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可不可salon第一夜         「澤乃井の⼩澤酒造さん」

このnoteでは、麻布十番の和食レストラン「可不可 KAFUKA TOKYO」の日々の様子や、不定期に開催される様々なジャンルのゲストを招いたトーク&食事イベントの「可不可salon」のレポートを綴っていきます。

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今回の可不可salonは、元外務省の百瀬純⼦様の企画、紹介によって実現しました。

1702年創業という300年以上の⻑い歴史の中で続く澤乃井の⼩澤酒造さんをゲストに迎え酒蔵の歴史や今の⽇本酒業界について深く話を伺います。300 年という⻑い歴史の中で酒蔵を続けられた理由や、東京の澤井で地域に密着したお仕事とはどういうことなのでしょうか。

東京にある酒造、澤乃井とは?

澤井「酒造がある沢井という地域は多摩川渓⾕の川沿いに⾯した地域で、⽔が豊かで、美しい⾃然に囲まれています。渓⾕の中に蔵があるため、平な⼟地が少なく、建物も坂に⾯した作りになっています。」

澤井「実は、東京には全部で11軒の醸造元がありまして、先代の時代には倍近くの数がありました。広い⼟地と綺麗な⽔と⼤きな蔵を作るための⼟地を確保するために⼭沿いに酒造が多いのです。どちらかというと、都内より奥多摩や埼⽟よりが多くなっています。」

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澤井「澤乃井のロゴマークに描かれている沢蟹はfresh water crab と呼ばれており、綺麗な⽔があるところでしか⽣きられません。沢井には沢蟹が多く⽣息し、その⽔が美しいことを証明していることからロゴに採⽤しました。」

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1702年創業、⼩澤⽒で23代⽬

武⽥信⽞の家⾂、⽳⼭⼀族が⼩澤⽒の祖先にあたります。武⽥信⽞が戦に負けてしまったため⼀族は追われる⾝になり澤井に⾝を隠しました。軍資⾦を貯めるために商売を始めようとしたが、苗字が⽬⽴つために「⼩澤さん」に苗字を借りたそうです。「やまいち」という屋号で林業⾏っていた時期もあり、林業と酒蔵を⽣業として⽣きてきたそうです。

澤井:「武⼠の⼀族の家系ということや、後継は代々は男の⼦だったため、澤井家には鯉のぼりがないんです。鯉のぼりをあげてしまうと家に男児がいることがバレてしまうのでそれを隠すためでした。」

観光酒蔵という新しいPR⽅法

澤井:「蔵の⾒学や⾷事等ができる酒蔵のことを観光酒造と⾔います。今でこそ多くみられる、観光酒蔵という⽴ち位置を確⽴したのは私の祖⽗でした。当時は、酒造もテレビCM を流すことも多かったのですが、⾦額が⾼いため流せる深夜枠では認知効果がないと考え、よりダイレクトに収益や認知を得るための⼿段として観光酒造、酒蔵ツーリズムが⽣まれました。」

澤乃井が300年以上続く理由

澤井:「お酒作りは⾮常にアナログな仕事です。アナログでなければできない⼯程が多々あるからこそ、デジタルでの再現性が100%ではなくAI にとって変わることができません。最近こそデータ化や分析が最近少しは出てきましたが、それでもまだまだアナログです。デジタル化した瞬間、陳腐化し酒蔵の存在意義がなくなってしまうと感じます。効率化や味の均⼀化のためにさまざまな機械を導⼊してはいるが、それをコントロールするソフト⾯については絶対に⼈間でなくてはならないと思います。それを⼤切に守っているから澤乃井は⻑く続いているのです。」

