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メロンと音のお裾分け合い

部屋の窓をあけ、風をいれる季節になってきた。

今年は梅雨が長引き、少し肌寒い時もあるが、雨がふらない日は、やはり新鮮な空気を部屋に通したい。

おとなりの斎木さんも、やはりおなじ思いらしく、白い枠のきれいな窓を開けるようになった。

すると途端に、斎木さんのくらしの音が聞こえはじめる。

音の主は、斎木さんの三男坊。来年から幼稚園。

きゃー、わー、おー、と、まだまだ甲高い声をあげ、ばたばた、どたどた、がたがたと、リビングをひたすら走り回る。椅子かソファから、とー、と叫びながら飛び降りる。DVDのアニメ(多分仮面ライダークウガ)を大音量で観て、やはりわー、と歓声をあげる。なにか食器らしき物を落とし、ぎゃー、と泣き叫ぶ。

ちょっとやめなさい。静かにして。うるさいってば。もう…。そのたび、お母さんの叱り声や嘆きが聞こえてくる。叱られた後、しばらくはおとなしくなるのだが、やがてまた椅子からのダイブがはじまる。

夏になると、聞こえてくる、音。

先日、実家からまるごとメロンをもふたつももらった。知り合いから三個も譲られ、とても食べきれないから、と、持ってきたのだ。

もらったものの、我が家もふたりだけなので、食べきれないのはおなじだ。だからひとつを斎木さんにお裾分けすることにした。

斎木さん家のチャイムをならすと、お母さんと三男坊が出てきた。三男坊は相変わらずの丸坊主で、お母さんのジーンズをつかんでいた。

事情を話し、メロンを譲った。すみません、ありがとうございます、とお母さんはお礼を言った。

「ほら、あんたもありがとう言って」

お母さんに促されると、三男坊は「ありがとー」と、ちいさなからだ全部を使ってお辞儀した。「どういたしまして」とこちらもお辞儀すると、また全身での「ありがとー」。これが数回繰り返された。

「いつもうるさくてすみません。ご迷惑なら、いつでも言ってくださいね」お母さんが申し訳なさそうに詫びた。だが私たちは、うるさくなんてありませんよ、気になさらないでください、と告げた。

「じゃ、ばいばい」三男坊に手をふると、「ばいばい!」と、ちいさな手をふりかえしてくれた。家に戻ると、またどたどたが聞こえてきた。

うるさくなんて、ないですよ。

うちには響かなかった、そしてこれからも響くことのない音で、我が家を満たしてくれているのですから。私たちにその音を、お裾分けしてくれているんですから。

夕食後、私たちはメロンを食べた。まだ熟しきってなく、ちょっと固かった。斎木さんはもう少したってから食べてくれればいいのだが、まあ、あの子は、もりもり食べてくれるだろう。

今年も、夏が、はじまる。

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