見出し画像

0→1フェーズで最も重要なサービスコンセプトのつくり方 | 実プロジェクトの事例付き

サービスを0→1でつくる上でまず必要になるのが、サービスのコンセプトづくりです。

いままで自社事業や様々な企業との共同プロジェクトを通じてサービスづくりに取り組む中で、サービスのコンセプトづくり、すなわちコンセプトメイキングのプロセスにもある種の型があることに気付きました。

このnoteでは社内ドキュメントである「サービスコンセプトのつくり方」の内容を一部NDAでシェアできない資料を除いて全公開します。

<コンセプトメイキングの大前提>

🧐 STEP1:コンセプトとは何かを知ろう


コンセプトが何かを知る上で、コンセプトの立ち位置と役割を知ろう

コンセプトそれ自体は様々な形があり、非常に漠然としている。

なので、コンセプトがそれ以外の要素とどういった関係にあるのか、どういった役割を果たすのかという観点からコンセプトとは何かを理解しよう

まずサービスアイデアは下図のような構造を持っている

あるビジョンを実現するために、ターゲットユーザーの課題やインサイトを発見し注目し、それを解決するためのコンセプトを打ち立て、それを具体的なユーザーフロー・技術選定・オペレーション設計などの具体策を持って実現していく。

逆から見ると、具体策により「コンセプト」は実現し、「コンセプト」により「ターゲット」の「課題」は解決され、「課題」解決によって「ビジョン」が実現するという構造をサービスは持っている

ここでポイントは、たとえどんなに面白い着想であっても、このフレームで整理できなければコンセプトとは言えないということ。つまり、コンセプトは単なる思いつきではなく「ビジョンの実現に向けて課題を解決する新しい視点」のこと

ではコンセプトそれ自体がどんな姿をしているかというと、「20文字以下の端的なタグライン」のカタチをとっている。サービスデザイン文脈ではUVP(Unique Value Proposition)と言い換えても意味合いは近いと思う


過去のプロジェクトの例で理解しよう

THE SANCTUARY(※)の例
※ AR/VR横断で観光地のデジタルツインデータを活用した観光プラットフォームサービス (β版の開発と実証実験が完了しており未リリース)

※ 社内ドキュメントでは企画書添付


コンセプト自体への理解を深めるための本を読もう

コンセプトそれ自体への理解を深めるために、以下の本を読むのがおすすめ。
上のコンセプトのフレームも基本的には以下の本をベースに改変する形で作成しています。


🧠 STEP2:思考のモードを選ぼう


コンセプトを考えるルートは2つある


コンセプトを考えるための思考ルートには大きく分けて2つある。

すなわち、

① ビジョン思考ルート
② デザイン思考ルート

の2つである。

まず、思考法は思考の起点と目的という2つの軸で以下の4つに大別できる

ゴールを描くことに重きを置くビジョンドリブンか、特定の課題の解決法を考えることに重きを置くイシュードリブンかというヨコ軸、0→1で新しい価値を生み出すための思考か、すでに価値あるものを1→∞で伸ばすための思考かというタテ軸。

この中で、0→1の創造にあたるコンセプトメイキングにおいては、ビジョン思考とデザイン思考のベストな方をプロジェクトの特性に合わせて選んで考えていく。

出典:「直感と論理をつなぐ思考法」


サービスアイデアの構造と2つの思考法の対応

サービスアイデアの構造の中において、ビジョンを起点にコンセプトづくりをした方が良い場合はビジョン思考を、イシューを起点にコンセプトづくりをした方が良い場合はデザイン思考を選択する。

ここでのポイントは、それぞれの思考法はサービスアイデアの要素のどこを起点に考えるかという違いであり、最終的にサービスアイデアの構造の各要素を考え切るという点は変わらない


2つの思考法のKey Questionの違いを知ろう

ビジョン思考のKey Questionは「What If Question」

以下のような「もしも◯◯なら?」という制約を外す問いによって、妄想を膨らませる

課題感が漠然としている状態で、自分たちが作りたい未来を明瞭化し、その作りたい未来からコンセプトを考える際に有効な問い。


例)もしも主要都市にARクラウドがフル整備されていたら、観光はどう変わるか?

例)もしも全ての人がARグラスを持っていたらコミュニケーションはどう変わるか?

例)もしも完全なメタバースが実現したら自宅での買い物はどう変わるか?

