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傷跡

彼女の背には大きな傷跡があった。まるで翼をむしり取られたかのように右の肩甲骨にあたりに大きく。

「それ、どうしたの。」

「子供の頃、アパートの4階から落ちた時の傷。」

「4階?よく生きてたな。」

「工事中でビニールシートが張ってあったから。その真上にね。ただ、運の悪いことに細い鉄柱が出ていてそれでやられた。」

「生きてられたら運がいい。」

「よく覚えていないんだけど、窓際の窓枠に足をかけて立ってたみたい。はっきり覚えているのは、お母さんが私の方へ手を伸ばしているところ。」

「助けようとしたんだ?」

「後から思い出しだしたんだけど、あたしが窓から落ちたのは窓際で遊んでてバランスを崩したせいじゃない。その前にお母さんが私を追いかけて来たからあたしは逃げたんだ、窓の方へと。」

「なぜ?」

「お母さんがあたしを殺そうとしたから。そのあと、自分も死ぬつもりだったみたい。」

「・・・お母さんは今、どうしてるの?」

「死んだ。少し前に。」

「そか・・・。」

「あんなに死にたがってたくせに、死ぬ時は死にたくないって繰り返して。なんでいつも反対のもの欲しがるんだろうね。」

「どうしてだろうね。」

「ねえ、信じる?こんな話。」

「信じるよ。」

俺が傷跡を指でなぞると、彼女は喉奥で微かに笑い声を漏らした。俺には泣いてるように聞こえた。



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