトンネルを抜けて、視界が開けると、目の間にうわっと田舎町が広がって、ほっぺが真っ赤な少年が3人、汽車に向かって一生懸命に手を振って、ヒヨドリみたいに何かワーって叫んでるの。その瞬間、娘が窓から体を半分出して、霜焼けの手を大きく振って、蜜柑を5つ6つ少年達の上にパラパラって投げるの。

その光景を見て、芥川は心が爽やかになって、汽車に乗った時の憂鬱な気持ちが晴れたんだ。

これでお話は終わり。どうだった。なんかこれ、僕の表現力がなくて、あんまり良さが伝わってないかもな。実際に読むともっと良いんだよ。この小説のポイントは3つあるんだ。

■情景の美しさ

1つ目は最後の情景。娘が窓から身を乗り出して蜜柑を投げるシーンは、原文を読むとすごく良いんだよ。

私は頬の赤い三人の男の子が、目白押しに並んで立つてゐるのを見た。<中略>それが汽車の通るのを仰ぎ見ながら、一斉に手を挙げるが早いか、いたいけな喉を高く反そらせて、何とも意味の分らない喊声かんせいを一生懸命に迸ほとばしらせた。するとその瞬間である。窓から半身を乗り出してゐた例の娘が、あの霜焼けの手をつとのばして、勢よく左右に振つたと思ふと、忽ち心を躍らすばかり暖な日の色に染まつてゐる蜜柑みかんが凡そ五つ六つ、汽車を見送つた子供たちの上へばらばらと空から降つて来た。

この描写の良い所は、その田舎町と少年と蜜柑の光景が、一瞬で過ぎ去っていく所なんだよね。当時地上最速の汽車が光景を置き去りにしていく、この疾走感。一瞬しか見えなかったから、逆にいつまでも浮かぶ光景がとても良い。

 暮色を帯びた町はづれの踏切りと、小鳥のやうに声を挙げた三人の子供たちと、さうしてその上に乱落する鮮あざやかな蜜柑の色と――すべては汽車の窓の外に、瞬またたく暇もなく通り過ぎた。

■娘の強さ

2つ目は娘の強さ。これ1910年頃の話だから、娘は多分奉公に行く所だったんだよね。今の中学生くらいの13歳の娘が、当時スマホも何もない中、違う町に行って何年間も住み込みで働きに行くんだよ。そんな自分のことが不安で寂しくて一杯一杯のはずなのに、おそらく弟とその友人達かに対して、見送ってくれてありがとうとか、これから頑張ってねとか、いろんな感情が入った蜜柑をあげる心の優しさと強さ。ここがグッとくるよね。

■芥川の感情の変化

3つ目は感情の変化。芥川は当時25歳くらいで、この10年後に自殺をするんだよ。25歳の時に、その自殺に至る感情を抱いていたかは分からないけど、冒頭でもあったように、倦怠感と疲労感で憂鬱な気持ちを持って汽車に乗ったことは事実なんだよね。この憂鬱な気持ちを抱えている中、さっきの娘と少年たちの光景を見て、すっと風が通り抜けていく感じ。一瞬でも心が晴れやかになって、娘に対して、当初とは全く違う感情を抱く感覚が見事に表現されてるんだよね。

まあこんな感じかな。とにかく実際に読んだ方が面白いから是非読んでみて。」


この記事が参加している募集

お賽銭入れる感覚で気楽にサポートお願いします!