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ピアノの誕生、中編:クリストフォリの発明(鍵盤楽器音楽の歴史、第148回)

Archivio di Stato di Firenze, Guardaroba Medicea 1117, Inventario di diverse sorti d'instrumenti musicali in proprio del Ser.mo Sig.r P.n.pe. Ferdinando di Toscana, 1700.

Un arpicimbalo di Bartolomeo Cristofori di nuova inventione, che fa’ il piano, e il forte a’ due registri principali unisoni, con fondo di cipresso senza rosa, con fascie e scorniciatura mezza tonda simile, con filetto d’ebano, con alcuni salterelli con panno rosso, che toccano nelle corde, et alcuni martelli, che fanno il piano, et il forte, e tutto l’ordingo vien serrato, e coperto da un piano di cipresso filettato di ebano, con tastatura de bóssolo, et ébano senza spezzati, che comincia in cisolfaut ottava stesa, e finisce in cisolfaut, con n. quaranta nove tasti, tra’ bianchi e neri, con due sodi laterali neri, che uno da levare, e porre, con due palline nere sopra, lungo B.ª tre, e sette ottavi, largo nel davanti B.ª uno, e soldi sei, con suo leggio di cipresso, e sua contro cassa d’albero bianca, e sua coperta di cuoio rosso foderata di taffettà verde e orlata di nastrino d’oro.

バルトロメオ・クリストフォリの新発明のアルピチンバロひとつ。強弱をつけることができる、2つのユニゾンのプリンチパル・レジスター。ローズなしのサイプレスの響板。半円形のモールディング付きの側板も同様で、黒壇で象嵌。弦に触れる赤い布の付いたジャックと、強弱を作るハンマーがあり、すべての機構が収められ、黒壇で象嵌されたサイプレスの板で覆われている。黄楊と黒壇の鍵盤。分割された黒鍵は無く、C から拡張オクターヴで始まり、C で終わる49鍵。その両脇に黒いブロックがあり、片方を持ち上げて設定する。上に黒いノブが2つ。全長 3 braccia と 7 ottavi、正面の幅 1 braccia と 6 soldi。サイプレスの譜面台。ホワイトポプラのアウターケース。赤い革のカバーは緑のタフタで裏打ちされ、金のリボンで縁取りされている。

この1700年に作成された、トスカーナ大公子フェルディナンド・デ・メディチの所有楽器目録の記述が、ピアノについての最古の記録になります。

「アルピチンバロ」というのが、この楽器に本来付けられた名前であったのでしょう、ハープのようなチェンバロという意味に解せます。英語だとハープ・ハープシコードになってしまいますね。

この新楽器を広く知らしめたのは、1711年に『Giornale dei Letterati d'Italia』に掲載された、シピオーネ・マッフェイによる記事「Nuova invenzione d'un Gravecembalo col piano, e forte」(強弱をもつチェンバロの新発明)です。これが現在の「ピアノ」という名称の起源とされます。

https://hdl.handle.net/2027/mdp.39015064501573

マッフェイは1709年にフィレンツェを訪れており、その際にクリストフォリに直接取材した模様で、この記事にはその動作原理が図入りで詳細に解説されています。もっとも、クリストフォリは人に説明するのをあまり得意としないタイプの技術者だったようですが。

これは間違いなくピアノの歴史を語る上で欠かすことのできない文書です。ここでその全文を翻訳して掲載しておきましょう。

《強弱をもつチェンバロの新発明、楽器に関する備考を付す》

発明の価値がその新規性と複雑さによって測られるとすれば、これから説明しようとするものは、間違いなく近年見られてきた他の何にも劣らないものである。

音楽を愛する人なら誰でも知っているように、この芸術の達人が聴く者をとりわけ喜ばせる秘訣の主要な源の一つが、強弱である。しかるべき度合いで音を少しずつ小さくしていった後、突然大音量に戻す技法は、ローマにおける大コンチェルトで度々用いられて素晴らしい効果をあげており、芸術の洗練を楽しむ人々を非常に喜ばせている。