【澤乃井のお酒の特徴】

・お酒の原料の⽔にはとにかく⾃信がある。(イベント当⽇お客様のお席に⽤意した⽔も⼩澤酒造の近くから汲んできた⽔)⼝当たり柔らかな、滑らかな中軟⽔。

・平な広い⼟地がないため、⽶を作ることが難しい。⽶は時代とともに流通が進化し、新鮮な良いお⽶を産地から直接購⼊することができる、しかし令和の時代でも液体の流通は難しい。そのため、原料の中でも⽔は極めて重要となる。⽔が⽔質汚染等でよくなくなり廃業に追い込まれる酒蔵もあったほど。澤井は⽔には絶対の⾃信がある。

・⼭の井⼾、蔵の井⼾、2つの井⼾がある。

⼭の井⼾:軟⽔

無機質。低い温度でゆっくり発酵が進むと、滑らかな味わいのお酒ができる。⼤吟醸が向いている。

蔵の井⼾:硬⽔

ミネラルが豊富。ミネラル豊富な⽔で作ると発酵がどんどん進んでいく、アルコール度数が⾼くなる。トレンドとしてはゆっくり発酵が進むものが増えている。⽊本造が向いている(⾃然の⼒で発⾏を⾏う、⾻太なタイプのお酒)

軟⽔と硬⽔両⽅が採取できる、全国的にみても珍しい場所である。蔵の井⼾は横向きに掘られている。⼭に向かって⽳を掘るだけで⽔が湧いてくる。⽔の使い分け、発酵プロセスによって⽔を使い分けることもしている。

【お酒ができるまでのプロセス】


01.精⽶

澤乃井で使う精⽶機には⾊彩選別機がついていて、精⽶漏れや削り漏れのあるお⽶を取り除いてくれるため、ピュアなお⽶だけを使ってお酒が作れる。精⽶は⾃社でも⾏っているが、コストを安く済ませたい時は精⽶済みのお⽶を仕⼊れる場合もある。⼤吟醸の精⽶は80時間くらいかかる。精⽶機の精度が⾼ければ劇的に変わるわけではないが、良くなる可能性があるのであれば取り⼊れる努⼒をする姿勢でいる。

02.吸⽔〜蒸し

精⽶の後、1時間程度⽔を吸わせ、⽔を切り、蒸す⼯程。澤乃井の⼤吟醸は吸⽔時間が1 秒ほど。機械ではその繊細な作業ができないので、⼿作業でザルの中に⽶を⼊れてストップウォッチを持ち、1秒⽔につけたら引き上げる。年によって⽶の出来が違うので、実験をしながら今年の⽔につける時間を探る必要がある。

03.発酵

タンクの中に蒸したお⽶、⽔、麹などをいれタンクの中のもろみをかいぼうで混ぜる。特に⼒がいる作業なので最初の1 年⽬は⼿の⽪が全部剥けてしまうくらい重労働で、体がプロレスラーのような体型になってしまうほど。冬の間は⼿がボロボロになってしまうが、ハンドクリームなどをつけてしまうと⼿で作業を⾏う場合影響が出てしまうので基本はつけられない。ちょっとでも⾹りがあるものなどは気にする。にんにく、キムチ、カレーライス納⾖など⾹りの強いものは⼀切⼝にしないというルールがある。発酵中のタンクに落ちると、酸素がない状態なので亡くなってしまうこともあった。

04.絞り

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搾りたてのお酒はエメラルドグリーンの状態、⻘冴(あおざえ)といわれる。→この状態を飲むことができるのは酒蔵だけ。絞った後、⼿で酒粕を剥いていく製造のうちの30%は酒粕が⽣まれる。⽢酒を飲むことなどが減り、酒粕の需要が減ってしまっている。乾燥パウダー状にして何かに添加するなど⼯夫し使い道を増やしている。桶は基本ステンレス製のものを使⽤しており、⽊桶は今2 本だけしかない。秋⽥の新政では全て⽊桶を使⽤しているが、衛⽣⾯の管理をするのが⾮常に⼤変。

⽊桶を使⽤したお酒は、江⼾時代から⾏われる⽅法が続いている。旨みがふくよかで複雑な旨みのお酒ができる。⽊桶の発酵については業界でも謎が多い。木が呼吸しているから、付着した菌との反応により複雑な味わいになっているのでは?など諸説ある。

Q&A

Q 今の20〜30代前半はお酒離れをしていますが、若者に向けてどんな活動を⾏なっていますか?

