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税制に関する会計検査院の指摘 その1

会計検査院は、税制一般について広く指摘を行い、財務省に対して税制改正を促すことを行っています。本日興味深い指摘のニュースがありましたので、元調査官の立場からご紹介します。なお、筆者は本指摘に関与しておらず、本記事の意見にわたる部分は全て個人的な見解です。

“内部留保”課税の免除制度 再検討を提言へ 会計検査院

https://www.google.co.jp/amp/s/www3.nhk.or.jp/news/html/20201013/amp/k10012660471000.html

留保金課税とは

ずっと前からですが、特定同族会社の留保金課税という制度があります。これは、同族会社(いわゆるオーナー企業)の場合、外部株主がいないか、いても影響力がないことから、いつ配当を行うか自由に決めることができるために設けられたものです。配当すれば、受け取った側では所得税が課税されるので、国からするとこの所得税がいつまでも経っても収入にならないのでは困ってしまいます。そこで、一定の同族会社のうち、会社内に留保されている一定の利益については、通常の利益に対する法人税に上乗せして課税することとされています。

中小法人の特例

一方、10年ちょっと前から、資本金1億円以下の中小法人については、財務基盤の強化を図るために留保金課税の対象外とされました。スタートアップ企業の成長の足枷にならないようにする趣旨でもあります。

会計検査院の指摘

会計検査院が調査したところ、特例で留保金課税が免除されている1万6000社のサンプルのうち、400社余りが課税対象企業よりも財務基盤が強固であることが分かりました(内部留保が資本金を遥かに上回る歪な自己資本の会社もあったと推測されます)。これら400社余りの会社に留保金課税がなされていれば、310億円が徴収できたということで、かなりインパクトのある数字です。

一般に会計検査院が税制について指摘を行った場合、近い将来の税制改正に反映されます。財務省において、何らかの指標により留保金課税の是正改善を行っていくものと思われます。

考察

中小法人の特例については、このほかにも法人税の軽減税率や交際費の損金算入等、資本金1億円以下を基準とする優遇制度が多岐にわたり存在しています。筆者も資本金だけで中小法人かどうかを判定することは、国税に在籍していた10年以上前から疑問に思っていました。会計検査院でもおそらくだいぶ前から疑問視していたと思われますが、例示した軽減税率等の優遇制度では指摘するだけのインパクトがなかったのでしょう。ここにきて留保金課税免除の実績データが揃って来たため、本格的な検査が行われたと思料されます。

今後の税制改正が留保金課税にのみとどまるのか、中小法人の特例一般にまで影響するのか注視していきたいと思います。

事業税の外形標準課税

中小法人の特例でもっとも影響が大きいのが外形標準課税です。会計検査院が指摘を行っていないのは、事業税が地方税であるためです。会計検査院は国の税金の使い道を検査対象としているため、地方税の検査にまで権限が及びません。しかしながら、資本金1億円以下かどうかという点は全く同じなので、国税だけ改正を行うというのでは、首尾一貫した税制ではないと思われます。こちらについても注視が必要です。

ベンチャー企業への影響

筆者も関与しているベンチャー企業に影響はあるでしょうか。IPOを目指している場合、ベンチャーキャピタルからの出資を受けて同族会社から外れるケースもありますが、社長一族が株式の大部分を保有したままIPOまで行くケースもあります。スタートアップ企業の多くは、繰越欠損金を抱えたまま上場するので、外形標準課税にまで話を広げたとしても影響のある会社は少ないかもしれません(外形標準課税の改正が行われたとしても、純資産額で判定する結果、影響がないと予想されます)。

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