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【13】着物記者歴30年のライターも驚く「究極のきもの」とは? お蚕さん篇⑪

「蚕から糸へ、糸から着物へ」プロジェクト!
《私たちのシルクロード》
第13回 お蚕さん篇⑪ 収繭から選繭へ

お蚕さんから糸を作り、染めて織って着物に仕上げる――この全工程をレポートする「蚕から糸へ、糸から着物へ」プロジェクトです。
それは「私たちのシルクロード」。


前回「お蚕さん篇」⑩では、養蚕農家の花井雅美さんが育てた晩秋蚕たちが繭を作り始めるさまをレポートしました。今回は、蔟(まぶし)から繭を外す「収繭」(しゅうけん)、出荷基準を満たさない繭を選り分ける「選繭」(せんけん)のプロセスをご紹介します。


■繭となったお蚕さん

「その時」が来て、蔟に入り、3~4日かけて糸を吐き出し繭を作ったお蚕さん達。前回の記事を書き上げた後、私はこれまでにない大きな達成感でいっぱいになり、疲労を伴った高揚感は翌日まで続きました。これをご覧くださっている皆さまは、どのように感じられましたでしょうか?


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いえ、あの、何もしていない私が達成感を得るのはお門違いなのは分かっているのですが、なんといいますか、お蚕さん達のエネルギーが伝わってきて、すごい現場に立ち合ってしまったと感じたからだと思うのです。

この後の糸づくりのプロセスを担当する中島愛さんも「やはり上蔟は圧巻ですね」と感想をもらしていただけあるんだな、と。

■10月3~4日 収繭から選繭へ

上蔟から9日目頃、蔟から繭を取り出す作業を「収繭」(しゅうけん)といいます。農作物でいうところの「収穫」の時期を迎えたのです。

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無事糸を吐き出し、繭を形成した蚕室は、静寂に包まれます。

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下の写真は、蚕室内を清掃する花井さん。

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10月3日、昔養蚕指導員だった方が、繭の出来を見に来てくださいました。本連載第11回「『マジ神』の人々」でもご紹介した先生です。

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「春繭のように大きくて、硬いですね。とても立派です。」と先生。
厳しいこともはっきりおっしゃる方なので、花井さんは本当にうれしかったと語ります。

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上の写真は、回転枠から外し、重ねて置いた蔟。
ボール蔟は、丈夫なボール紙でできているので、使い終わったら、蔟に着いた毛羽(けば)を軽く火であぶって取り、掃除をしながら大事に使っています。消毒もしますが、濡れても大丈夫。

■収繭の「エース」登場!

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蔟から繭を取り出す前に、蔟をライトテーブルに置いたり、日光にかざしたり、繭を透かして見て、繭の中で死んでしまった「死にごもり繭」などを取り除きます。
ここで見落としがあると、次の過程で他の繭を汚してしまうので、しっかりと取り除きます。すべての蔟で行います。

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「まゆエース」と書かれた機械は、「全自動収繭毛羽(けば)取り機」とよばれています。点検を終えた蔟を、機械の手前から入れます。
中でモーターが回っているので、ゴトゴトゴトゴトという音がします。

「まゆエース」の文字の下に見える、ピアノのハンマーのような部品が、繭の毛羽を取り、蔟から繭を外していきます。

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機械の反対側から見たのが下の写真です。機械を通って、蔟が空になっているのが見えます。

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この機械、花井さんが見聞きしたことによれば、購入が早かった大規模農家さんは、昭和60年代に入ってすぐ使い始めていたそうです。
先輩農家さんは「育蚕を2回休んだと思って、がんばって買った。収繭がすごく楽になった」と話してくれたといいます。

それ以前は、蔟から繭を外す道具(機械)、毛羽を取る道具(機械)が別々でした。「まゆエース」は1台で同時に行えます。

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ほぉ。そんな話を聞くと、私は「まゆエース」に惚れてしまうな。
だってこれ、一石二鳥の機械でしょ。働く人への労りの心が感じられます。花井さんは言います。「まゆエースは、本当によく考えられた機械で、これで収繭にかかる時間がだいぶ短縮されたと思います。とても助けられています。・・・・・・ただ、毛羽から糸を紡ぐには、少々やりにくくなったけれど。」

