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19円のごちそう、敗者復活戦の「もやし炒め」のレシピ

午後8時、全国のスーパーマーケットでは敗者復活戦が繰り広げられている。

養殖ブリの刺身、コーンコロッケ弁当、もめん豆腐。

どの選手もみんな、「半額」と書かれた赤と黄色のシールをでかでかと貼り、今か、今か、と手に取られるのをカウントダウンしてる。

でも、この敗者復活戦は全然フェアじゃない。

あっとうてきに不利な食材が一人、

もやしだ。

100g300円の牛すじ肉はいい。150円もお得になるのだから。「冷凍庫、まだ空いていたような・・・買っておいてもいいよね?」と、衝動買いをしてしまうこともしばしば。

でも、もやしは違う。

元値はたったの38円。せっかく7日間かけて、すくすくと芽を伸ばしたのにね。1日わずか5円5銭の成長です。

工場育ちのもやしはいたみやすい。冷凍には向かないし、圧倒的にお得感が薄い。けれども、そこにこそ、もやしの作戦がある。

「半額になっても19円しかお得にならないやりきれない食材なんですよ・・・」と人々の哀愁を誘うことで、敗者復活戦を幾度も勝ち上がってきたのだ。

そう、もやしは部屋にたたずんでいるだけで、今日の敗者たちを励ましてくれるすばらしい食材だ。仕事で失敗した夜に、もやし炒めほど似合う食材はない。そうだ、今日はもやし炒めにしよう。

レジで19円を払い、早足で家に帰り、マメとヒゲとりがはじまる。この一手間のあるなしで、もやし炒めの仕上がりが桁違いに変わってしまう。翌朝の寝起きまで変わってしまう。

マメ・ヒゲとわかれ、白くすきとおったもやしたち。その整然としたさまにしばらく見入ったのち、フライパンへ静かに入れる。

炒めるのは、弱火で5分。けっして強火にしないこと。

4分30秒が過ぎたところで、もやしは、メタモルフォーゼをはじめる。最後の30秒間で、つやつやと油をまとい、全身をすきとおらせていく。その美しいたたずまいを見てしまったら、誰も「元・19円」なんて信じないだろう。仕上げに、塩とこしょうを一振り。もやし、安すぎないか。もやし、うますぎないか。

今日のメインディッシュのできあがりです。

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