例)もし自由に100億円つかえるならどんな体験をつくるか?

例)もし3年間自由に時間が使えたらどんなことをするか?

デザイン思考のKey Questionは「How Might We Question」

一方で具体的なビジネス上・ユーザー的な課題が存在する際に使うデザイン思考では、以下のような「どうすれば◯◯できるか?」という解決策を見出す問いによって、鮮やかな解決の方向性≒コンセプトを見つけにいく

ここでのポイントはHowを問いかける「How Might We Question」においては、具体的なIssueが明確になっており、その上でHowを考えるという構造になっている点。


例)どうすれば我々は、現地にいない人たちでもワクワクしながらその地を観光でき、実際に現地に行ってみたくなる体験を提供することができるだろうか?

例)どうすれば我々は、Zoomよりも圧倒的に相手の感情の機微が伝わるコミュニケーション体験を提供することができるだろうか?

例)どうすれば我々は、ファッションブランドの店舗を、もっとブランドの世界観を体感できる場にすることができるだろうか?

ベストな思考法を選ぶためのガイドライン

プロジェクトにおいて、ビジョン思考とデザイン思考のどちらの思考法を選択するかの判断軸は以下の通り。

ただし、これはあくまでガイドラインであってルールではないので、必ずしも以下の分岐に従う必要はなく、プロジェクトやチームの条件に合わせて最適だと思う思考法を判断して使うようにしよう。

💡 上級編にて後述するが、理想的にはビジョン思考とデザイン思考の両刀使いができることが究極的には望ましい。ビジョン思考にて目指すべきビジョンを明らかにすることで今の課題を浮き彫りにし、その課題を解決するためのソリューションとしてのコンセプトをデザイン思考によって見つけ出すというアプローチだ。 しかし、二刀流の宮本武蔵が右手、左手それぞれの片手剣を極めることで最終的に卓越した二刀流の剣豪になったように(※)、まずはそれぞれの思考法を個別で習得することで最終的に二思考の両刀使いを目指した方が、考え方の混同も避けられ企画者としての能力は高くなるため、以下それぞれの思考を個別で解説する。

(※)なぜそれまでの二刀流の剣士と違って宮本武蔵だけが二刀流であそこまで強くなったかに関して、宮本武蔵はまず片手剣で左右ともに並の剣士よりも強い状態を作ってからそれぞれ独立で強い両手の状態での二刀流を確立したが、それまでの二刀流剣士はあくまで利き手があった上で補助的にもう一本の刀を持つ二刀流だったため結果的に利き腕の動きは鈍り、非利き手は決定力に欠けるという点で大きく性質が異なると言われている。


ビジョン思考についての書籍を読んで全体像を掴もう

上記のビジョン思考とデザイン思考の整理は、BIOTOPE代表 佐宗邦威さんの「直感と論理をつなぐ思考法」を参考にしている。

ビジョン思考への理解をさらに深めたい人は是非一読をオススメする。


2つの思考法に共通して大切なこと

① 右脳から考え、左脳で磨くの繰り返し

ビジョン思考、デザイン思考どちらのルートにおいても大事なのが、右脳で企画を考え、左脳でロジカルチェックするという脳の使い方。 左脳でロジカルシンキングのみで考えていると、正しいけど面白くない企画になってしまいがち。

② コンセプトを考え抜く担当を明確に決める

仕事の原則として担当が決まっていない、"みんなでやる仕事"から良いアウトプットが生まれることは絶対にない。

それはコンセプトメイキングも同じで、誰かを明確にコンセプト企画の責任者になるべき。

その責任者が、良いコンセプト企画を生むための最終責任を負い、個人のインプットや思考の時間も十分に取って企画を考え抜くことが必要。

もちろんプロジェクトのチームメンバーはブレストという形で協力を惜しまないが、ブレストはあくまでアイデアの幅を広げたり、とっかかりを見つけるなどのインスピレーションとして用い、最終的な企画アイデアは必ず責任者が魂を込めて作り上げる。

責任者はシニアクラスのメンバーであれば1人、ミドル・ジュニアクラスであれば2人でタッグを組んで取り組もう。ただし、その際も2人のブレストで決めきろうとせず、必ず個々でしっかり考え抜いた案を持ち寄ってブラッシュアップしていくようにしよう。