さて、このような音の多様性と変化は、とりわけ弓で弾く楽器が優れているのだが、チェンバロにはそれが全くない。この能力を持たせたチェンバロを作るという考えは、誰もが空しい努力だと思うだろう。

しかしながら、このような大胆な発明がフィレンツェで、トスカーナ大公子殿下に仕えるチェンバロ製作家、パドヴァのバルトロッメオ・クリストファリ氏によって幸いにも成し遂げられたのである。

彼はすでに通常のチェンバロと同じ大きさのものを3台製作し、いずれも完璧に成功を収めている。これらにおいて強弱は打鍵の強さによって得られるが、単に「強」と「弱」だけではなく、チェロのように色々な大きさの音を出すことができる。

専門家の中にはこの発明を賞賛しないものもあるが、それはこの難題を克服するためにどれほどの工夫が必要であったかを理解していないからであり、この楽器の音が、通常と異なり、あまりにも柔らかく鈍いからである。

しかし初めてその楽器に手を置いたときのその印象は、我々が他のチェンバロの銀の音色に慣れているが故のものであって、耳はすぐにそれに順応し、それに魅了されて飽かず、通常のチェンバロをもはや喜ばなくなるだろう。また少し離れたところでは、一層甘美に響くことも付け加えておかなければならない。

この楽器は力強い音調を欠いていて、他のチェンバロのように大きな音で鳴らないという批判もある。これに対する返答としては、第一に、この楽器は望むならば鍵盤を強く弾くことで彼らの見積もる以上の力を出せるということ。そして第二に、この楽器がどういうものであるかを受け入れ、用途を正しく考慮すべきであるということである。

この楽器は室内楽用であり、教会音楽にも、大きなオーケストラにも適さない。そのような機会で用いられないために素晴らしさを認められていない楽器がどれだけあるだろうか? これは歌手の伴奏や、他の楽器の伴奏、あるいは控えめな合奏でも完璧に成功をおさめるだろう。しかしそれも本領ではなく、むしろリュートやハープ、六弦のヴィオラ・ダ・ガンバなどの非常に甘やかな楽器のように単独で聴かれるべきである。

しかし、この新しい楽器が反対される主な理由は、この楽器をまずどのように演奏したらよいのか、一般に知識が不足していることである。

なぜなら、普通の鍵盤楽器を完璧に弾けるだけでは十分ではなく、新しい楽器であるため、その長所を理解し、特に研究した人が必要だからだ。そうであれば、鍵盤に与えるべき圧力の強さを調節し、時と所によって優雅に減衰させ、それに適した繊細な曲を選び、とりわけ声部の進行を分離して、様々な箇所で主題を聴かせることができるだろう。

この楽器の構造に目を向けると、これを発明した製作者が、これを作り上げる方法を完全に知っていたのと同様に、これを説明する方法を知っていたならば、読者にその技巧を解説することは難しくなかっただろう。

しかし彼はそれに成功せず、むしろ彼はそのアイデアを理解できるような形で表現することは不可能だと判断しているので、余人が、たとえ目の前にその楽器がなくとも、それを調べる際に書き留めたいくつかの覚え書きと、手元に広げた素描だけを頼りに、その仕事を引き受けねばなるまい。

まず第一に、羽軸で鳴らす通常のジャックの代わりに、これには下から弦を叩く小さなハンマーが並んでいて、その上部は鹿革で覆われている。

ハンマーは基部が車輪について動くようになっている。車輪は櫛の中に隠され、連ねられている。車輪近くのハンマーの軸の下には、支持部あるいは突起部があり、下から打撃を受けるとハンマーが持ち上がって、手で与える力の程度に応じた推進力で弦を打つ。したがって奏者の好みしだいで音は大きくも小さくもなる。

また、それは容易に大きな力で打撃させることができる。ハンマーはその回転軸付近、つまりハンマーが移動する経路の中心付近で打撃を受けるため、わずかに触れただけでも円を描いて移動することになる。

