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滋賀県朽木村の鯖寿司を「包装」「重さ」「会話の秒数」で食べ比べると、働き方のヒントが4つも見えた話。

奈良川上村の柿の葉寿司を「塩分」「重さ」「会話の秒数」で食べ比べてみるをきっかけに、もう1つの鯖街道を知りました。

福井県若狭湾でとれたサバを京都へ運ぶ72キロメートルの道です。

「いづう」「いづ重」「さか井」などの鯖寿司の有名店が並ぶ終着点の京都。

そこから鯖街道を遡ってみると、鯖寿司店が10軒ほど並ぶ村があります。

鯖街道のほぼ中間地点にある滋賀県高島市朽木(くつき)村です。

*平成の合併により、行政上は「朽木村」はなくなりましたが、本記事内では、朽木村と表記します。

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今も家々で鯖寿司をつくる習慣がある朽木村。安曇川沿いを車で走ると、次々に鯖寿司のお店が現れます。

なかには食材にこだわりぬき、5000円以上する鯖寿司も。今回は鯖寿司の保存食というルーツをふまえ、1000円台で買える4軒の鯖寿司を食べ比べました。

「包装」「重さ」「会話の秒数」から知る鯖寿司

実食により主観的に味を評価することを「官能評価」といいます。これに加え「包装」「一個あたりの重さ」「会話の秒数」を調査しました。

包装

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竹の包みからラップまで、様々な種類があります。

食べごたえ(重さ)

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タニタのキッチンスケールKJ-213にて、1g単位で計測しました。

会話の秒数

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お店で交わした会話の時間です。

鯖寿司を官能評価する前に。おいしさって何?

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この表は、鷲尾友紀子さんによる論文「畜産だしの味に関する研究(Study on the Flavor in Meat Soup Stock)」から引用しています。

今回は官能評価に加えて、「包装」「重さ」=視聴覚、「会話の秒数」=心理的状態から評価を行います。

官能評価

①へん朽(くつ) 

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「へんくつに、まっすぐな鯖寿司づくり」(会話の秒数 1320秒)

へん朽という名前は、偏屈(ひねくれもの)に由来するらしい。こころなしか建物自体が曲がって見える店舗兼工房で、25年間鯖寿司をつくっているのが森谷さん。

へん朽のメニューは、鯖寿司と太巻き。

どちらも、すべての具材を手づくりしている。鯖の骨を一本一本とげぬきでとり、紅生姜を仕込み、卵を焼いて、最後に竹の皮で包むところまで。

だから、いつ訪れてもおいしいにおいがしているのだろう。この日は、昆布の山椒煮を仕込みはじめたところだった。

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すべての仕込みを自前ですることは、なかなか骨が折れるそう。それならば、一部でも既製品を使ったら楽になるだろうと思ったけれど。

「商品数が100もあって、その内の一つだったら話は別だけれど。わたしは、鯖寿司と太巻きがすべて。食べてもらったお客さんに『鯖寿司っておいしいんだ』と思ってもらい、いつかまた来てほしい。だから、出来合いのものは使わないし、使えない。いい加減なことはできないから」。

いい加減なことをしない、というのは、今回訪ねた全てのお店で感じたことだった。それぞれのお店に「いい加減じゃないこと」があって、「まっすぐな鯖寿司づくり」に取り組んでいた。

たとえば、へん朽で売れる鯖寿司の数は限られているだろう。道の駅にも鯖寿司を並べたら、露出の機会が増えて、売り上げをもっと増やせるだろう。売り上げが増えたら、誰かを雇って、仕事を分担できるかもしれない。

けれど、それではお客さんの表情がわからない。だから、かならずお客さんと顔を合わせて、売る。そうして、一人のお客さんを大切にしていく。まさに「急がば回れ」という言葉のとおり。滋賀県で生まれたことわざだっけ。

では、森谷さんにとっての「いい加減じゃないこと」ってなに?

「同じ味をつくり続けること。鯖は生きものだから、とうぜん個体差があって、特上の鯖が入ることもある。それをお客さんに出したら、一度は大喜びされるかもしれない。でも、次にいつもの味を食べたら、『あれっ』って感じるでしょ」。

下振れはもちろんのこと、上振れもせずにいつもの味を出すということ。「いつもの味」が低空飛行だったら簡単かもしれないけど、森谷さんの「いつもの味」は、けっこう高い。すきあらば1センチでも上へ飛ぼうとする気概も感じた。

じゃあ、ここで疑問がわいてくる。10点満点の鯖を仕入れたとして、お客さんに出せないのならば、どこへいくのだろう?