③ アイデアのクオリティは広げて絞った幅と回数でほぼ決まる

アイデアを考えるときに拡散と収束を繰り返すというのは良く言われることだが、良い企画が生まれないときは大抵、拡散フェーズでの広げる幅が狭すぎるか、拡散・収束のサイクルが少なすぎるかのどちらか。

とにかく大きく広げる。そして、広げて絞るを狂ったように繰り返す。

④ 基本となる発想法のツールキットを持っておく

クリエイティブなアイデアを考える上で「銀の弾丸 (何にでも使える最強の手段)」はないが、それでもマンダラートやマインドマップ、オズボーンのチェックリストなどなど、基本となる発想のツールキットは持っておくべき。

以下の本をサッと読んで頭の中のガレージに基本ツールは入れておこう。

※ 上の順ほどベースの考え方も含むので順番に読むのがおすすめ

アイデアのつくり方

アイデアのヒント

考具 考具シリーズ

101デザインメソッド ―― 革新的な製品・サービスを生む「アイデアの道具箱」

アイデア大全


いざ、ベストなルートで企画の旅へ

さあ、コンセプトについての理解や、2つの思考法の使い分けが理解できたら、早速ベストな思考ルートで企画の旅に歩みだそう。

⇒ A)ビジョン思考ルートへ

⇒ B)デザイン思考ルートへ


<A)ビジョン思考ルート>

🔬 STEP3:遠くへ妄想するために、まず今と過去を知ろう


遠い未来を見通すためには、それと同じだけ過去の歴史を知る必要がある。

今と過去に対する理解の解像度と射程が高ければ高いほど、遠い未来を解像度高く見通すことができる。

まずはそのプロジェクトの直接のテーマや、アナロジー的に関係するテーマに対して、以下のような手法の組み合わせで、今と過去に対する解像度を上げよう。

目安として、コンセプトメイキングのメイン担当メンバーや、プロジェクトのプロデューサーは以下のアクションに合計15時間は最低でも取ろう。そのために、まずプロジェクトが動き出したら以下アクションのための時間をカレンダーでブロックして確保してしまおう。

  • 文献・デスクトップリサーチ
    観光やファッションなど、サービスが対象としているテーマ・領域の歴史や哲学、トレンドなどを書籍やデスクトップリサーチでひたすらインプットし、その領域において社会はどこに大きく向かっているのか?、大切なのはどういった要素なのか?、何が本質として残り続ける要素なのか?を見定める。

  • フィールドリサーチ
    実際にそのテーマが関係する場所に訪れて観察をしてみる。例えば、ショッピングがテーマであれば買い物売り場を、観光がテーマであれば身近な観光地に訪れてみてそこで数時間、場合によっては1日じっくりそこで起こる出来事や、人々がどう行動し、反応しているかを観察する。

  • サービス体験
    そのテーマで現状すでにあるサービスを実際に体験してみる。そのサービスでうまくいっていることは何か?、どういったニーズはすでに十分に満たされていて、反対にどういったニーズはまだ満たせていないのか?、直接的なサービスでなくてもどういった代替手段をどう使ってニーズを満たしているのか?などを徹底的にリサーチしたり実体験して見つけ出していく。

🤔 STEP4:自分の内面と深く向き合い、ビジョンを見つけよう


What If Questionを携えて、ONE DAY ソロ合宿を行おう

強いビジョンは、チームブレストなど民主的なアプローチからは生まれない。

1人の個が自身とじっくり向き合って熟考し、その深い思考の中からパッと天啓のように降りてくるものである。

これは本来プロセスに落とし込めるものではなく、コンセプトメイキングに責任を持つチームメンバーがプロジェクト毎につくるWhat If Questionを常に頭の中で考えながら日々思考し生み出すべきものなのだが、あえてプロセス・メソッドに落とし込むとすれば、1日まるまる時間を使って1人合宿をして考えるという手法は有効だと思う。

温泉宿や海沿いのカフェなど、普段仕事している場所とは違う場所で1日、まっさらな大きめのノートに乱雑に考えをとにかく書き出しながら、カオスの中で実現したい未来像としてのビジョンを見つけていく。

このときの実務的なポイントが2つ。

  • 締め切りがない熟考からアウトプットは生まれないので、合宿を入れると同時に、合宿明けにチームに考えを披露するMTGを押さえて自分に対して締め切りを設けよう。 (これをやらないと、気づいたら温泉やビーチを楽しんだだけだったという結果になりがち)

  • 平日に1日時間が取れない場合は、休日にソロ合宿を行ってあとから平日休もう。

❔ 【 再掲)What If Questionの例 】
「もしも◯◯なら?」という制約を外す問いによって、妄想を膨らませる。

例)もしも主要都市にARクラウドがフル整備されていたら、観光はどう変わるか?

