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深澤直人さんの「ふつう」を読みました。

この本はD&Departmentが発刊しているdの連載だったらしく(dを購読していないのでこの本までこの連載については知らなかった)、深澤直人さんがさまざまなふつうについて綴っています。

物のフェーズは同じ業態なのでそれこそ「ふつう」に理解できたのですが、この中には制服姿の女性や、音楽で言うならふつうとはこのアーティストだ。とか、そういう面白い切り口が存在していて、なるほどなと思いました。

ふつうとはなんだろうという問いは、相対的な物だと僕は思います。その人の経験や知識や最近ハマっていることとも連動してきます。つまり、個人ではふつうという定義はできない気がします。ただそれを定量的な視点で多くのデータを取った時に、その点群の真ん中あたりに「ふつう」が存在するのはとても共感できる。別の言い方をすればアベレージかも知れない。

世の中には僕の中ではもう極まった「ふつう」はたくさんあります。grafがデザインしたカトラリーsunaoや、イッタラのteema、渡辺力さんの壁掛け時計、もっと言えば回転寿司の皿やトイレットペーパーホルダー、消化器などアノニマスなものまで言い出せばキリがない。

少し話は変わって、実は日本の名作プロダクトは1960年前後に生まれています。スーパーカブやキッコーマンの醤油差しなど、まさにふつうのふつうがそれらの時代に生まれたのは、物がない時代に「みんなに行き渡るように」という思いがあったから奇をてらわずに真っ直ぐ作られたんじゃないかと思います。

月日は流れ、1970からバブル期前後まで、そうしたふつうに対するカウンターカルチャーにより先鋭的なデザインが生まれ、マーケティングが相まってカオスな世界になった時、カウンターカルチャーとして深澤直人さんの考える「ふつう」がふたたび脚光を浴びたのではないかと思います。そういうことを理解できる本です。

ただこの本の中で気になるのは、深澤直人さんは決してふつうだけを考えていたわけじゃないということです。深澤さんの代表作といえばinfobar、無印の壁掛けCDプレーヤー、プラスマイナスゼロの加湿器などだと思います。加湿器はカオティックなシーンの中に生まれたのでこの本の文脈にも合わなくもないですが、残りの2点は本文中にある「ふつう」とはかけ離れた結果ではあると個人的に思います。ふつうとは何かを考え続けた結果、そこに対するカウンターとしてinfobarや壁掛けCDプレーヤーが誕生したのかも知れませんが、本ではそうしたアヴァンギャルドと言っても過言ではない深澤さんの代表作については一切触れられていなかったのは、ふつうというテーマで話をする場合には語られるべき内容ではないということですね。

結局デザイナーはカオティックな場合はふつうを目指し、ふつうばかりの成熟した世界ではやはり新しさを探しているのではないかと思うのです。なんでも新しければいいということではないのはすごく共感します。売るための、ただ印象づけるためだけの造形ではなく、ちゃんと意味や理由があってこそデザインだと思います。そうした意味や理由を探すために、常日頃から「ふつう」をアライメント(alignment)しておくのは工業デザイナーのエチケットなのかも知れませんね。

然るべきタイミングで、人のためになるデザインをするために「ふつう」を勉強する。ということなのかも知れない。普段あまり意識して考えてこなかった「ふつう」について考えさせられる、なかなか面白い本でした。ふつうを意識することがすでにふつうではない行為ですから。

次はスモールイズビューティフル(人間中心の経済学)を読みます。この本は1973年にE・F・シューマッハーというドイツ生まれの経済学者が書いた本で、その後の未来にどういうことが起きるか、またどのようにすれば生き延びることができるのかなどを書いた本で、日本版は48回も増刷されている不朽の名著だそうです。ある方から、コロナ後の世界の為に読むべき。と推薦されましたので、経済学は苦手分野ですがチャレンジしてみようと思います。

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