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『号泣する準備はできていた』江國香織 「ハンカチが必要だ」と、差し出しながら

○はじめに

このnoteは、本の内容をまだその本を読んでない人に対してカッコよく語っている設定で書いています。なのでこの文章のままあなたも、お友達、後輩、恋人に語れます。 ぜひ文学をダシにしてカッコよく生きてください。

『号泣する準備はできていた』江國香織

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【江國香織の作品を語る上でのポイント】

①繊細な文体を褒める

②女性らしさに言及する

の2点です。

①に関して、江國香織さんの文章は、主人公の鼓動まで伝わってくる様な綺麗な文章です。読んでいると繊細な気持ちになります。

②に関して、江國香織さんは女性らしい視点が入った恋愛小説を得意としています。きっと彼女の作品を全て読めば、どんな鈍感な男性も女心が理解できる様になります。多分。

○以下会話

■女性の味方

「女の子がハマる小説か。そうだな、江國香織の『号泣する準備はできていた』がオススメかな。江國香織は繊細な表現とみずみずした感性が魅力的で、主に恋愛小説を得意とする作家さんなんだよ。『号泣する準備はできていた』も12編の短編が書かれた恋愛小説で、これで直木賞を受賞したんだ。

この作品は、年齢も境遇もバラバラの12人の女性が、今まで持っていたものを突然に失う話が書かれてるんだ。失ってしまうものは、恋人だったり、未来だったり、不倫相手だったり、「好き」という感情だったりするんだ。失った淋しさに押し潰され、今にも泣き崩れそうだけど、その悲しみを受け止めて切り抜けていく女性が描かれているんだよ。

■振り切った女性の強さ

12編の中で僕が好きなのは『溝』かな。離婚協議中の夫婦が、その事実を隠しつつ、姪の誕生日を祝うために旦那の実家に行く話で、そこに流れる空気感がゾクゾクするんだ。その家族は集まったら麻雀をするのが恒例で、かつてそこには一家団欒の和やかな雰囲気があったはずなんだけど、夫婦の波長がずれている今、居心地の悪い気まずさが流れてしまうんだよ。妻の「私シャンパン大好きなんです」という言葉が誰も返答されずに宙に浮いてしまったり、父親が「なあママ、今日はたのしかったじゃないか」と奇妙な言い方をしてしまったり、微妙に音程の外れた会話が続くんだよね。夜になって帰る時間になり、夫の両親と別れ、車に乗り、家に着き、車を降りると、妻がふと、

「私たち一度は愛しあったのに、不思議ねぇ。もう全然なんにも感じない」志保は言った。「ねえ、どう思う?そのこと」

って言うんだ。怖い。「え、何でそんなこと聞くの」って背筋が凍るよ。主人公は「号泣する準備」が出来ているからこそ、助けを求めて泣きつくことはせず、本能に忠実に真正面から物事を受け止めようとしているんだよ。恋愛リアリティーショー番組を観ている様な臨場感。こんな感受性の鋭い言葉が書けるのは、さすが直木賞作家って感じだよね。こんな感じで12編の短編が綴られているんだ。

■魅力的なタイトル

この小説、タイトルが良いよね。号泣する準備はできていた。「号泣する準備」ってしたことある?泣ける小説とか映画とか、娘の結婚式とかお葬式とか、涙が出てしまうのが予想される場面って色々あるけど、「号泣」となるとそこには唐突さが必要な気がするんだよね。急に目の前で受け止めきれないことが起こって、自分の心の器からこぼれてしまったものが涙になって溢れて、結果号泣してしまう。でもこの短編集の主人公は、いわゆる女の勘なのか、何となく何かを失う気配に気がつくんだよね。だから身構えて号泣する準備をして、その訪れるであろう喪失感をしっかり受け止めるんだ。

■江國香織の世界に浸れる読者

光野桃さんというエッセイストが解説で

江國香織さんの小説は、読む、というより食べる、という感じだ。<中略>江國さんの小説は肉食だ。濃密な葡萄酒で煮込まれた肉。それを手掴みで食べる。指の先までしっかり舐める。口の周りがベタベタしても構わない。そして、それらはすぐに体の中に流れ始める。小説の血液が流れてしまったらもう、読者としての距離をとることができない。

って書いてるんだ。汚い食べ方には違和感があるけど、「食べて体の中に流れ始めて読者としての距離感を保てなくなる」は凄い分かる。確かにどっぷり浸かる人は抜け出せなくなるんだろうなって思う。

僕はまだ結婚してないし、離婚もしてないし、男を奪い取ってもないし、そもそも女でない。だから主人公に自分をぴったりと重ね合わせることはできない。でももし自分が女性で主人公と似た立場にいたら、絶対に共感できる空間がこの小説にはあるんだよ。だけど僕は男でまだ人生経験が甘いから「男子禁制」のその空間にはどうしても入れないんだよね。それが凄い悔しい。女性になって読んでみたかった。僕は江國香織の本当の面白さをちゃんと享受できないんだよ。ブラジル人が隣で腹抱えて話してるけど、言葉が分からないから自分は一人取り残されているみたいな。

だから女性で同じ様な境遇の人は、楽しいことが確定されてる江國香織の世界を存分に味わえるだろうから羨ましなって思うよ。今度感想聞かせてね。」


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