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ポーランド旅行記・11日目(ウクライナ1日目)

タイトルはポーランドですが、11日目~13日目まではウクライナ・リヴィウ探訪記です。

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午前7時半。空が白んできた。一面曇りなので仄暗さはあるが、トラムの停留所にいる人も増えてきた。カフェを出る。

駅の写真を撮り、あらためてゆっくり見て回ろうと中に入ろうとしたものの、中央ホールを通らない入り口が見つからない。そうこうしていると夜中に会った人らしき人影が見えたので離れる。

また別のカフェに入って朝食にでもしようかと思ったが、ピンと来ない。惰性で歩き続ける。店構えやトラムやバスの様子、道のぼこぼこ感など、目につくあれこれからロシアを思い出す。モスクワに比べるとだいぶ年季が入って見えるが。「リヴィウはキエフに比べてロシア感がなくて〜」なんて文章を読んだ覚えがあったが、何がだ。めちゃくちゃ西暦2018年のソビエト連邦みたいな香りがするじゃないか、と1人勝手にぷりぷりとしていたら大きい教会の前に出た。

足も痛いし幸先も微妙だったし、ここらで1発神様によろしくお願いするか、と思ったらまさかの椅子がないスタイルだった。正確にはあったが、教会の隅にちょこんちょこんと並べてあるだけだった。中心はただ、床。入ってきた人は立ったまま正面や、側面の壁にある磔のイエスの像やマリア像に向かって十字を切っている。観光名所のようではあるが時間的にもお祈りに来た地元の人ばかり、いきなり入って座るというのもアレだな、と思って立っていると奥で司教のような人がしゃんしゃん、と鈴を鳴らしている。ぼーっと見ていたら礼拝が始まった。録音なのかマイクなのかはわからないが、朗々と聖句のようなものが響く。それに合わせて人々は十字を切る。とりあえず手を身体の前で組んで神妙な顔をしておく。

礼拝はひたすら続いた。みんな自分のタイミングで帰っていくが、せっかくなので最後まで見ていこうと思った。が、あまりにも続くので30分経ったところで切り上げた。内容があまり分からない礼拝にいつ終わるか分からない状態で参加するのはなかなか厳しいものがある。

昼から降るはずの雪はカフェを出た時点からちらついていたが、教会を出る頃には本降りになっていた。初雪の感慨もそこそこに、目的の旧市街に向け歩く。空気が冷たい。カメラはコートの中に入れた。時折トラムが通り過ぎて行く。初めは乗ろうかとも思っていたが、人がぎゅう詰めになっている様子を見てその気も失くしてしまった。熱気で窓が曇っている。

なんだかほんとうに時間も空間もスリップしたような心持ちがする。ソ連時代の車の比率が高い。前を行く老夫婦の姿が、記録映像から引っ張り出してきたようだった。

雪の中を滑らないように歩くというのはなかなか足に負担がかかる。前々からあった痛みが増してきた。雪で写真が撮れないということも手伝って壮麗なリヴィウ大学もチラ見でスルーし、隣にあるウクライナ料理のレストランに入る。
店はセルフサービス。とにかく空腹の状態で突っ込んだのであれこれと頼みすぎた。よく分からないまま取った皿は朝ごはんプレートだったらしい。
睡眠不足でお腹が空いていて、ということもあって夢中でかきこんだ。こんなに品のない様子で食べることは後にも先にもないだろう、と、7割ほど食べたところで我に帰った。

食欲も満たされて落ち着いた。荷物だけでも預かってもらおうとダメ元でホステルに向かう。旧市街へ向かうにつれ、ソビエト感が減ってヨーロッパ感が増してきた。ホステルのブザーを押す。時間は10時過ぎ。チェックアウトの時間にもなっていないのに、チェックインさせてくれた。部屋も使っていいとのこと。ありがたい。自分にとってはこっちの方が十字を切りたい気分だ。寝る。

起床、13時半。街歩きにゆく。雪はまだ降り続いている。
まずはSIMカードを買った。1ヶ月8GBで600円。安い。3日間しか使わないにしても抵抗のない値段だ。

リヴィウの旧市街はぶらぶらと歩きまわったが確かにものすごいところ。立派な聖堂やなんやらがたくさんある。クラクフに比べて建物の彫りが深い。なんとなくサンクトペテルブルクに似ていた、かもしれない。雪でカメラがなかなか出せないのが残念。明日以降の天気を祈るしかない。

カフェに入った。なんだかものすごいところで、メニューが信じられないくらい小洒落ている。メニューの見開き1ページ目は「For Lovers」やら「Relaxing Coffee」などのオリジナルコーヒードリンクが並んでいる。その並びの1つ目が「Lviv Rainy Day Coffee」なのもレベルが高い。給仕の男性がなんだかめちゃくちゃカッコよかった。
カフェにくっついているおみやげ屋の上が民族博物館なので入ってみることにした。展示は一昔前のウクライナの各地域の民族衣装や住居の様子、使っていた道具などで、最後は地元のアーティストの作品展。他の客はおらず、ゆっくり見られた。素朴ながら緻密、めちゃくちゃ立派というわけではないが、伝えるという機能で言えば充分なのだろう。人のにおいのするいい博物館だった。帰る際、監視係で片隅に座っていたおばあさんに声をかけられた。どれもよかったし特にこの傘の持ち手の細工が1番気に入ったなどと感想を伝えたら、こちらの倍くらい「ありがとう」と言ってくれた。自分達のことについてよそから来た人に知ってもらえたら確かに嬉しいよな、これは、この人たちの話なんだよな、と嬉しい気持ちになった。

夜の一歩手前の薄暗さが覆っていた。この暗さになると写真を撮って回るのは難しい、かといって何かプランがあるわけでもない。ので、晩ごはんに行った。ブルワリーレストランで、ビールとウクライナ料理を頼む。ビールは泡がのっぺりとしており、炭酸が意外と鋭い。ご飯は平たいお皿で出てくると思ったらつぼ焼きのような感じだった。その中に、じゃがいもや肉など。これがもう少し平たいお皿で出てくるだけでも違うんだろうけど、など思いながら食べる。ナイフの出番はなかった。

味はとてもよかったが、もう少し何か食べたい。Googleマップで見つけたサーロの店に行くことにした。サーロ、豚の脂身の塩漬け。ウクライナの伝統食品。それで作った寿司が食べられるらしい。

Googleマップに率いられ着いた先はクラブかバーか、そんな雰囲気の店。2軒目に来るような雰囲気で他の客はなし。とりあえずサーロで巻いた巻き寿司を食べてみた。普通。もう少し話のネタになるようなものかと思っていたが、話のネタにもなりにくいくらいの普通さだった。

一緒に頼んだウォッカでいい感じにはなっていたが、だから何かが起こるというわけでもなくホステルに戻ってさっさと寝た。ホステルの客は自分だけだという。「自分だけ」が多い1日だった。

本とか買います。