A 飲酒量が全体として低下しています。ヨーロッパでも若者はワインが飲まないと⾔われているくらい多様化の時代が進んでいるそうです。昔は冠婚葬祭で半強制的にお酒を消費する機会が多くありましたが、今は消費者も⾃分の消費のシュチュエーションを選べるようになっています。飲酒量が減っている=本当に飲みたい⼈たちが飲んでいるとも捉えられます。儀式的な贈答品としてなどの需要が昔は多かったところ、今は「どんな思いで、どんな気持ちになって欲しくてこのお酒を作っているのか」そしてそれをいかに語れるのかが重要だと感じています。作っている我々⾃⾝がお酒のコンセプトやシーンについて想像することが⼤切だと思います。

Q ⼆つのお⽔の使い分け、⼭の井⼾の⽔の引き⽅について教えてください。また、使⽤しているお⽔の量はどちらも⼀緒なのでしょうか?

A ⼭の井⼾の⽅は蔵の横に川があるが、⼭の傾斜を利⽤して、橋の下を通したパイプを通り蔵の中に⼊ってきています。圧倒的に軟⽔を使⽤する⽅が多いのですが、硬⽔を⼊れることでアクセントや個性も⽣まれるのでうまく取り⼊れています。

Q 環境の変化による⽔質の変化はありますか?

A 近くにゴルフ場ができたりすると、⽔質が悪化してしまうことがあります。⽔を守る⾏為が⾮常に重要で、元々林業を⾏なっていたため蔵周辺に⼭を持っているので、管理しています。⼭を保護し、管理することを次の代まで繋げていくことがとても重要だと感じます。

Q 海外に向けての戦略はありますか?

A 海外輸出戦略、海外で需要が増えています。海外の⽅からすると⽇本酒というものは⽇本の⽂化を知る上で重要なので、インバウンドにも注⼒していきたいです。コロナ前などは蔵⾒学もかなり海外の⼈が多くありました。東京の⾃然という観点からも酒蔵とその周辺を知ってもらうことで海外の⼈にも⽇本酒のファンになるきっかけや機会を増やしていきたいです。

Q 継承していくために⼤切にしていること、⾏っている活動はありますか?

A ⽬の前のことで精⼀杯な部分もありますが、⼤事にするのは正攻法に⾏くこと。気をてらったようなことや⼀過性のことはしないようにしよう⼼がけています。

Q スタッフの⼈数は?

A 社員80名、お酒を作る製造部は11⼈です。

Q 若者へ代替わりするにあたり、同業同⼠が⼿を組み酒蔵から⾰新を起こしていくことは考えていますか?

A 同業他社でライバルでありつつも横の繋がりが強いです。お互いに製造⼯程の⾒学を⾏うなど⾮常にオープンな関係を築けています。お互いに切磋琢磨し業界全体を盛り上げていこうとする機運が強いです。

Q 商品の移り変わりはどのくらいのスパンで変わったりしているのでしょう

か?

A 売れているお酒と売れないお酒というものがあるので終売になっていくことがあります。⼀つのお酒で純⽶⼤⾟⼝というお酒にしているが時代に対して味を少しずつ変えています。僅かに、バレない程度にやっていて、この変化がバレてしまうと負けという酒蔵内の不思議なルールがあります。

Q どんなお⽶を何%くらい使⽤していますか?また、どんなお⽶の使⽤量多いですか?

A 全部でお⽶を5種類くらい使っています。⼭⽥錦、500万⽯など。新潟、兵庫県⾷⽤⽶も使⽤しています。味のノリが良くなる傾向があるので定番のお酒を使⽤するお米は500 万⽯が多いです。契約農家によってクラスを使い分けたりすることも。

Q お酒を作る上で重要な味覚のトレーニングや、教育などはありますか?

