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チーズケーキ 〜「ひとくちの甘能」酒井順子

一般的に定番と言われるメニューの品というのは、店が違ってもある程度の範囲内の同じ味にまとまっていると思っている方は多いと思います。

しかし、それは実は誤解であり、店によって、定番メニューも全く味が違うということを酒井順子さんはチーズケーキを例に書いています。

酒井さんは、チーズケーキが大好きなのだそうで、だから微妙な違いにも色々とコメントをしたくなる様子。ですが、私は反対にチーズが嫌いなので、ケーキは基本的に全て好きなのですが、チーズケーキだけは駄目。さらに店ごとのチーズケーキの微妙な違いは、嫌いだからこそわかってしまったりする細かい部分です。

チーズケーキ好きな方=酒井さんの主張はこうです。

そもそもチーズは濃厚な食べ物で、それをケーキにするのだから、濃厚な上に濃厚な、みっちりとしたコクを期待しているのに、スポンジとクリームに、あるかなしかのチーズ臭が漂うだけ・・・みたいなケーキが出てきたら、大変にがっかりする。チーズケーキというのは、文字通りチーズのケーキであるはずのお菓子である。

そして、チーズケーキは濃厚であるがゆえに、少量ずつしか食べられない。小さな身体に非常に強い個性を持っている人のような。濃厚な関係は、細く長く、続けたいものだとのこと。

チーズケーキへのこだわりを、人間関係に置き換える点にはなるほどと思わされました。

私は人見知りはしない方ですが、自分のことを心を開いて理解してもらいたいと思えるような、また自分も相手のことを心から理解したいと思えるような、そういう人には、特に大人になってからはなかなか巡り会えなくなってきたように思います。

冒頭に述べたように、チーズ嫌いの私からすると、チーズはとても生臭く感じます。食べて口の中で溶けながら味が変わっていく感覚も気持ち悪いです。おそらく生臭いのも、溶けながら味が変わっていくのも、それが「濃厚」という性質の持つ本質なのだと思います。

そんなチーズ嫌いの人間が食べられるチーズケーキというのは、どちらかというとヨーグルト風味の、口元に運んだ時も無臭な白っぽい、いわゆる淡泊なチーズケーキということになります。

でも、必ずしも目の前に出されたチーズケーキが、淡泊なものとは限りません。もちろんチーズケーキ好きな方が求めてやまない濃厚なチーズケーキかもしれない。なので、私はチーズケーキを全部避けるというリスクヘッジの選択をすることになるのです。 

チーズケーキの嗜好を人間関係の嗜好と結びつける酒井さん流の考察によれば、私は干渉されない、一定の距離を保った人間関係を好む人間なのかもしれません。実際この年齢になってきての人間関係はそういう種類の人間関係になってきています。でも生臭さのない、濃厚な人間関係が持つような時間の経過によって変化してしてしまう寂しさもない、淡泊なようでいて、自分の時間がきちんと確保できるような人間関係も、それはそれで十分に「甘い」快適な関係だと現代では思うのです。

超高齢化社会と言われる現代では、死ぬまでに自分が関わりを持つ人の人数は、一昔前の人間が一生で関わる人の人数よりも格段に多くなっているでしょう。そんな多くの人間と関わっていくためには、濃厚な人間関係を求めて結局リスクヘッジのために孤独を好むようになるよりは、淡泊な人間関係を嗜好することも効果的な選択だと思います。

まあ、そうは言っても、やっぱり恋人や伴侶とは深い関係でいたいと思うのは、あまのじゃく…なのかな?

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