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長編小説『処刑勇者は拷問好き王子を処刑する【人体破壊魔法】特化でサクサク、サクリファイス 第18話「公開処刑」

「出たぞ! 元勇者だ!」

 俺は元は陰キャラだったが、もうテンションもアドレナリンも止められないし自分で制御できないくらいの快楽主義に走り出している。熱い声援に応えるべく、俺はダンス前にお辞儀をする。

 魔弾の弓兵。その名の通り、弓兵であり、矢に魔法を付与して放ってくる、付与魔法の使い手。炎に、氷に、雷に、属性攻撃のフルコースをもらい受けることになるが、「白(ルス)隼(ティコルス)のブーツ」装備の俺はそれらを全部、ダンスでかわせる。

 足先をかすめる矢。燃える前に踏みつぶす。氷は寒いからステップでよけて。雷は当たると格好がつかないので、一回転してかわす。楽しくなってきた。屋根の上のショーは楽しんでもらえるかな? 今からメインステージに行くまでお待ち下さい。

「兵が足りぬぞ! 全、魔弾(まだん)弓兵(きゅうへい)よ、勇者をありったけ射貫くのだ」

 リフニア国の王子の側近のモルガンは出しゃばりだな。仲のあんまりよろしくないノスリンジア国の魔弾弓兵にまで命令を下している。両国、手を取り合ってでも勇者の俺を始末したいらしい。命を狙われることは別に嫌いじゃない。燃えてくるよな? 魔王討伐の旅路でも経験してきたし、大いに歓迎(ウェルカム)だ。

 矢が弧を描く。ざっと数える。千本以上あるな。走るか。
 踵のすぐ後ろに矢継ぎ早に矢が刺さっていく。容赦のない矢の量と属性魔法。足場の屋根が崩れていく前に、処刑台に飛び降りる。処刑台をかばうように空間隔離魔法の結界が当然のように張られている。着地前に指で切断する。

 裁判官を突き飛ばし、空間隔離魔法の境界線で縦に真っ二つに胴を割る。斧を持った処刑人の大男にも蹴りを放ち、同じく空間隔離魔法の境界線で横に真っ二つに割れてもらう。これで邪魔者はいなくなった。

「キーレ! まさか本当に蘇ったなんて! 人体蘇生魔法は私でも使えない過去の遺物なのに。それにしても、私の処刑を止めに来るなんて思いもしなかったわ」

 ヴァネッサの微笑。ほんとに心の底から感謝している? 処刑が目的であることをひた隠しにして優しい男を演じておこう。

「ヴァネッサ。助けに来た」

「まあ、嬉しいわね。でも元はと言えば、あなたのせいで私はこうなっているのよ」

 それは悪かったなぁと頭をかく。

「ふふふ、マルセルのこと王子に寝取られて我慢できなくて殺しちゃったんでしょ。嘘が下手ね。ねぇ、聞かせて。悔しかったのかしら?」

 いきなりそれか。俺は普段何も感じられないので、もし心電図が異世界でも存在して計れるのなら、ずっと停止しているに違いない。でも、今ので脈が爆上がりするところだ。目を反らしたら負けだから、俺は満面の笑みで答える。

「まぁまぁ、これ外してやるから」

「あら、とっても優しい手つき。何だか悪いわね」

 ヴァネッサは毒舌だけど、人に助けられることに対しては純粋に恥じらう。案外かわいいところもあるんだな。ついでに、ビキニアーマーもお触りしておく。

「だ、だめ、そこは。ああん。キーレ、あたしが抱いてあげるから早く解きなさい」

「うそ、マジ。抱いてくれるのか。お前から?」

 ヴァネッサの寵愛(ちょうあい)は貴重だ。不死鳥のグローブの中で手指が汗ばむ。今すぐに解放してやる。

「かかったわね」

 ヴァネッサ自ら、いとも簡単に鎖を振りほどいてみせた。そして、俺に抱きついてきた。両手から放たれた黒い光は明らかに闇魔法であり、同じく俺を抱いた。束縛魔法をかけられた。ヴァネッサの束縛魔法は相変わらず強力。見えない縄で巻かれる感覚が足先までしっかりと伝い、身動きを封じられた。

「嘘、騙されたじゃん。公開処刑自体が嘘だってこと?」

 俺は身動きを封じられたぐらいでは動揺しないし茶目っ気まで交えたんだけど、広場で公開処刑を心待ちにしている観衆がどうっと歓声に沸いた瞬間、胸に針が刺さった気がした。今のは何だ。肉体的苦痛はどこまでも耐えることができると自負している。だから、余計に信じ難かった。俺はわずかに怯えはしなかっただろうかと。

 確かめる術はただ一つ。動けないので首だけ振り返ってみると、喜び勇んで処刑だと口々に叫んでいる群衆の姿が目に入った。舌が縮みあがる。民が俺の死を、元勇者の命がここで尽きることを願い、待ち望んでいる。俺は醜悪か? 絶対悪か? 魔王と同じか?

 あの火あぶりの処刑の日と同じ光景だ。あのときと……。

「嘘ってことじゃないわよ。見物人もいることだし執り行うわ。キーレ。これはあなたの公開処刑よ?」

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