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〜「夢は絶対に叶えなければいけないもの」では決してない〜 夢を掲げる私たちを最強にエンパワメントする映画「野球少女」が凄かった。

ドラフトの結果が告げられた日。薄暗い廊下に並ぶ、顔を俯くユニフォーム姿の生徒たちのシーンからこの映画は始まる。
プロ野球選手になったと告げられるのは、チームメイトの幼馴染・ジョンホだった。天才野球少女と讃えられたスインではなく。


ジョンホは男、スインは女。

これまで韓国野球の歴史で、女子がプロ契約した事例はない。それどころか高校野球のチームに入部したのも、スインが史上はじめてである。
彼女は有名人だった。野球もプロになった彼より上手かった。中学までは。
いつのまにか筋力に差がつき、最終的にプロのスカウトに認められたのは彼だけだった。スインの夢は叶わないのか。

主人公は彼で、脇役はスイン。

本当にそうなのか。

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人生においては、誰もが主人公で、同時に脇役でもあるはずだ。
映画でも同じくそのはずだが、ついつい忘れがちなのは、おそらく、主人公以外の夢が語られることがあまりないからだ。

本作では登場人物全ての夢が描かれる。そして、"野球少女"の夢を後押しする過程においてそれぞれの人生が絡み合う様相が描かれる。

一つ間違えれば、誰かの夢は、誰かの妬みにもなるだろう。
しかし、困難に立ち向かう人の「夢」をエンパワメントするのもまた「夢」である。厳密に言えば、かつて夢を持ち、夢を諦めた人たちの想いが乗っかって、みんなで背中を押す力は、信じられないほど強い。

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話を戻そう。

私だって、あなただって、自分の人生の主人公で、誰かの人生の脇役のはずだ。自分の夢を掲げることで、自分のものでない別の人生の主人公の夢を後押しすることができると、スインはその背中で見せてくる。

自分の夢を信じろ。人の夢を笑うな。


主人公として自分を信じ、同時に脇役として誰かをエンパワメントすればいい。

夢は「支え合う」という性質を持っていると、はっきりとわかる。

夢とは「絶対に叶えなければいけない」ものでは決してないのだ。

この映画では、夢を叶えられなかった人たちをも全て肯定することをやってのけている。


人と人が共に生きる社会の中で、「夢はどういうものか」をストレートに描き切ったところがこの映画の感動的なところだ。

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「女に野球はできない」と人は言う。

スインは言い返す。「私には野球がある」と。

前例がないからと言って諦めなければいけないのか。

私は、現実の見えない愚か者か。

私にもわからない私の未来をなぜ他の人に決められるのか。

スインは美しい眼差しで、彼女自身を奮い立たせるだけだけでなく、全ての登場人物、そして観客である私たちの人生に”脇役”としてステージに上がり、鼓舞してくれる。

私たちも、もしも叶えられないのなら、叶える誰かの背中を押せば良いのだと教えてくれる。

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最後に。この映画のラストカットは、最高に気持ちがいい。
前述した通り、最初のシーンは薄暗い廊下が描かれる。
荒波に揉まれながら、周りの人を支え支えられながらの旅で、彼女がどこにたどり着いたのか、そのラストシーンを見届けてほしい。

そして劇場から出た後は、私たちの番だ。さあ走り出そう。


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