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死神 in 落語(後日談)

寿命がわかる力を悪用して死ぬべき病人を生き返らせてしまったものだから、死神が怒ったのなんのって。

とっ捕まって連れて行かれた先は蝋燭が立ち並ぶ洞窟。死神が言うには、この蝋燭一つ一つが人の寿命、お前が人の寿命を延ばしたのは自分の命を渡したからだよ、見ねぇ、この今にも消えそうなのがお前の寿命。さあ、いつまでもつことやら。

男は思った。ちくしょう、このまま死んでなるものか。

「頼む!頼むよ!何でも言うことを聞くからさ、命ばかりはお助けを!」

死神が軽くさあ〜っと男を払ったら男は吹っ飛んでって、倒れた際につかんだおっきい蝋燭をボキッ、すると死神がガクッ。

はずみってのは怖いねぇ、男がつかんだのは死神の寿命だった。さあ、この隙にってんで自分の蝋燭から火を移してドンっと立てた。何しろ死神の蝋燭だからねぇ、明るいし長いし、こりゃ当分死ぬこたぁないよ?

死神の蝋燭はまだ半分くらい残ってる。ダメでもともと、男は持っていた火打ち石でカチカチって火を点けたら死神のやつ、パチッと目を覚ましやがった。

「あっ、この野郎、何しやがった。」

「あい、すいません、死神さんに救ってもらった命をおのれの欲で粗末に使っちまいました。今後はまともに働いて、人の為にこの命を使いますから、どうぞ許しておくんなさい。」

死神は男の目をじっと見て、嘘がないことを確かめるとこう言った。

「俺の命を継ぎ足したようだな。元は手前の命ならいつ吹き消そうが閻魔様に叱られることもあるまい。やいやい、俺はお前のやりようを見てることを忘れるな。」

「へえ、肝に命じます。」

無事、娑婆に戻った男は約束通り働いたね。年はいったが女房をもらい、子供にも恵まれ孫もできた。皆丈夫で豊かじゃないが食うに困らぬ暮らしができた。困った人がいれば出来る限りの世話もした。いやはや、人ってのは変わるもんだね、死神もびっくりだよ。

歳をとり、いよいよ臨終の時を迎えた。迎えにきたのは、例の死神だ。二人して冥土への道を歩く。

「お前が俺の最後の仕事だ。俺の寿命も今日までだ。」

「と、なるとこれからはどうするんですかぃ?」

「二人して閻魔様の前へ行ってお裁きを受けるんだ。それまでの道中はまた一緒だ。」

「へへっ、冥土への道中も二人連れなら退屈しなくっていいや。道中宜しくお願い致します。」

二人は肩を並べて冥土への旅に出掛けたというお話です。

お後がよろしいようで。




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