すると、森谷さん。

「美味しすぎる鯖は、焼いて、わたしの胃袋にしまうのよ」

今日一番うれしそうに話す姿を見て、へん朽という店名が、すとんと腑に落ちた。

味の感想は・・・へんくつという言葉の裏側にあるおかあさんのやさしさが前面に現れている。昆布の山椒煮をいただいた時にわかったことがあって、このおかあさんの料理はきわめて円やかなのだ。短時間に濃いめの塩分や酢で仕上げるのではなく、薄口でじっくり時間をかけて味をなじませていく味の妙。そんな鯖とシャリの間にひょっこり現れる赤い紅生姜。なんだかうれしくなる。

②鯖寿司みうら

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「朽木村と呼んだほうがおいしくなる」(会話の秒数 612秒)

三浦さんが営むみうらは、この記事で「朽木村」という表記を採用したきっかけのお店です。

真っ黄色の外壁がひときわ目立つお店。そこに入ると「ああ、こんにちは、どちらから?」と、三浦さんが気さくに迎えてくれる。奈良からです、と答えると「曽爾(そに)村は今もあるのかな、市町に合併されていない?」と質問が続く。

奈良のことを知ってくれてて嬉しくなる。

曽爾村は曽爾村ですよ、でも西吉野町は五條市に合併されましたね。でも地元の人たちは今でも「西吉野町」と呼んでいますよ。という答えに「そうなんだね、ありがとう。ここは平成の合併まで朽木村だったんだよ」という三浦さんの返事がかえってきた。

鯖街道に位置する朽木村を歩くと、今では建てることのできない家々が並んでいたり、豊かに栄えてきたことがあちこちから伝わってくる。

そして、みうらの店内には、鯖寿司に並んで、朽木村や高島市のガイドブックが置かれている。三浦さんにとっては、今でもここは朽木村なんだろうな。そしてこのまちを誇りに思っていることに気づく。

「料理を味わう」というのは作り手が見ている風景に寄り添うことでもあるから、なんとなく、朽木村って呼んだほうが鯖寿司もおいしくなる気がする。

帰り際に「また来ます、朽木村」っていうと、三浦さんは笑ってくれた。

味の感想は・・・鯖が押し寄せてくる!肉厚で、サクサクとした食感の鯖は、四国から九州で9月から12月にとれた鯖を急速冷凍したもの。噛みしめると、ギュッとあぶらがあふれ出る。そこへ、酸味のしっかり効いたもっちり米。絶妙なバランスで舵取りをしてくれる。聞けば、主に用いるのは高島市産のコシヒカリ。もち米をブレンドすることもあるそう。滋賀ってお米美味しいんだね、知らなかった。消費期限まで3日間あるので、日ごとに味の変化も楽しめます。

③ダイキン

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「スーパーマーケットは味覚の図書館だった」(会話の秒数 456秒)

軽トラ、原付、電動自転車…高齢の人たちがおもいおもいの乗り物で乗りつけては、店内へと吸い込まれていくローカル・スーパーマーケット・ダイキン。

この店に入る際は、一つだけ気をつけることがあります。それは、店舗の入り口にある一枚の張り紙。

「見るだけなら入店しないでください。正直こわいです」
観光客が興味本位でのぞいたりするのかな?少し緊張しながら入店すると、張り紙の理由がすぐにわかった。

店内の鮮魚コーナーには、若狭から届いた豊かな海の幸たちがところ狭しと並んでいる。まるで山の中の水族館。

生のスズキ、赤イカ、塩サバ、あじ、へしこ、はまぐり、あさり…

そう、若狭から仕入れた魚を扱っているこのお店は、山の中にいることを忘れそうなくらい魚の種類が豊富なのだ。  

うれしくなって鮮魚コーナーをキョロキョロ見ていると、そのはしっこに、鯖寿司が1本だけ残っていた。

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あとから聞いてわかったことだけれど、この日は鯖寿司を3本しかつくらなかったそうで、なんとか買えてよかった!