例)もしも全ての人がARグラスを持っていたらコミュニケーションはどう変わるか?

例)もしも完全なメタバースが実現したら自宅での買い物はどう変わるか?

例)もし自由に100億円つかえるならどんな体験をつくるか?

例)もし3年間自由に時間が使えたらどんなことをするか?


目指したいビジョンが決まったら、それをゴールデンサークルの形にブラッシュアップしよう

目指したいビジョンが決まったら、サイモン・シネックのゴールデンサークルのフォーマット、WHY→HOW→WHATの形に仕上げてビジョン解像度を上げるとともに、自分以外のメンバーもワクワクできるような形にブラッシュアップしよう。

【 サイモン・シネックのゴールデンサークル 】

WHY:どんな世界を目指すのか
HOW:世界を変える方法(ざっくりどうやってその世界を実現するのか)
WHAT:その結果作られるサービス(具体的にいうとどんな体験なのか)

【 アップルのゴールデンサークルの例 】

アップルならこんな風に伝えます 「我々のすることはすべて 世界を変えるという信念で行っています。 違う考え方に価値があると信じています。(WHY) 私たちが世界を変える手段は 美しくデザインされ 簡単に使えて 親しみやすい製品です。(HOW) こうして素晴らしいコンピュータができあがりました(WHAT)」 一つ欲しくなりませんか? 全然違うでしょう? 買いたくなりますよね? 今したのは 情報の順番を逆にすることでした これが示すのは 人は「何を」ではなく 「なぜ」に動かされるということです 人は「何を」ではなく「なぜ」に動かされるのです。


【 THE SANCTUARYのビジョン例 】

WHY:どんな世界を目指すのか(なぜこのPJTをやるのか?という意味でのWHY)
距離の制約に縛られずに訪れたい場所を存分に楽しめて、本当に自分が好きになれる場所に実際に訪れることができる世界

HOW:世界を変える方法(ざっくりどうやってその世界を実現するのか)
サイバー・フィジカル融合の新しい観光体験をつくる

WHAT:その結果作られるサービス(具体的にいうとどんな体験なのか)
現地のAR体験と、離れたVRユーザーが一緒に観光地での体験を楽しめるサービス


WHYだけでなく、ざっくりWHATも含むものがビジョン

ビジョンの粒度は人によってまちまちなのだが、サービスづくりにおいては上記のようにWHY(=目指す世界像)だけでなく、ざっくりのHOWとWHATも含んでビジョンを考えた方が、そのあとのサービスコンセプトを考える上でのちょうど良い制約になると思っている。

HOWがWHATが上記で決まっているとはいえ、そのサービスのコンセプト(≒UVP)は無限のバリエーションが考えられる。

もちろんコンセプトを考える上で、ここで決めたビジョンのWHATやHOWをあとから変えることも必要に応じて行う。


ビジョンを絵にしよう

妄想とビジョンの違いは、その理想像を自分だけでなく他の人も頭の中にありありとイメージを思い浮かべられるかどうか。

ビジョンを言葉のレベルで整理できたら、それをビジュアル化して、チームメンバーや関係者が同じレベルで頭の中でその理想像を描けるようにしよう。

例)THE SANCTUARYのビジョンイメージ

ちなみに上記はあくまで大きく目指したい方向性=ビジョンであって、まだサービスのコンセプトレベルにはなっていない。

サービスのコンセプトは以下3つを満たすものである。

  1. 明確で独自な強みになっている このサービスが他サービスよりも圧倒的に優れている明確な理由になっている(UVP)

  2. 課題解決になっている そのコンセプトによって、ターゲットの課題が解決される

  3. 体験の方向を規定する そのコンセプトを噛み砕くと、具体のユーザーフローに変換される


【 THE SANCTUARYの例 】
※ THE SANCTUARYのサービスコンセプトは以下PDF参照

1. 明確で独自な強みになっている
通常のVR観光サービスに決定的に欠けている点を解決する形で、なぜ既存VR観光サービスではなくTHE SANCTUARYを使うのかの明確な理由になっている