ハンマーを前述の突起の下から突き上げるのは、木製の小さな「舌」(linguetta)で、奏者によってキーが押されると持ち上がるレバー上にある。この舌はそのレバーの上に乗っているのではなく、この目的のために両側に1つずつ置かれた2つの薄い顎の骨の形をした部品によってわずかに持ち上げられ吊られている。

ハンマーが弦を打った後、キーがまだ奏者の指の下にある状態でも、ハンマーは即座に弦から離れ、そして直ちに元の位置に戻る自由を保つことが必要とされる。そのためにハンマーを動かす舌は可動式になっていて、しっかりと上に突き上げながらも、打撃後は即座に外れ、つまり通り過ぎ、そして完全に解放すると、それは降りて、たわんで、戻り、ハンマーの下に再び落ち着くように工夫されている。

製作者はレバーに留められた真鍮線のバネでこの効果を生み出した。舌の下にバネをかけ、反対側にしっかりと直立している別の真鍮線で支えている。この固い支持と、下のバネと、左右の回転軸によって、舌は必要に応じて堅固にも、しなやかにもなる。

ハンマーが打撃の後、後退する際に跳ね返って弦を二度打ちしないよう、その上に落として保持するため、絹の小さな紐を交差させて、音もなく受け止められるようになっている。

この種の楽器では、音を抑える、つまり止めることが必要であり、そのためにスピネットはジャックの端に布がついている。この新しい楽器でも完全に素早く音を止めることが必要なので、前述のレバーにはそれぞれ小さな尾部があり、それらの上にはレジスターのジャックが乗っている。これらはその用途から消音器(spegnitoj)と呼ぶべきだろう。

キーを押していない状態では、それらは布をもって弦に触れていて、他の弦の振動による共振を防いでいる。しかしキーを押してレバーの先を上げると、同時に尾部は下がり、消音器も下がって弦は自由に鳴るようになる。キーを離すと同時に消音器が再び上がって弦に触れ、振動が静まる。

しかしながら、この機構のすべての動きと内部の仕組みをより明確に理解するために、図をもって、それを作り上げている品目を見てみよう。

A 弦
B ケース、あるいは鍵盤台
C 通常のキー、あるいは第1レバー、その末端で第2レバーを持ち上げる
D キーの上の蹄
E 第2レバー、舌を保持する顎が両側に一つずつ取り付けられている
F 第2レバーのピン
G 可動舌、第2レバーが上がるとともにハンマーに当たって押し上げる
H 薄い顎、舌の回転軸がある
I 上部を平らにした固い真鍮線、舌を所定の位置に保持する
L 真鍮線のバネ、舌の下に入り反対側の固い真鍮線に押し付けている
M 櫛、ハンマーの後ろが挿入され隠れている
N ハンマーの車輪
O ハンマー、舌によって押し上げられると鹿革の貼られた上面で弦を叩く
P 絹の紐の交差、その間にハンマーの軸が保持される
Q 第2レバーの尾部、先端が上がると下がる
R レジスターのジャック、あるいは消音器、キーが押されると下がって弦を解放し、元に戻ると直ちに音を止める
S 櫛を補強する枠

これらの他、弦を保持するペグ、ないし鉄のピンのある板が注目される。他のチェンバロでは板は弦の下にあるが、これの場合はピンが板を貫通していて、弦は板の下に張られている。それで板の下には、すべての鍵盤機構を収めるため、より空間が必要である。

弦は通常のものよりも太い。その張力が響板を傷めないように、弦は響板に直接ではなく、やや高いところに留められている。

カタカタと鳴るような接点は、すべて革や布で保護されている。特に回転軸の穴は並外れた技術でどれも鹿革が貼られていて、軸が通るようになっている。

この天才は普通のチェンバロの製作者としても卓越しているため、大抵ローズがないだけでなく、ケースのどこにも通気口を作らない最近の製作者に彼が賛同しないことは注目に値する。

彼は昔のローズのように大きな穴が必要だとか、埃の入りやすい箇所に穴を開けることが望ましいと考えている訳では無く、正面、あるいは正面の囲いに小さな孔を2つ開け、隠して保護するのを好んでいる。

