長編小説『処刑勇者は拷問好き王子を処刑する【人体破壊魔法】特化でサクサク、サクリファイス 第12話「お兄様!」

 マルセルの兄と名乗るおっさん騎士は側近モルガンに指示を出し、剣を一本投げて寄こしてきた。何の属性もない至ってシンプルな剣。ゴーレムとかには普通に折られるやわな代物だけど、人同士で斬り合うには十分に凶器だ。

 こいつが俺のお兄様になっていたかもしれない人物か。そう思うと親近感が湧くと同時に、そうならなかったことに対して幸福を感じた。まだ喉元に刃先の冷たさを思い出すことができる。処刑(サク)る意欲も湧(わ)いてくるというものだ。

「貴様、勇者の剣はどうした? 紛失でもしたか?」

 剣は魔王討伐時に魔王撃破とともに、折れている。

「ま、色々あってね。でもいいのか。俺、剣術は飽きるぐらい、やり込んでるんだけど」

「心配するな。私がその手から再びその剣を取り上げて見せよう。貴様は、ここで私の手にかかり、悶え苦しみ、断末魔の叫びを上げることになる」

 マルセルの敵討ちか。そういうのも歓迎(ウェルカム)だ。怖いものなどないし、俺の行いで憎悪が憎悪を呼ぶのなら……しょーがないよな? 

 ただ、俺の気に障るのは、貴重な睡眠時間を邪魔されたこと。やれやれ、困った熱血お兄様。俺を悪魔とでも思って討伐することに使命を感じているのか。

「マルセル、お兄様がいたなんて一言も言ってなかったけど。弟がいるってのは聞いたことあるけど? 三兄弟だったのか。じゃ、あんた妹に嫌われてるんじゃない?」

「軽口を叩くな。貴様の方こそどうなのだ? マルセルのことは何も分かっていないようだ。あの、愛すべき妹を貴様ごときに寝取られたと思うと、虫唾が走る」

 お兄様にとっての俺は寝取った側になる。大発見だ。お兄様とは決闘なんて馬鹿なまねはやめて、和解をしたくなってくる。男同士だが胸が躍った俺は、唇を結びなおして告白するように宣言する。

「お兄様、聞いて下さい。マルセルの緑の瞳は俺ばかりを映して素敵でした」

 兄グスタフは動揺を隠すこともなく、一歩後ろに退いた。俺の告白に明らかに困惑している。

「そして、紅潮した頬と、唇を奪ったときの息を飲む仕草。少し抵抗する両手。とても最高でした。あ、当然、彼女の歯の間から、舌をねじ込んで惚れ惚れと、舐め回しました。お兄様! 俺ってなんて罪深いんでしょうか? お兄様という方の存在をもっと早くに知っていればこんなことにはならなかったかもしれないのに!」

「き、貴様、妹にそんなことを。節度というものを知らんのか! 侮辱する気か」

 俺はやめるつもりがない。マルセルを抱き寄せるイメージで自分の肩を抱く。

「後ろからそっと彼女の腰に手を添えて、服を脱がすのを手伝いましたよ、お兄様!」

 歯ぎしりまでしてくれているお兄様を、おちょくるのは心底楽しい。お兄様の中ではこれは決闘なのだろう。マルセルの敵討ちとして俺を倒せば世間からの支持も厚く得られ、決闘ならば勇者と対等に渡り合ったということで名声を得ることができる。でも、俺がそれをさせてやると思うか?

 最後まで冷静に剣を振るうことができるかな? 殴りたくなってきたんじゃないか? 


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