2. 課題解決になっている
「旅行先で失敗したくないので、手軽かつ高い精度で下見をしたいが、現状の手段は楽しくない上に行きたいという気持ちにならない」という課題に対して、遊べる・泣ける・デジタルツインという軸によって解決を図っている

3. 体験の方向を規定する
遊べる・泣ける・デジタルツインという体験の軸を因数分解し、シークエンス化していくと、実際のユーザーフローに落とし込むことができる。

例)THE SANCTUARYのサービスコンセプト

※ 社内ドキュメントではコンセプト資料添付



再掲)THE SANCTUARYのサービスアイデアの全体像


💪 STEP5:ターゲット・課題、そのためのコンセプトを一気に考える


コンセプトを考えるための大まかな道のりを知ろう

これからコンセプトを考えていくわけだが、細かいメソッドに入る前に、まずはプロセスの全体像を知ろう。

ビジョンを起点にしたコンセプトメイキングは大きく以下の3ステップで行っていく。

🗺️ ビジョン起点のコンセプトメイキングの3ステップ

1. ビジョン = 理想の世界像をもっとも切望している人は誰かを考えて、ターゲットを設定する

2. なぜそのターゲットは新しいその世界像を必要としているかという観点から課題・インサイトを設定する

3. その課題・インサイトを解決しつつ、ビジョンを実現するためのコンセプトを考える

再掲)ビジョン起点のコンセプトメイキング


「わがまま」→「思いやり」へのモードの転換

ビジョンが決まったあとの残りの項目を考える上でのポイントは、「わがまま→思いやり」の転換。

ビジョンは「自分自身がどうしたいのか?」というある種のわがままで考えるべきだが、そこから先はビジョンを軸にしながらも自分本位になりすぎず、ターゲットのことをじっくり考える「思いやり」を持ってプランニングしていくことが重要。

参考)「考具」P22~P24


コンセプトを考える方法

「コンセプト≒UVP」を考えるためのアプローチは無数にあるが、自分がよく使う手法は以下の2つ。

① いままでのやり方のダメなところの言語化とその解決を考える

以下のような思考プロセスで、ビジョンを実現するにあたって、いままでのやり方のうまくいっていない点を考えて、それを反転させる形でコンセプトを考える方法。

  1. ビジョンの再確認

  2. ビジョンの分解・具体化

  3. いままでのやり方=比較対象の選定

  4. いままでのやり方のダメなところの言語化

  5. ダメなところを反転させる形でコンセプトの切り口を発見する

  6. コンセプトの妥当性を別角度から検証

  7. コンセプトの発見


THE SANCTUARYのときの思考の流れの一部

サイバー・フィジカル融合の新しい観光体験をつくりたい(ビジョン)
 ↓
そのためにはまず、ユーザーが楽しんでVR観光をする状態を作りたい(ビジョンの分解・具体化)
 ↓
いままでのVR観光サービスにはなぜそれができていないんだろう?(いままでのやり方=比較対象の選定)
 ↓
いままでのVR観光サービスはただ空間を見て回るだけで目的や遊びがないので面白くない(いままでのやり方のダメなところの言語化)
 ↓
遊びやゲーム性によって目的のあるVR観光体験であればユーザーは食いつくんじゃないか?(そのダメなところを逆転させてみることでコンセプトの切り口の発見)
 ↓
そういえば、観光でも物理的な空間/場所に行った上で何をするか(目的)が大事なのでこの発想は正しそうだ(そのコンセプトの切り口の妥当性を別角度から検証)
 ↓
では、「遊べる」というのをコンセプトの軸の一つに据えよう!(コンセプトの発見)


ここでの肝は、いままでのやり方のうまくいっていない点を考える部分。

なぜなら、いままでのやり方の作り手も失敗の理由が明確になっていれば何かしら手を打っているはずなので、うまくいっていない理由の特定の部分には高度なクリエイティビティが求められる。

うまくいっていない点を考える際のコツは、以下の2つ

1)前提を疑う(以下のSpaceXの例を参照)

2)自分自身がユーザーの気持ちになって徹底的にいままでのやり方を体験する(THE SANCTUARYの時のアプローチ)


SpaceXの例

人類を火星に移住させたい(ビジョン)
 ↓
いままでのNASAのロケットはなぜそれができていないんだろう?(いままでのやり方=比較対象の選定)
 ↓
毎回ロケットを使い捨てていて、コストが高すぎるから宇宙開発が進んでいないんだ(いままでのやり方のダメなところの言語化)
 ↓
毎回打ち上げ後に戻ってきて使い捨てずに再利用できるロケットをつくれば宇宙開発が進むんじゃないか?(いままでのダメなところの反転とコンセプトの発見)


