見出し画像

男とビールのマリアージュ

男性が生ビールを飲んでいる姿が好きすぎる。

キラキラと光ったあぶくを立てる黄色い液体に、白いふかふかの冠。
コツン、とジョッキを合わせて、雲を突き抜けて唇に冷たい液体が触れる。

その後わたしは、雲を破って喉に到達した液体を胃に流し込みながら相手の姿を横目と心の目でチラ見している。この時だけわたしは写輪眼とミレニアム・アイが同時に使える。突然わたしの中の少年ジャンプが覚醒する。

自分より隆々とした指がジョッキの持ち手を持って、自分にはない喉仏が上下に動くのが格好良い。シンプルな言葉であるけれど超格好良い。
爽快ながら不快でもある炭酸を感じてジョッキから口を離すときに寄る眉間の皺も格好良い。2杯目もビールだと尚良い。わたしはビールは1杯でお腹がいっぱいになってしまうから、2杯のビールはは飲めないのだ。自分の胃袋との要領の差を感じてこれまた格好良い。ここまでで自分が何回格好良いと言ったか数えたい。

わたしは幼少期から背が高かった。だがそれをコンプレックスに感じることは一度もなかったし、背が高い自分が好きだった。(しかし黒板の上の方が消せなくてピョンピョンしたかったという夢だけは未だに消えない)
なのに何故か三十路間近になり、男性がビールを飲む姿に「男らしさ」を感じて、胸にロンギヌスの槍がブッ刺さるのを感じている。
生ビールを飲む姿は、わたしの思う男らしさが一挙大集合しているのかもしれない。

これはビールにまつわる余談だが、ビールは舌で転がさないで喉で飲むのよ。とは母の教え。母には酒にまつわるオキテをたくさん教えてもらったが、舌に乗せて味わうビールもたくさんあると知ったのはアラサーになってから。ついでに人の親になっても間違いがたくさんあることも教えてもらった。

話は隆々とした指のあたりに戻るが、わたしは男性の手フェチである。
「何フェチ?」と聞かれると「テデス…」と遠慮がちに答えるし、誰にも言えないけど「好きな手」という写真フォルダが私のブラックボックスという名のiPhoneに貯蔵されている。
もしかしたらこのメンズビールフェチもその延長なのかもしれない。なんだメンズビールフェチって。
手フェチといっても、細長く綺麗な白魚のような手が好きなわけではない。
「好きな手の形」というのは確かにあるけれど(文字で説明するのは難しい)、美醜の問題だけではないのだ。
この前「ふう…」となったのは、浅草のかっぱ橋商店街に行った時のこと。
お気に入りの食器を見つけレジに持っていくと、店員のお兄さんが食器を新聞紙で1つずつ包んでくれる。
食器を慈しむように大切に包むその指先がカッサカサで、手フェチボルテージが上がり、限界突破するのをのを感じた。わたしもその指先に包まれたいと思った。もしかしたらお代を多く払ってしまったかも。自分が非常に気持ち悪い。
日ごろからずっと新聞紙を触ってるから指先カサカサなんや……と「職人の手」を感じ、非常に興奮した。
他にも料理をする人の手にあかぎれがあったり、ドラマーの手にマメがあったりすると「ほほう…(興奮)」となる。

話が脱線しまくっていったりきたしているが、ここで言っておきたいのは「お酒をたくさん飲める人が男らしくて好き♡」ということではない。
「自分とは違う何か」に興奮しているのだ。

わたしは指が細くてツルツルだし、少し飲み食いしただけですぐお腹いっぱいになってしまう。
だからわたしが、あなたの指のマメをまるでツチノコを発見した時のようにしげしげと眺めたり、ただのビールを飲んだだけで何故かニヤニヤしていても、「気持ち悪いやつ」と思って、そのまま目の前の世界一周の旅のポスターでも見て、トイレの水にでも流してほしい。

おしまい


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?