読みごし、極上。【架空インタビュー】

その争いは、とあるラーメン店で起きた。
「ソラシドラーメン」店主、宍戸 空(シシド ソラ)さんが証人だ。


今日は宜しくお願い致します。

「おぉ、なんでも聞いてくれなー!」

さっそくですが、当日の様子から。

「その日も常連客が多かったが、一組だけ新規の連中がいたな。速さ同好会と本人達は言うとった」

ーー速さ同好会。

「あぁ、私も気になったんで聞いてみたよ。なんだいそりゃあ、と。速さを愛する者達の集いだと」

では、争いはやはりそこから?

「そうさね。でも火種は私が作ったようなもんだ」

と、言いますと?

「もともと私のラーメンは8段階の味が楽しめる代物として作り出した」

「噛めば噛むほど美味しい、ソラシドラーメン」

「麺にドミグラスソースにレモン、味噌、ファソラーダ、そぼろ、ラー油、塩、どて煮を混ぜた逸品だ」

勉強不足ですみません、ファソラーダとは。

「ギリシャの白豆のスープの事だよ」

ファソラーダでファ、ソ、ラ、はクリアできてるのでは?実質10段階では?

「なんのことだい?」

失礼しました。…凄まじいラーメンですね。

「だろう?自慢の品さ」

「だから大抵の常連は味わう事を良しとする」

「私も、そのつもりで作ったからね」

噛めば噛むほど違う味になるのですから、そうでしょうね。…なんとなく見えて来ました。つまり。

「あぁ。速さ同好会の子達には、そんな道理は知ったことではないんだ」

「なにしろあの子達はーー」

ーーー速さを、愛している。

「そう。早く食べる事を良しとする」

「私の噛めば噛むほど美味しいラーメンさえも」

つまり、あまり噛まずに食べた、と。そういう事でしょうか?

「端的に言えばそうだね」

「食べ方は本来その人個人の自由なんだがね、私のラーメンの事を好きすぎる常連が一人、その子達をたしなめてしまったんだ」

「もっと味わって食べろ。と」

もっと噛んでみろ。と。8段階の味があるのだぞ。と。

「そう。そうしたらね。速さ同好会の子達は面白い事を言った」

「我々はしっかり味わっている。と」

「速さを味わっている。と」

速さを。

「常連は当然反論する。屁理屈を言うなと」

「速さと味わう事は対極にあるものだろう、と」

常連の方も面白い事をおっしゃる。

「そしたら速さ同好会の子達は言うんだ」

「ジャンルが違います。と」

「あなた方は、食べる事として味わっている」

「私達は、早く食べる速さを味わっている。と」

面白いですね。速読なども、該当するかもしれない。あれも文章を味わうというよりかはーー

「まさに。速さを味わっている」

「食べる事や読む事とは、またジャンルが違うのかもしれない。そう思わされた」

「味わう事であんな論争がおきるたぁ思わなかったね」

それで。その後その争いはどうなったのですか?

「おや?その説明は不要かと思ったがね」

「すぐに速さ同好会の子達が不快にさせたなら申し訳ないと言って場を収めたよ」

「なにしろあの子達はーー」

速さを、愛している。

「不穏な空気さえも長引かないのさ」

「あの子達の前ではね」

なるほど。道理です。本日はありがとうございました。

「なんのなんの。で、どうする?あんた食べてくかい?」

「うちのラーメンを」

是非。もし食べてる間にお店で速さ同好会の子達に会えたら、インタビューもしてみたいですけどね。

「記事にできるほどのインタビューになるかなぁ?」

「なにしろあの子達はーーー」 

「「速さを、愛している」」

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