エガオノリユウ / 短編小説:970文字

夏の日の、雨が上がってすぐのこの時間帯、どうしたわけか昔から嫌で嫌で仕方がなかった。肌に合わないというか、生理的に受け付けられないこの感じ。
地面から立ち昇ってくるもわっとした湿気。何の匂いかわからない得体の知れない生臭い臭気。身体にまとわりついて肌の毛穴からしみ込んできそうだ。息をするたびに口や鼻から身体の中に入ってくる。
耐えられない。耐えられない。
強くても弱くても雨が降り続けていた方がまだマシだ。

今すぐ自分の家に逃げ帰って、ドアも窓も閉め切って閉じこもりたい。
それでも行かなければいけない。
思わず、肩を大きく動かして、深く長い溜息が出た。
意識せずに出た溜息。溜息吐くと幸せが逃げるって誰かが言ってたっけ?
溜息が出ないように一瞬息を止めて重い足を一歩踏み出した。
濡れたアスファルトから水滴が跳ねて、靴にかかった。
あぁ、もー。

それでも行かなければいけない。
そうだ、別のことを考えよう。気分が明るくなるようなことを。
何かないかなぁ、楽しかったこと。嬉しかったことは?最近食べた美味しいものは?最近笑ったことあったけ?テレビのバラエティ番組とか?バラエティ番組……うーん、なんか作りものぽくって、素直に笑えないんだよなぁ。テレビもつまんない……
そこまで考えて、楽しいことも、嬉しかったこともすぐに思いつけない自分が情けなくてますます気分が滅入ってくる。
辛いなぁ。

「辛い時ほど笑顔でどうぞ!」
唐突にその言葉が頭の中に閃いた。
あれ?この言葉なんだっけ?どこで聞いたんだっけ?
ああ、そうか!昨日見たアニメだ!
なんとなくテレビつけたままにしていて、ふと見た時に映っていた女の子の絵が可愛かったからそのまま最後まで見てしまったんだ。その時に出てきたセリフ。
アイドルを目指す女の子がダンスレッスンしている時に、先生がかけた言葉だ!

「辛い時ほど笑顔でどうぞ!」
その言葉がすーっと頭の中に入ってくる。重くモヤモヤしていた胸のあたりに染み込んでくる。

ああ、そうか!理由なんかいらなかったんだ。
笑顔でいることに理由なんて必要ないんだ。
笑顔でいることが大切なんだ。
たったそれだけ。
シンプルで難しいことは何もない。
積もっていた靄が晴れていく。

笑顔で一歩踏み出そう。前へ。前へ。

笑顔でいると不思議と足元って見ないんだなぁ。
そんなことを考えながら次の一歩を踏み出した。 

(了)

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辛い時ほど笑顔でどうぞ』  は、アイカツフレンズ!に登場する台詞です。名言だと思いませんか?(^^)

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