A 特別なトレーニングのようなことはしていません。強いて⾔えば⾷卓では科学調味料をなるべく使⽤していなかったことくらいです。⽗は⼦供の時から酒を好きになって欲しかったようで、お酒に触れる機会は⼯夫して作っていたと思います。

Q 商品を商品化する時の決定する瞬間ってどんな時でしょうか?

A まずコンセプトを作ることからはじめます。こういうお酒を作りたい、こういう⼈に飲んでもらいたい、度数、⾟⼝⽢⼝、⾹りはどんなもの?という事を決めていき、どんな酵⺟を使⽤して、お⽶を使うのかを検討します。イメージはしますが、実際出来上がる瞬間までどんなものが⽣まれるかは分かりません。作ってみて、そこから意外な良さを発⾒することも多いです。

「澤乃井 純⽶⼤吟醸」が2021 年クラ・マスター

最高位である、プレジデント賞を受賞

澤乃井純米大吟醸

ゲスト:クラ・マスター名誉会⻑ ⾨司 健次郎 ⽒

⾨司⽒(以下、⾨司):「クラ・マスターは2017年にスタートしました。フランス⼈がフランス料理に合う、⽇本酒を選出します。ワインが⾼くなりすぎて、フランス料理に合う別の醸造酒が他にもないかと探していたところ、実は⽇本酒がピッタリという発⾒しました。今は世界的に和⾷ブームで、昔は嫌がられた柚⼦やわさびなどの⾷材、炭⽕で炙るなど⽇本料理の⼿法をフランス料理に取り⼊れることも増えてきました」

⾨司:「⽇本酒が⾊んな料理に合うということが、世間⼀般には知られていません。⽇本⼈は⼀番雑⾷です。1⽇の⾷事の中で、家庭で⾊んな国の料理を作っているというのは世界的に珍しいこと。そしてその⽇常の中でも⽇本酒は飲まれ、変化し続けてきました。どんな⾷事にもあうのは⽇本酒の強みです。ワインのように種類が豊富で、熟成のたのしみや熱燗など温度の変更によっても味や⾵味を変化させられます。」

⾨司:「この度、⼩澤酒造の「澤乃井 純⽶⼤吟醸」が2021 年クラ・マスターの最⾼位であるプレジデント賞を受賞されました!改めて、おめでとうございます。今回この純米大吟醸に対する会長の論評を引用させて頂きます。

澤乃井 純米大吟醸 まず表情豊かな香りに圧倒されます。際立った最高のアロマはホワイトペッパーのような香り。スパイス、白い花、熟した白い果実などを思わせる香りが広がります。味わいは香りの延長が続き口に含むと柔らかな感触が響き合い日本酒だけが持つ美食と調和性の核になる軽い苦味を帯びながら最後まで長い余韻が繋がっていきます。集中されているアロマを開かせるためにも事前にカラフェに注ぎ香りを開かせながらサーブすることをおすすめします。偉大な日本酒です。

というとても素敵なコメントを頂きました。本当に素晴らしいことです。私はこのクラ・マスターが日本酒の救世主になるのではと考えています。世界中どこを探しても日本のように一般家庭でこんなに多国籍な料理を作って食べている国はないんです。そしてさまざまな料理に合うお酒を選ぶなら何だという話になるとそれは日本酒だなと思うんです。これから日本酒の需要が海外でもっと増えれば、国内でも再評価されるのではと思っています。だからこそ我々日本人には日本酒やお米、麹の美味しさにもっと幼少期から触れてほしいと思い様々な活動を行なっています。この会にご参加の皆様もぜひぜひ日常的に日本酒に触れる機会を持って頂けると嬉しいです。」


小澤さんのお話を伺い、可不可のお料理とともに味わう澤乃井の純米大吟醸は格別でした。今後の日本酒業界全体の取り組み、国内外へ日本酒を広める活動についてなどお酒好きにはたまらない会となりました。東京から気軽にアクセスできる酒蔵見学、皆様もぜひ足を運んでみてください。


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