店内をさらに隅から隅まで見渡していると、熟鮓(なれずし)を見つけた。驚くことに、ダイキンで手づくりしているんだって。2年間もかけて。「そんなスーパーマーケットは聞いたことがないよ」と、一人で感動していたら、「焼き鯖もできたよ」と、店の方が声をかけてくれた。

ダイキンは、若狭の市場と朽木の家庭の冷蔵庫のちょうど真ん中にある。その店内には、どんなレシピ本でも表しきれないような、濃密な朽木村の食の記憶がつまっている。まるで食べる図書館のようで、だからついみんな、「見るだけなら入店」したくなるのかもしれない。

鯖寿司と合わせて、へしことアオサノリを買うことに。レジへ向かうと、店の方がちょうどいいサイズの空き段ボール箱を用意して迎えてくれた。「楽天カードはお持ちですか」「袋は1枚5円ですがご入用ですか」というやりとりがいらないレジはほんとうに久しぶりで、ほっとする。

必ずなにか(焼き鯖の一本でも)買って帰りましょう。

味の感想は・・・さっぱりとした味わいにほどよい厚みのさばで、食べやすい。若狭湾のサバを使用していることも含め、昔の鯖寿司に味が近いのかな。

④栃生梅竹

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「通販もできるのに、わざわざ買いに行く理由」(会話の秒数 361秒)

ちゃぶ台をひっくり返すような話をするけれど、朽木村でつくられる鯖寿司の多くは、通販も可能だ。

けれど、次も150分車を運転してわざわざ朽木村へ行きたい。というのも、郵便配達員の方から受け取る鯖寿司と、つくり手が直接手渡ししてくれる鯖寿司では、受け取るものがまったく違うから。そして、鯖寿司の味わいも変化するから。

そう思わせてくれたのが、栃生梅竹(とちううめたけ)さんだった。

栃生梅竹さんでの会話は361秒と、ほかの3軒と比べて短かった。おまけに、雑談は最も少なくて、4種類の鯖寿司の説明がほとんどだった。

「初めてなのでどう選んだら良いですか」とたずねて、1匹700グラムのサバでつくる元祖、1匹800グラムの中トロサバでつくる特選、1匹900グラム大トロサバでつくる特上、そして1匹1000グラムの特大サバでつくる極上の違いを教えてもらう。ちなみに、鯖は静岡県焼津市から仕入れている。

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それだけの会話なのに、ていねいな話しぶりからは、「鯖寿司ってこんなにおいしい食べものなんです」と伝えたいことが感じとれた。

自信の持てる商品をつくり、誠実に伝え、売る。

そんなシンプルでいて、真摯な仕事だった。

ハーフサイズを注文をすると、「5分ほどお待ちください」といわれる。注文を受けてから一つひとつにぎり、保冷剤を添えて渡してくれるのだ。

ちょっと緊張しながら、5分後に受け取った鯖寿司は、ほんの300グラムちょっとなのに、ズシリと重たかった。

重量と持った感覚が比例しない不思議な重さは、ケーキ屋さんで、ネームプレートつきの誕生日ケーキを受け取った時のそれに似ていた。

傾けないように、車へと運んでいった。

味の感想は・・・注文したのは、元祖のハーフ。小さめで、さくさくと食べられてよい。しっかりと塩分が感じられるネタとシャリ。その両方を味わっているところに、白板昆布の甘み。あとから風味がやってくる。

美容室でシャンプーを、理容室でセットを

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4つのお店を巡ったあとで、理・美容室「髪処玉垣」さんへ向かった。元々田んぼだった土地に、夫婦で理・美容室を構えている。玄関から入って右へ入ると理容室、左へ入ると美容室、という面白い空間。

鯖寿司を食べ比べに来たのに、どうしてここに来たのか。直感だった。朽木村のことをInstagramで検索すると、トップに玉垣さんが出てきた。朽木村に暮らす人たちのうれしそうな表情がそこにあった。

美容室で髪を洗ってくれたのは、けいこさん。(この時わかったのだけれど、日ごろけいこさんは女性のみを担当しているとのこと。この時は特別に対応してくださったらしい)

タオルドライをしてもらうと、「よかったらこちらへ」としんやさん。同じ敷地内にある理容室でセットをしてくれた。

美容室でシャンプーをしてもらって、理容室でセットしてもらったのは、うまれてはじめて。

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シャンプーをしてもらった後は、二人が好きな鯖寿司の店についても話を聞かせてもらう。そこで聞いたのが、道の駅で開かれる日曜朝市のことだった。

「いろんな家庭でつくる鯖寿司が並ぶよ」としんやさん。けいこさんも「お米農家さんの鯖寿司がおすすめ!お米が美味しいとやっぱりおいしい」と。

次回は、朽木村に来なければ、食べられない鯖寿司を、また食べに来ようっと。

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後日、髪処玉垣さんから連絡がありました。

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な、な、なんと!

おすすめの鯖寿司を送ってくださったんです。

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もちろんおいしくいただきました!どうもありがとうございます。

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