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星野源著『そして生活はつづく』

本を読んでいて、これほど衝撃を受けたのは初めてかもしれない。

これは告白本や暴露本の類ではない。
著者が音楽家兼俳優として、苦悩を続けた下積み時代から日本列島にその名を轟かせるまでの軌跡を綴ったエッセイである。
 
ではなぜ衝撃的なのか。
つまらない毎日でも生活を面白がること。それをユーモラスかつ軽やかなタッチで鮮やかに読者に届けているのだ。
 
例えば、「料金支払いはつづく」とタイトルがついたエッセイでは、携帯電話料金の請求書が自宅に届いているのを見て「払わなきゃな」と思いながらも、日々の忙しさに飲まれてしまうとすっかり忘れているという話。

今やその名前を知らない人の方が少ないスターでも、若かりし頃は私たちでもよくあるような些細なことで頭を悩ましていた。雲の上の存在なのに、それがまた愛おしく感じてしまう。
 
同じ日に5回キャッチに遭ったり、引っ越しを決意するも不動産業者に職業を怪しまれたり、ようやく治ったと思ったらまた違うところに口内炎ができてしまったり。

そんな何気ない日常を題材に書かれている中でも、著者ならではの音楽や映画、お笑いなどの話に脱線することもあり、それがまた面白い。
岡村靖幸、ブルース・ブラザーズ、桂枝雀など、これまで接してこなかった世界を著者を通じて体験できることがこのエッセイのもう一つの醍醐味ともいえる。
 
そして何より、著者の文才、ユーモアのセンスがこれほどまでだったとは、恥ずかしながら本作を手にするまで知らなかったのも事実である。

正直、本を読んでいてこんなに声を出して笑ったことは今までなかった。文章で人はこんなにも大笑いすることができる。それは細々ながらも書き続けてきた物書きの端くれとして、とても衝撃的だったのだ。
 
音楽、芝居、文筆。それぞれ表現方法に違いはあれど、すべてに共通するのは人を楽しませようとする心意気だ。それは著者の性分でもあり、華やかな世界の第一線で活躍するための必須要件なのかもしれない。

いずれにせよ、著者が皆に愛され、多くの人々に求められる理由がこのエッセイを読み終えた今なら分かる気がする。星野源。あなたはやはり、本物のスターなのだ。


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