② 他の領域でうまくいっていることの転用(Analogous Inspiration)

以下のような思考プロセスで、ビジョンを実現するための難所を乗り越えるにあたって、構造的に参考になりそうな対象を見つけ、そのアナロジーの対象がうまくいっているパターンを特定し、そのパターンを企画に転用できないかを考えることでコンセプトを考えるという方法。

  1. ビジョン

  2. ビジョンの分解・具体化

  3. アナロジー = 構造的に似ていいる対象の発見

  4. アナロジーの対象でうまくいっているパターンを考える

  5. アナロジーの対象でうまくいっているパターンの発見

  6. コンセプトの発見


THE SANCTUARYのときの思考の流れの一部

サイバー・フィジカル融合の新しい観光体験をつくりたい(ビジョン)
 ↓
そのためには、VR体験をしてから実際に現地に行くという流れを作りたい(ビジョンの分解・具体化)
 ↓
VR体験をした空間に実際に行ってみたくなるのはどういうときだろう?
 ↓
VR体験をした空間に実際に行くというのは、一度行った場所にもう一度訪れる行為に近いんじゃないだろうか?(アナロジー = 構造的に似ていいる対象の発見)
 ↓
もう一度その場所に訪れたいと思うような場所にはどういったパターンがあるだろうか?(アナロジーの対象でうまくいっているパターンを考える)  ↓
特に豪華な場所でなくても、自分自身と向き合い、感動したとき、自分の内面が大きく動いたときにその場所にもう一度行きたくなる。例えば、海外旅行で行った小さな協会でも、そこで自分と向き合い、感情が大きく動くと忘れなくなる。(アナロジーの対象でうまくいっているパターンの発見)
 ↓
では、自分と向き合い、感情を揺さぶられる、究極的には泣きたくなるVR観光であれば、その空間に実際に行ってみたくなるんじゃないだろうか?(コンセプトの発見)


コンセプトが決まったら企画書化する

以下のような流れの企画書を作成してみて、全体の流れがキレイにつながっているかを確認する。

そこで企画のストーリーに美しくない部分があればステップを遡りながら企画を練り直す。

📑 <OUTPUT> 企画書(企画提案資料にあたるもの)

どういったビジョンを目指すのかと、それをどういったサービス・体験として提供するのかを定義した資料

含める要素
1. ワクワクする企画タイトル
2. 相手企業の状況整理(いまあなたたちはこういう状況で今後こういうの必要ですよね?)
3. 背景となる目指すビジョン(だからこういう未来を一緒に目指しませんか?)
4. コンセプト概要(それを実際に叶えるアイデアがこれです)
5. なぜそのコンセプトが受け入れられるかというロジックとしてのターゲットと課題・インサイト(ターゲットはこういう人で、こういうものを求めています/こういうことで困っています。だから先のコンセプトを欲するはずです)

※ 4と5は自身の好みや相手のタイプによって入れ替えても良い。ビジョンを実現する上でこういうターゲットのこういうインサイトに応えていくことが必要です、それを実現するコンセプトがこれです、という流れ。



🎨 STEP5:具体の体験・表現に落とす


体験シークエンスとVコンをつくる

以下資料のような体験シークエンスをつくってスライドでまとめる。

各シークエンスでなぜそういった機能・表現を選定しているかは全て理由を明示しておくようにする。

体験シークエンス.mov(社内資料でのみ公開)


さらには体験シークエンスをVコン化して、目指す体験のイメージをチームやパートナー企業で高い精度で揃った状態をつくる。

THE SANCTUARYのVコンの例)

Digital Twin Tourism Vコン(社内資料でのみ公開)


クリエイティブディレクターやアートディレクターと一緒に体験をビジュアル化する

この段階まで来たらクリエイティブディレクターやアートディレクターにサービスのコンセプトをビジュアル化してもらい、サービスの世界観やLook&Feelのレイヤーも詰めていこう。

THE SANCTUARYの世界観・ビジュアルのディレクションの例)

