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租税訴訟 ギャンブルの賭け金の払戻金の所得区分

10月15日の東京地裁判決について、今週号(11月2日)の『税務通信』に掲載されていたので所感を記事にします。

事案の概要

インターネットを介してスポーツの結果を賭けの対象としたギャンブルの的中時の払戻金について、納税者は雑所得であると主張したのに対して、国側は一時所得であるとして争っているものです。結果的に納税者が敗訴して控訴中です。

雑所得であれば、外れた試合の賭け金も必要経費に算入できますが、一時所得であれば、的中した試合の賭け金のみ必要経費に算入できるため、課税所得に大きな差が生じます。

納税者は、雑所得の金額は4年間で計7900万円の損失であると主張したのに対して、国は、一時所得の金額は同約10億2000万円であるとして、約2億1000万円の所得税(本税のみ)を課税しました。

なお、地裁判決のニュース記事が見当たらなかったので、審判所の裁決時の記事にリンクを貼ります。

判決

本件では、有名な馬券の払戻金の最高裁判決(平成27年3月10日)の判断枠組み(下記引用)を踏まえて、納税者の請求を棄却しました。

単に賭けを大量かつ継続的に行うにとどまらず,例えば,回収率が総体として100%を超え,年間を通じての収支で利益が得られるなど,継続的かつ確実に利益を上げることができると客観的に評価し得る状況に至った場合には,もはや,偶発的,単発的な利益の積み重ねにとどまるものではなく,利益の獲得を目指した目的的行為の性質を有するものとして,「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」に当たるというべきである。

※「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」→雑所得

本件では、外れた賭け金を含めると終始は毎年赤字なので、上記枠組みの下では雑所得に該当しないということです。

なお、反復継続性については、年間を通じてほぼ毎日、トータルで数千回の賭けが行われていたので、主要な争点になっていません。

所感

判決文をまだ読んでいないので論旨を正確に把握できていませんが、利益が出ていなければ「営利を目的とする継続的行為」といえないというのは疑問です。最高裁判決は、利益の有無が要件であると言っているわけではなく、利益については、「営利を目的とする継続的行為」を推認させる事実として当該具体的事案の下で判断したものと思われます。

地裁判決では、外れた賭け金も含めて収支を計算して利益が出ていないと事実認定をしていますが、そもそもこのような収支を計算すること自体が一時所得であるとする結論と矛盾している気がします。判決に対して使う言葉ではありませんが、"主張自体失当である"ような感じです。

もとより担税力のない者に対して課税をすることは、租税理論と相容れないはずです。本件の納税者の収支は赤字であるのに、2億円超を支払えというのは余りに過酷な結果を招来するのではないでしょうか。ギャンブルの是非はさておき。

前記最高裁判決も最高裁で納税者が逆転勝訴した事案です。筆者は、地裁判決の時点から違和感がありました。今回も同様です。

ギャンブルについては、善良な風俗との関係もあり、なかなか立法的な解決に至らないのだと思っていますが、IR(統合型リゾート)のカジノの話もありますし、曲がり角に来ているのではないかと思います。

ちなみに、アメリカの連邦税制では、ギャンブルの損失は問題なくギャンブルの収入と相殺できます。日本のようにまどろっこしい議論はありません。

会計検査院の検査結果

蛇足ながら、会計検査院は、国税庁に対して、競馬の払戻金について、しっかり課税できるようにしなさいと指摘しています。

これを受けて、国税庁は税務調査を強化することとしています。





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