シェア
篭田 雪江(かごた ゆきえ)
2020年3月26日 19:32
ドアを開けると、赤い車いすが見えた。 鉄階段の下で千鶴は車いすから上半身を屈め、手を伸ばしていた。背もたれグリップには使い込んだリュックが下げられている。右側のサイドガードに、以前はなかったクローバーのステッカーが貼られていた。「おはよう」 車いすに乗って部屋から出てきた私に、千鶴は笑みを向けた。少し低いトーンの穏やかな声色、肩にかかった髪に朝の光が反射している。 本当に来たんだな。