以下はMESONで多くのプロジェクトのクリエイティブディレクションやMESON時代のBIをお願いしているFOMALHAUTの長田桂太さんによる資料の抜粋。



<B)デザイン思考ルート>

デザイン思考ルートで考える対象のプロジェクトの特性として、特定のイシューを解決したいというモチベーションからプロジェクトが発足されており、プロジェクトのスコープ期間が短い(短期でビジネス的成果を出す必要がある)という特徴がある。

そうした前提の元で、以下デザイン思考ルートの流れを解説する。

再掲)ベストな思考法を選ぶためのガイドライン


🗺 デザイン思考ルートの全体像


デザイン思考的なコンセプトメイキングはざっくりと以下図のようなステップをたどる。

※ 直線的なプロセスではなく何度もステップを行き来する中で作り上げる。

デザイン思考については多くの書籍やドキュメントで解説がされているため、このドキュメントでは大まかな流れを解説するに留め、その代わりにデザイン思考を学ぶためのブックガイド・ドキュメントガイドを最後に掲載する。


参考)


📝 STEP3:プロジェクトの目的や制約を明らかにする


プロジェクト発足の背景を明らかにする。

そのために、プロジェクト発足に関わった人たち(例. パートナー企業の)にヒアリングを行う。

デザイン思考が最適なケースではある程度ビジョンがパートナー企業側で言語化できていることがある。しかし、いずれにしても短期的な時間軸でビジネス的効果が求められる中で、ビジョンよりもターゲットと課題・インサイトのレイヤーを主軸にコンセプトメイキングを進めていった方が良い結果に繋がりやすいため、このヒアリングがある程度済んだらSTEP4に進む。


🧲 STEP4:考えるための材料を集める


徹底的に対象の分野とユーザーを研究する

まずはそのプロジェクトが対象とするユーザーの行動・心理や、そのプロジェクトが対象とする分野を以下のような手法の組み合わせで徹底的に研究する。

目安として、コンセプトメイキングのメイン担当メンバーや、プロジェクトのプロデューサーは以下のアクションに合計15時間は最低でも取ろう。そのために、まずプロジェクトが動き出したら以下アクションのための時間をカレンダーでブロックして確保してしまおう。

  • ユーザーインタビュー
    対象ユーザーの普段の行動や、心理をいくつかの質問を用意して明らかにしていく。
    その際に以下のポイントを意識する。

    • インタビューは事実・感情・価値観の順に聞く(参考

    • 誘導したりバイアスをかけるような質問をしない

    • ユーザーの話の中断をしたり、沈黙を破ることはしない

    • 参加者に入れ知恵をしたり、自分の意見を言ったりしない


  • 文献・デスクトップリサーチ
    そのプロジェクトが対象としているテーマ・領域の歴史や哲学、トレンドなどを書籍やデスクトップリサーチでひたすらインプットし、その領域において社会はどこに大きく向かっているのか?、大切なのはどういった要素なのか?、何が本質として残り続ける要素なのか?を見定める。

  • フィールドリサーチ
    実際にそのテーマが関係する場所に訪れて観察をしてみる。例えば、ショッピングがテーマであれば買い物売り場を、観光がテーマであれば身近な観光地に訪れてみてそこで数時間、場合によっては1日じっくりそこで起こる出来事や、人々がどう行動し、反応しているかを観察する。

  • サービス体験
    そのテーマで現状すでにあるサービスを実際に体験してみる。そのサービスでうまくいっていることは何か?、どういったニーズはすでに十分に満たされていて、反対にどういったニーズはまだ満たせていないのか?、直接的なサービスでなくてもどういった代替手段をどう使ってニーズを満たしているのか?などを徹底的にリサーチしたり実体験して見つけ出していく。

❓STEP5:インサイトを統合して解くべき問いを見つけよう


前のステップで見つかった学びをポストイットに書き出し、グルーピングしながらインサイトを見つけていく。そしてそれらインサイトをさらに統合する形で解くべき問い(How Might We Question)を定めていく。

ポイントは、解くべき問い(How Might We Question)は最初からつくらず、この段階になって初めてつくる。なぜなら解くべき問いを決める時点である程度の企画の方向性が収束してしまうからだ。


このステップについては過去サービスデザインコンサル時代のワークショップで扱っているため以下該当箇所の抜粋PDF参照


💡 STEP6:インスピレーションセッションを開こう


定義した問いの答えをいきなり考え始める前に、頭の中にもう一度考えるための材料を仕入れるステップとして以下アクションを行うインスピレーションセッションをチームで設ける。

