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#掌編小説
【掌編小説】水の膜【800字チャレンジ】
「おーい! これ洗ってきてくれ!」
義兄の声に、はーいと空返事をして網を持っていく。去年使われたバーベキュー用の網は倉庫に放置されていた。使用するならなんにせよ洗わなければいけないだろう。
毎年八月の盆は、帰省してきた親戚一同でバーベキューを行う。普段は実家によりつかず嫁の私に義母の面倒をさせているくせに、のんきなものだと思う。
古ぼけた台所で、一人スポンジで網を擦る。たわしで洗っていた去年
魔剣使いが天使に出会った話【800字チャレンジ】
しまった。ケルトさんたちとはぐれてしまった。
「ここはどこだ……」
ケルトさんとユマさんの姿が見えなくなり、あてもなく森の中を彷徨っていた。次の町までまだ距離があり、野営は避けられない。だというのに二人は野営の準備をすっぽかしてどこかへ行ってしまったのだ。
「ん……?」
ふと、僕の周りにいる水の精霊がざわついていることに気づいた。近くに魔術師でもいるのだろうか。警戒して、鞘に収められている魔
孤独の堕天使【800字チャレンジ】
私は愛梨。堕天使だ。
堕天使の体液は生命の肉体を腐敗させ、溶かしていく性質がある。だから今、私は現状に困っていた。
「ううー……」
右足の痛みに唸り声をあげてしまう。敵対勢力との戦いで不覚にもケガをしてしまった。包帯とガーゼを借りたかったが、人外の自分より脆い人間に使わせたほうがいいだろう。万が一生きている人間が触ってしまえば大変なことになる。砦の隅で黒いドレスの裾を引っ張り、止まることを知