短編小説 車
今の時代から少し未来の話をする、そう遠くはないだろう。
「お父さんなんで車使うの?」
家のガレージで年季の入った軽自動車にガソリンを入れている私を見て高校生の娘がふて腐れながら言った。
「たまには良いじゃないか、久々に乗ればわかるんじゃないかな」
苦々しくも私は言う。
今の時代車はもうほぼ無い、外には電気で動く無人カーがひしめいていて、お金を払い目的地を言えば勝手に連れて行ってくれる。免許もいらない。子供が勝手に行かないように成人から使える。私が子供の頃からそうだ。
この目の前にある車は曽祖父の物である。
今日は墓参りの日なので先祖に見せれればと思い骨董品を動かしてみる事にした。
ちなみにメンテナンスはそこそこしてある。他界した父から代々運転の仕方やメンテナンス等、渋々若い頃から無理矢理教えられているためいつでも使えるようにはなっているのだ。
妻と娘、3人で乗り込みエンジンをかけてアクセルを踏む。轟音が鳴り響きタイヤが動く。
娘は不機嫌そうに
「ひいひいお爺ちゃんもなんて物残したんだか、こんなうっさいし、振動が凄いし、空気が汚れる物、乗っててみんな見てくるし、ほら小さい子が指差してきた」
多感な時期に娘を乗せたのは間違いだったかもしれないがこれが良い事となってくれるのを祈る。
しかし私はそのような事を思う暇なく、車にナビがないので当然道がわからない、なのでわざわざ家からコンシェルジュのAIを連れてナビしてもらいながらたどたどしく進む。
曽祖父は聞くところによると銃とかいうのを作っていたらしくそこそこ財産があったらしい。
今ではその頃の銃はプレミアがつき、今では国の博物館に飾っていて戦争を終わらせた一つの象徴になったとか。
車は当時の家族との思い出の品だったらしく残すように、と遺書に書かれていてその効果は一生残り、もし車を放棄するなら国に寄付するそうな。
売れば私の代は遊んで暮らせるのに。
無人自動運転カーの間に走る骨董品軽自動車はかなり目立ち、他の人にたびたび動画を撮られながらも実家の霊園へ着いた。もちろん他の自動車には1度も合わなかった。
イライラしている娘と久々の骨董品自動車に疲れた妻を連れお参りを済ませて再び車に乗り込む。父や先祖に車見てもらえたかな?霊は信じないが気分の問題だ。お墓参りは私もこの家系の1人なんだと確認をしにきているような気がする。
帰り道はすでに暗くなり始めていた時、ドン!
と鈍い音がした。
街灯が消えて辺りが突然暗くなり。無人自動運転カーが止まる。
後ろから慌てた娘が大きな声で涙ながらに言ってきた。
「ネットのアクセス不良と発電所の不備があって半日は電気が使えないんだって!どうする?」
それを聞いて私は得意げに言う。
「これはな、電気使わないんだよ。人ひかないようにゆっくり帰るぞ。ひいひいじいちゃんに感謝しろよ」
今は使われていないLEDの明かりは暗闇の中とても暖かい光に感じた。
昔の人は最近あまり見ないが火にそのような感情を感じたとか。
後ろの席を見ると妻と娘は寝ていた。
不思議と揺れが心地いい。
ひいお爺ちゃんもやっかいな物を残してくれたもんだ。今度娘にメンテナンス教えよう、嫌がるだろうな。
私は1人優雅なドライブを楽しんだ。
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