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小骨を抜く、ということ

仕事柄、魚を捌く機会には恵まれている。
普通の言い方をすれば、魚を捌くのがほぼ仕事であったりする。

切り身魚を用意する場合、背骨や腹骨はもちろんのこと極力小骨も取り除く。高級な魚、上品な料理であるほどその傾向は強い。当然食べやすくするためである。

サケであれ、サバであれ、中骨が残っているとなかなかパクり、とはいけない。サバともなると刺さればそれなりのダメージを伴う。

しかし、しかしである。
安全性という観点から見れば、危険を生み出しかねない骨を除くのは正しいし、思いやりのある行為なのだが、脊椎動物には骨が存在するという周知の事実をどこかでは"体験として"確認して欲しいとも思う。

シシャモやイワシでも別に構わないのだが、たまにはもう少し大きめの魚はどうだろうか。

美味しそうな料理を目前に急く気持ちを抑えねばならない苦悩はわかる。確かに骨を取りながら食べるのは面倒である。

食育、なんて大層なものではなくていい。

昔の人は「尾頭付き」が良いものだ、という風なことを言い、それは「ハレ」に通ずるものであったのだろう。

もし、時間があるならば骨を外しながら、ゆっくり魚と向き合い、生き物を、命を食し糧としていることを実感する"贅沢"を味わうのも乙なものだと思うのだが、消費者の要望はそうでもない。

とはいえ、「骨の無いものを食べたければ、タコやイカを食え」などと云う暴論を僕は吐かない。

彼らにもそれ相応のプライドと云うものがある気がするからだ。


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