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新型コロナウイルスに対する治療薬(3): RemdesivirとChloroquine

前回の新型コロナウイルスに対する治療薬候補についての記事がかなり多くの方に読んでいただいていて、やはり治療薬があるのかどうか、どこまで開発が進んでいるのか、皆さんの関心が高いと感じました。
今回は、既存の抗ウイルス薬の、新型コロナウイルスに対する効果を検証した研究をより詳細にご紹介します。↓の論文になります。

7つの抗ウイルス薬の新型コロナウイルスへの効果を検証

この研究では、FDA(アメリカ食品医薬品局)に認可されている7つの抗ウイルス薬の新型コロナウイルスに対する抗ウイルス効果を調べています(↓)。

Ribavirin
Penciclovir
Nitazoxanide
Nafamostat
Chloroquine
Remdesivir 
Favipiravir 

実験方法

Vero E6細胞という培養細胞の培養液中に上記の候補薬剤を、いくつかの濃度に振って添加したところに、新型コロナウイルスを培養細胞に感染させて、新型コロナウイルスの増殖度を調べています。
ここでは、新型コロナウイルスの増殖を半分抑制する薬物濃度、
"EC50 (half-maximal effective concentration)"と呼ばれる濃度を調べます。

また薬剤自体がVero E6培養細胞を半数以上殺してしまう濃度、
"CC50 (half- cytotoxic concentration)"も調べています。

そして、CC50(細胞を死滅させてしまう薬物濃度) ÷ EC50(ウイルスの増殖を抑える薬物濃度) で表わされる選択係数(Selectivity Index: SI)を調べています。

この選択係数が大きいと、その薬は細胞自体にダメージを与えることなく、ウイルスの増殖を防ぐことができることを意味します。よってヒトに投与したときに副作用のリスクが小さいということになります。

逆にこの選択係数が小さいと、その薬はウイルスの増殖を防ぐと同時に細胞にもダメージを与えてしまうため、ヒトに投与した時に副作用も大きくなる可能性が高いということを意味します。

7つの薬剤のEC50(薬効), CC50(毒性), SI(安全域)

以下、7つの薬剤を評価した結果を、SI(選択係数)の大きい順に並べています。

① Remdesivir: EC50 = 0.77 μM, CC50 > 100 μM, SI > 129.87
② Chloroquine: EC50 = 1.13 μM, CC50 > 100 μM, SI > 88.50
③ Nitazoxanide: EC50 = 2.12 μM, CC50 > 35.53 μM, SI > 16.76
④ Favipiravir: EC50 = 61.88 μM, CC50 > 400 μM, SI > 6.46
⑤ Nafamostat: EC50 = 22.50 μM, CC50 > 100 μM, SI > 4.44
⑥ Penciclovir: EC50 = 95.96 μM, CC50 > 400 μM, SI > 4.17
⑦ Ribavirin: EC50 = 109.50 μM, CC50 > 400 μM, SI > 3.65

よって↑の結果から、RemdesivirとChloroquineの2つの薬剤のSIがそれぞれ129.87と88.5と、他の薬剤に比べてSIがかなり大きいため、
副作用のリスクが少なく新型コロナウイルスの増殖を抑えることが期待できる薬剤ということになります。

まだ、現段階ではin vitroの実験結果(培養細胞を用いた実験)のみで、今後はさらに動物実験やヒトでの臨床試験を実施して、この2つの薬剤の新型コロナウイルス治療薬としての妥当性を検証していく必要があります。

安全域の大きい薬剤はRemdesivirとChloroquine: 薬効濃度と毒性濃度の差が広い

前回の記事でご紹介したように、Remdesivirは、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に対する治療薬で、HIVだけでなく、SARSやMERSウイルスに効果を持つことが、動物実験より確かめられています。
現在、新型コロナウイルス治療薬としての臨床試験が進められており、順調にいけば4月にはその結果がでる予定となっています。
(↓Remdesivirの治験ニュース: 2020/2/25)
https://www.cnn.co.jp/business/35149814.html?ref=rss

またChloroquineは、マラリアに対する薬としてかなり昔から使用されており、安価かつヒトでの安全性に関するデータも十分にあることから、もしヒトで本当に新型コロナウイルスに効果があることが確認できれば、すぐに大量供給できる薬剤だと思います。
2/17のニュースで、クロロキンの新型肺炎に対する効果が臨床試験で確認されたとのことです。↓



今後も引き続き、新型コロナウイルスの治療薬について、新たな研究報告が出てきた時にnoteにまとめていきたいと思います。

前2回の新型コロナウイルス治療薬の記事は↓になります。


今後も分かりやすい、簡潔な記事を心がけていきます🙇🏻‍♂️