彼はそのような孔が楽器の何処かに必要であると主張する。なぜなら、響板は演奏時に振動し湾曲するはずであり、そのことは誰かが演奏する時、その上に何か物を置けば振動することでわかる。しかし胴体に開口部がない場合、圧縮された空気が逃げることができず、固く強ばったままなので、響板が動かず、そのため音はやや鈍く、短く、響かない。孔を開けると響板がより振動し、音が大きくなるのがわかるだろう。そしてその孔に指を近づけてみれば、誰かが演奏すると風を感じ、空気が逃げていることがわかるはずだ。

これに関して、是非とも言っておきたいことがある。自然哲学の研究で空気の運動の傾向や効果に光を当てる際、その発見や知識の大きな源の一つであるのに、今まであまり認識されていなかったのは、楽器によって動かされる空気のさまざまな素晴らしい効果を注意深く観察し,その構造を調べ、その完全さや不完全さの原因や、その構造をどのように変えるかということを考察することである。

例えば、弓で弾く楽器で魂柱のあるものでは、その位置を少し変えると、弦がより鳴るようになったり、あるいは鈍くなる変化が起きる。

また、楽器の大きさの違いによる音の変化や多様性、特にチェンバロは響板の厚みなど多くの考慮事項がある。

新しいチェンバロは常に不完全で、年月を経て初めて完全なものになると一般に言われているが、この製作者は新しい楽器でも古い楽器に劣らずよく鳴るようにできると主張していることも見逃せない。

彼は新しい楽器が響きを欠くのは、主にベントサイドとブリッジに残った弾性に原因があると主張している。これらが元の形に戻ろうとする力が響板にかかるために、音が不完全になるのである。したがって組み付ける前にそれらの弾力を完全に取り除いておけば、その悪影響を直ちに除けるのだと、彼は実際の経験からそれを見出した。

木材の品質も寄与する。ペーザロではヴェネツィアやパドヴァの穀物倉庫にあった古いチェストを利用し始めた。それらの多くはクレタやキプロス産のサイプレスでできている。

ここで別の珍しいチェンバロの話をしても音楽愛好家に嫌がられはしないだろう。それは今もフィレンツェの有名な楽長のカッシーニ氏の所有するものである。それには5つの鍵盤がある、すなわち5つの完全なキーの揃いが段をなしている。そしてこれは完璧な楽器と言えるだろう、なぜなら全ての音がその1/5に分割されているためである。したがって不協和音に当たらずに全ての調を循環することが可能であり、その所有者が聴かせるような完璧さで演奏すれば、常に完璧な伴奏が可能である。

通常のチェンバロは、他のすべての鍵盤楽器と同じく、非常に不完全である。なぜなら、音がそのように分割されておらず、完全な五度を持たない弦が多くあり、同じキーをシャープにもフラットにも使用しているからだ。この欠陥を一部回避するために、古いスピネット、特にウンデオのものには、黒鍵を2つに分割したものが見られる。しかし多くの専門家はその理由を理解していない。例えば、本当は G♯ と A♭ の間には少なくとも1/5音の差があり、2本の弦が必要なのである。

しかしながら、それらが合奏で用いられても耳には感知されないとはいえ、チェンバロやテオルボは前述の不完全さからヴァイオリンと完全には調律が一致しない。同様に、黒鍵を多用して作曲することは控えられ、一部の達人によってのみ、その偽りの不快な音が言葉に合う時、または音によって過酷さを表現したいときに用いられている。

鍵盤を持つ楽器のこの不完全さは、フィレンツェ方言で spostato、 普通の言葉でいうところの trasportato (移調)によって気付かされる。五度を持たない弦の上に音が来ると、音の虚偽性が耳を傷つける。ヴァイオリンには鍵盤がないので、すべてがあるべき所を見出し、どんな音でも完璧に奏でることができる。

それゆえ、前述のチェンバロは完璧なイントネーションの喜びに加え、音楽理論の探究に大いに役立つ。調律が難しいと思われるかもしれないが、常に完全な五度によって進行するので実際には容易である。普通のチェンバロでは、五度を下げ、四度と長三度が上がるように注意しなければならないなどの要件がある。

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