マガジンのカバー画像

シリーズ『TRIGGER』

6
本編4作品、スピンオフ2作品からなる怪奇短編小説シリーズ
運営しているクリエイター

2020年9月の記事一覧

『続 水占 -人形- 』

『続 水占 -人形- 』

僕は真っ暗な部屋で天井を見上げていた。
どれくらいこうしているのだろう。
目を開けているのか、それとも閉じているのか分からなくなっていた。
ベッドの上で繰り返し見る「あの夢」のことを考える。

そもそも夢とは何なのだろう。
あたかも現実の経験であるかのように感じる、一連の観念や心象、また睡眠中にもつ幻覚と云うことらしい。

幻覚と想像の産物は、似ているようで随分とその本質は異なっているように思えた

もっとみる
『水占 -みなうら-』

『水占 -みなうら-』

日影は木々の間を抜け深緑色の淵の水面を照らしている。少年はその淵から流れ出るせせらぎにそっと両手を沈めていた。

流れてくるのは水の声。
そして草木の、そこに棲む生き物の声だった。
総じて山の声とでも云うのだろうか。

時には、そのどれとも違う声までもが流れてくる。それらを何と呼ぶのか、少年には分からなかった。

〈…アノコ、マタキテルヨ…〉

〈ウンウン、マタキテルネ…フフフ〉

少年は水のせん

もっとみる
『TRIGGER - 引き金 - 』

『TRIGGER - 引き金 - 』

紋峰 忍はコーヒーを飲みながらラップトップを開いた。

「確か、日本ではノートPCというのだったかしら」まあ、どちらでも構いはしない。

二年間のシンガポール勤務を終え、本社勤めに戻った忍はどうにも本社の近代的なオフィスに馴染めず、今日も社員食堂の窓辺の席にいた。

「重装建機株式会社」それが彼女の勤める会社の名だった。土木や建築工事作業に使われる大型建設機械を取り扱っていた。いわゆる重機とか建機

もっとみる