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長編小説『処刑勇者は拷問好き王子を処刑する【人体破壊魔法】特化でサクサク、サクリファイス 第19話「火あぶり」

 クズの国クズの民クズの魔女。お前らに人の痛みの何が分かる。爪を剥がされたり、指を万力みたいな工具で挟まれたこともある。指の骨が折れるぎりぎりまで耐えたときは、あの腐れ王子にやめて下さいと懇願までしてしまった。

 今でもねっとりとした悪寒を思い出せる。俺の周りには敵しかいない。ヴァネッサの勝ち誇った笑顔。憎い、憎い憎い憎い。よし、みんな処刑しよう。そう決意することで溜飲が下がる。仲のいい友として微笑むこともできるぞ。嬉しいね。二回も裏切ってくれて。

「何をそんなに笑っているのかしら。あなた知ってる? 本当の処刑人はこの私なのよ」

 俺は感激の眼差しでブラボーと叫んだ。それからヴァネッサに確認する。

「エリク王子も来てるのか?」

「さぁ、どうかしら?」

 あのずる賢い王子のことだ。俺がわざと捕まっていることに気づいているかもしれない。もう逃げたかもな。じゃあ、ヴァネッサとのやり取りを楽しもう。だって、ヴァネッサはまだ俺がわざと捕まっていることに気づいていないからな。

「さぁ、何か言い残すことはないのかしら?」

 ヴァネッサは、先ほどくくりつけられていた鎖を、俺に同じように手際よく巻いていく。この念の入れようは俺への恐れの証だ。ドM男をヴァネッサのために演じてやりますか。

「ヴァネッサ。最期に確認したいんだけど。俺に火をつけたとき、どんな気持ちだった?」

 俺が拷問されて、処刑されたあの日の死因はヴァネッサによる火あぶりの刑だ。

 あのとき、あちこち傷つき、痛むところがないぐらいの状態で自分一人で歩けないので、本当に文字通り引きずって磔にされた。すでに薪が組まれていて、松明を持ったこいつがエリク王子の合図を待つ。

 エリク王子が無言で手をかざすと、ヴァネッサは満面の笑みを顔に貼りつけて松明を薪に投げ込んだ。最初は焼かれていることに気づかなかった。意識が飛んだり戻ったりしていたから。だけど、足の裏の皮がみずぶくれになって、皮下からリンパ液みたいなのが流れてきてかゆくなって、巻き上がる煙と熱で胸がむせかえった。

 火が足から這い上がっていることに気づいたんだ。必死で振り払おうとしたけど、炎はまとわりついて離れない。足で蹴ろうともがいても自分の焼けただれて、むけた皮がぶらぶら垂れさがるだけ。皮膚が黒くなるころには、骨が剥き出しになって足の痛覚が失われる。

 今度は膝と太ももの番だ。叫んだ。喚いた。自分の声で喉がつぶれる。自分の涙で焼けた頬がしみる。吐いた血で自分の焼けた胸が悲鳴を上げる。もう、足はない。手先も垂れて流れ落ちた。下半身が消える。意識は……まだ消えない。早く、早く楽になりたい――。

「そうね。今みたいな気持ちなんじゃないかしら。あのときって、確かあなた泣いてたわよね。涙も落ちていたかしら。わけがわからず叫んでいるみたいで、ずっと、熱いとか痛い! って。そういうのをみんな見たいと思っているわよ。ここに集まった人たちって。私もそういうのを見せてもらった方があなたを愛せるかも」

 ああ、そうだろうな。俺の叫び声を聞いて満足してる奴らが、足元で真っ白な歯を見せて笑っていたんだ。

「今のは、俺に今すぐ処刑して下さい。って言ってる風に聞こえるんだけど」

「この色欲の塊のクズ勇者が。今ここで私がお前を家畜の豚みたいに殺すって言ってんのよ!」

 きたああ! ヴァネッサ様の二重人格ドS気質。

 マルセルをエリク王子に寝取られたとき、真っ先に馬鹿にしてきたのがこいつだった。俺が拷問されてから処刑に至るまでに、ねちねちとそのことばかり罵倒しに地下の拷問部屋まで来てくれていたこの女。

 にしても豚は酷いな。俺はすらりと痩せ型体系だぞ。いいとも、こっちから先に処刑(サク)ってやるとも。お手並み拝見といきますか。

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