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初夏への気分が沸き立つ稚鮎 芽吹きものの山菜で目覚める5月

琵琶湖で育った稚鮎(ちあゆ)。串打ちをして軽く塩焼きにしたところを、木の芽酢・酢おろしで味わっていただくと、なんとも春爛漫、初夏を迎える気分が沸き立つものです。からだを覚醒してくれる春の芽吹きもの、さまざまな山菜もご紹介します。

◆稚鮎

暮れから2月ぐらいまでの氷の張る季節は「氷魚(ひうお)」と呼ばれる琵琶湖の鮎。その後、背の色がだんだんと銀色から黒に変わっていきます。

氷魚の頃は、軽く揚げてみたり、酢炊きにしてみたり、佃煮にしたりしてもいいですね。

7~8センチほどの「稚鮎」の大きさになると、揚げてもいいのですが、うちでは塩焼きがおすすめですね。小さくても、鮎ならではの香魚の片鱗はみせています。


◆丸ごと味わえる稚鮎

500g単位で流通する稚鮎ですが、市場では5000円ほどでしょうか。多く出回るようになるとこなれていって、夏場には3分の1ぐらいの値段に落ち着いてきます。

その頃には河川での漁が解禁されて、鮎の季節が始まります。それまでの季節の先取りが「稚鮎」や「小鮎」ですね。

稚鮎は骨がやわらかく、そのまま丸ごと味わえます。笹の香りに包まれた「ちまき寿司」にしたり、小鮎ぐらいの大きさになってくると鮎寿司でお出しすることもあります。

◆琵琶湖で過ごす鮎の顔つきは…

通常の鮎は、海で生まれて川を遡上してきて、青春期を終えて子どもを産みます。その卵が孵化して海に流れていって、またかえったものが遡上してくる……というサイクルです。


一方の、河川のような性質をもっている琵琶湖で育った鮎は、孵化してどこかの川へ遡上するわけではありません。琵琶湖にほぼ居て、海を知らない鮎ということになります。

体長も通常の鮎より小さく、夏場でも倍以上違うでしょうか。

顔つきも違います。琵琶湖の鮎は、激しい流れに逆らったりすることもなく、たゆたっているので優しい顔つきをしていますね。

清流の鮎は、川の流れをばーっとさかのぼっていきます。真夜中でもずっと泳いでいるそうですよ。だから身も引き締まって、顔つきも鋭くなります。

ただ、川の天然鮎は友釣りが始まらないと出回りません。その前の天然の小味を楽しむのが琵琶湖の鮎といえるでしょう。

◆香り高い山菜の女王、漉油

「山菜の女王」とも呼ばれる漉油(こしあぶら)ですが、ここ20年ぐらいでスポットライトを浴びた山菜なんです。

以前から食べられてはいましたが、メジャーではなかったんです。みんながそのおいしさに気づき、新しい物を珍しがって重宝したのと、栽培が上手にできるようになったのが一因でしょうか。ただ、やはり天然物の方が香りが高いですね。

漉油は高い木なので、採るのがとても大変です。上手な人は糸に小石をぴょっとつけて、枝をしならせたところで採る、もしくは木に登って採るそうです。

山菜というと天ぷらのイメージがあるかもしれませんが、漉油は油でコーティングしてしまうと、せっかくの香りがこないんです。

ゆでておひたしにしたり、鍋にサッと入れて召し上がった方が、本当の値打ちが分かります。和え物でもおいしいです。

◆天然のタラの芽 ほっこりした食感

タラノキの新芽をいただくタラの芽。これも栽培物が広がって、1月ぐらいから出回ることもあります。やはり天然のタラの芽に比べると、特に出始めは香りが脆弱な感じが否めません。4月中旬ぐらいに天然物が味わえるようになります。

独特のほろ苦さがあるので、天ぷら、素揚げ、唐揚げ、揚げ浸し……油と合わせるのは何でもいいですね。ほこっとした食感が増します。湯がいて味噌漬けにして使ってもおいしいです。

◆えぐみとコクを味わう山独活

山独活(うど)は「うどの大木」ともいい、大きくなると2mぐらいのものもございます。ただし食用に適するのは30-40センチぐらいまでになります。あまりに大きくなってしまったものは硬くなりすぎるので、おいしい山独活をいただくのは山深いところでも6月ぐらいまででしょうか。

タラの芽と同じように新芽をいただくときは、揚げたり揚げ浸しにしたりするのがおいしい食べ方ですね。

軸は堅いところの皮をむいて、水に放してアクを抜きます。「アクを抜くなら酢水」って考えがちですが、酢を使うと変な茶色になってしまいます。水を何度か替えてあげるのがいいですね。

野菜スティック状にしてお味噌をつけ、歯ごたえを味わってもらったり、柔らかそうなところなら皮付きでささがきにしまして、きんぴらっぽくするのもとってもおいしいですね。タラの芽と似ていて、良い意味でのえぐみがありつつコクがある山菜です。

◆湯がいておかかと和える「屈」

屈(こごみ)も昔から栽培されていました。天然物がおいしく頂けるのは5月いっぱいぐらいでしょうか。

北の方では「こごめ」と呼ぶ場所もあるようですが、前にかがんだような形をしているから「こごみ」です。正式には「クサソテツ」というそうです。

クセがない一方でぬるみもあるので、湯がいておかか和えにするのが何よりの味わいです。揚げてもいいですし、広範囲でいろいろと使えます。

放っておくとかがむような形ではなくなり、歯触りが変わってきてしまいます。値打ちがあるのは、芽が出て来て、先がぐるぐるとしている形が出はじめた頃が一番です。

◆レアな山菜「あけびの芽」

珍しい山菜に「あけびの芽」があります。山形・新潟・福島の方では単に「木の芽」と呼ぶそうです。

あけびの蔓みたいなところの先端の数センチほどが「あけびの芽」です。ポキッと折れるところで採取します。

日持ちがしないので早々に処理します。苦みが強いので、辛子ごま和えが一番おいしいと思いますね。アクの弱いものはおひたしでも使えます。繊維はあまり感じない独特の食感で、良いえぐみと苦みが楽しめます。

雪深いところのアケビの芽は、アクが少ないとも聞きます。採るのも大変な山菜で、そもそも市場に出てくることがまれです。うちでは、山菜を採る方から「採れたよ」と連絡があったら1週間ほどお出ししているものになります。

◆体を目覚めさせてくれる山菜

1年のうち、この季節しか味わえない山菜。なかには、あけびの芽のように何年かに1度しか出会えないものもあります。

春が来たからこそ味わえる、芽吹きもの。
冬眠していた熊など山の生き物は、人間だったら口にしないような木の皮をかじって、胃腸の覚醒につなげるそうです。

私たちにとっても、山菜は体を目覚めさせてくれる大事な食材なんでしょう。


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