その問いを考えるにあたっての引き出しを多くしてからアイデア出しをすることで、狭い視野でアイデアを考えてしまう事態を回避できる。

  1. 参考になるサービスを触りまくる

  2. 参考になる場所やお店に行く

  3. 参考になる書籍や記事を読み込む


🤔 STEP7:How Might We Questionに答えるコンセプトを考える


主に以下2つの思考法でHow Might We Questionに答えるコンセプトを考える。

① アナロジーによる発想法

※ ビジョン思考パートでの解説を参照


② バイアス破壊

バイアス破壊による発想法については上述のワークショップ資料から抜粋した以下PDFを参照


🎨 STEP8:具体の体験・表現に落とす


体験シークエンスとVコンをつくる

以下資料のような体験シークエンスをつくってスライドでまとめる。

各シークエンスでなぜそういった機能・表現を選定しているかは全て理由を明示しておくようにする。

体験シークエンス.mov(社内資料で限定公開)

さらには体験シークエンスをVコン化して、目指す体験のイメージをチームやパートナー企業で高い精度で揃った状態をつくる。

THE SANCTUARYのVコンの例)

Digital Twin Tourism Vコン(社内資料で限定公開)


デザイン思考ルートの参考書籍・ドキュメント

📖 デザイン思考ルートのプロセスや考え方については、すでに多くの書籍やドキュメントでまとめられているため、上記プロセスの解説は最小限に留めた。 そのため以下に参考書籍やドキュメントを紹介する。


<上級者向けガイド>

ビジョン思考とデザイン思考は両利きで使うためのガイド

上記でビジョン思考とデザイン思考を分けて解説したが、厳密にはビジョン思考とデザイン思考のどちらか一方のみを使うという訳ではなく、まずビジョン思考で大きなビジョンを見つけにいき、そのビジョンに到達する方法をデザイン思考で見つけるという両利きの思考法を取った方が上手くいく場合が多い。

その場合の思考のフローとしては以下


ビジョン思考・デザイン思考ハイブリットな思考フロー

  1. ビジョン思考のSTEP3:遠くへ妄想するために、まず今と過去を知る

  2. ビジョン思考のSTEP4:自分の内面と深く向き合い、ビジョンを見つける

  3. ビジョン思考のSTEP5のフェーズで、デザイン思考のSTEP5〜7の考え方もミックスして用いる

    1. ビジョン思考のSTEP5:ターゲット・課題、そのためのコンセプトを一気に考える

    2. デザイン思考のSTEP5〜7のステップ:

      1. STEP5:インサイトを統合して解くべき問いを見つける

      2. STEP6:インスピレーションセッションを開く

      3. STEP7:How Might We Questionに答えるコンセプトを考える

  4. ビジョン思考のSTEP6=デザイン思考のSTEP8のフェーズで具体の体験・表現に落とす


できる人のヨコで一度やろう

コンセプトメイキングを取得するための一番の方法は、それに長けた人の横で実際に一緒にやってみること。

社内の習得者と一緒にコンセプトメイキングをやる中で自身も習得者を目指そう。


<参考文献>

上からざっくり参考にしている順

直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN

右脳思考 内田和成の思考

「デザイン思考」を超えるデザイン思考 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文

アイデアのつくり方

アイデアのヒント

この1冊ですべてわかる プランニングの基本

考具 考具シリーズ

101デザインメソッド ―― 革新的な製品・サービスを生む「アイデアの道具箱」

アイデア大全

21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由

発想を事業化するイノベーション・ツールキット ―― 機会の特定から実現性の証明まで

デザインアート思考 使い手のニーズとつくり手のウォンツを同時に実現する10のステップ

デザイン思考の教科書 欧州トップスクールが教えるイノベーションの技術


さいごに

毎週 1時間Zoomで、UXデザイン、サービスデザイン、サービスグロースに関するメンタリングの依頼をお受けしています。ご興味ある方はTwitterやFacebookでお気軽にご連絡ください!

Twitterアカウント

▶ Facebookアカウント

また、継続して今後の記事を読まれたい方は、サービスのグロースやデザインについての国内外の最新記事をシェアしたり議論するFacebookグループをやっているので、興味ある人は是非ご参加をお願いします。
Growiz.us - Growth + UX Design



AIやXRなどの先端テック、プロダクト戦略などについてのトレンド解説や考察をTwitterで日々発信しています。 👉 https://twitter.com/kajikent