⑧毛羽

上の写真は、「まゆエース」で取り除いた「毛羽」を集めたものです。
毛羽は、お蚕さんが足場糸として最初に吐く糸(キビソとよばれる糸も、お蚕さんが繭を作るときに最初に吐く糸と言われていますが、毛羽はその前段階にあたります)。繭の部分と毛羽(足場)では、お蚕さんの糸の吐き方も違うとか。

下の写真の、繭の回りに見える綿状の繊維が「毛羽」です。

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この毛羽を取り除いて、出荷するのです。

■選繭――-選ばれても選ばれなくても

選繭(せんけん)は、蔟から外し終わった繭を、選繭台で、出荷基準に達していない選除繭(せんじょけん)などを取り除いていく作業です。

下の写真は、選繭台に繭を入れたもの。
出荷できる基準に達した「上繭」(じょうけん)を下に移してゆきます。
道具とは、かくも用途に適した作りになっているのですね。

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かつて花井さんが、先輩農家さんの出荷前の確認をしていたときのこと。
「これくらいの汚れはどうしますか?」と尋ねたら「跳ねとって。繭は私の顔だけん。汚れた繭を出すのは自分の顔を汚すことだけん」とおっしゃったとか。これは6年前の花井さんのブログに書かれていたのですが、「上繭」に対する養蚕農家の姿勢が思われ、ふとここで思い出しました。

さて、「選除繭」とは、どういったものをいうのでしょうか。
熊本県で作成された選除繭の一覧表を撮っていただきました。

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「内部汚染繭」「外部汚染繭」「はふぬけ繭」「薄皮繭」「ぞく着繭」「奇形繭」「浮しわ繭」「玉繭」「穴あき繭」。このうち「ぞく着繭」とは、「蔟着繭」と書き、前回の第12回「上蔟」でも言及しました、ボール蔟に上蔟しなかった弱っているお蚕さんが桑の葉に作った繭もこれにあたります。葉と繭がくっついて跡が付くので上繭にはならないそうです。

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上の写真は、今回の育蚕で選除繭となったものの一部。丁寧に育てているので、数多くはありませんが、やはりこのような繭もできます。
しかし上繭として出荷できなくても、別な道が残されています。決して無駄にはしません。次々回の第15回にて、これら選除繭の行く道についてお話ししたいと思います。

また、お蚕さんは生き物です。育蚕中にどうしても死んでしまうお蚕さんもわずかながらあります。そんなお蚕さん達は、土に埋めて自然に還します。

■計量――繭の出来を見る目安のひとつ

選繭後に毎回、無作為に抜き出した生繭500グラムあたりの個数を数えます。これは農家共通の作業。季節により、500グラムあたりの個数が変わりますが、これも繭の出来を見る目安のにとつになります。
500グラムあたりの個数が少ないと、繭1個あたりが重いということであり、農家は喜ぶのだそうです。

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しっかり大きく育った花井さんの晩秋繭。

下の写真では、繭3000グラムを量っています。デジタルと天秤の2種で、2回計量します。この後、製糸工場に出荷する繭を乾燥させるため、繭の重さを量って、乾繭率(かんけんりつ)を見るのですが、この最初の重量が正しくないと、正確な乾繭率が出ないので、正確に量ります。

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「羊」が「大きい」と書いて「美」という漢字を形成するように、花井さんの繭も大きく美しく整えられました。

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毎週月・水・金曜日にアップしている本連載。次回は5月12日(水)です。出荷に向けた「乾繭」のプロセスに入ります。プロジェクトメンバーのひとりがお蚕ファームを訪問する場面もあります。どうぞお楽しみに!

*本プロジェクトで制作する作品の問い合わせは、以下の「染織吉田」サイト内「お問い合わせとご相談」からお願いします。


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