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さよならロボピ

8歳の誕生日にロボピが我が家に来た。ロボピは学習型ロボットだ。知能は3才程度まで。言葉は話さないが、可愛らしい鳴き声を出し後をついて来たりまとわりついたりする。

赤ちゃんのように愛くるしいが手間はかからない。充電が必要になったら眠るサインを出して自分で充電する。怒る、泣く、笑う、悲しむなどの感情がインプットされてあり、こちらの対応によって表情が変わる。ランダムに表示されるようで、機嫌が悪い時もありそこが人間みたいだった。私も家族もみんなでロボピを可愛がった。

私が10才の時、妹が生まれた。みんなが妹の方に気を取られロボピのことを忘れてしまった。ロボピが甘えるようにすり寄ってきても、赤ちゃんが泣けばそちらを優先した。ロボピは次第に誰にも甘えなくなり充電器がある場所で静かに座っていることが多くなった。

ある日、久しぶりにロボピのスイッチを入れるとコトコトッと音がしたきり電源が切れた。赤いランプが目の奥で点滅している。「壊れちゃったかな。」とお父さんが言った。明日、メーカーに相談してみようと言ってロボピを段ボールにしまった。

「寿命だって。」とお父さんが言った。「ロボピの本体はリサイクルするそうだ。これはロボピの目に取り付けてあったカメラ機能のデータだ。」

ロボピの目にはカメラ機能が取り付けてあり、自分の顔を見た人の映像を記録するようになっている。PCで見ると、家族一人一人の笑顔が写っていた。甘えるロボピを抱き上げるお父さん、泣くロボピをあやすお母さん、ロボピに歌を歌っている私。生まれたばかりの妹が眠っている。遊びに来たおじいちゃんとおばあちゃん。友達の物珍しそうな顔。みんな優しい顔で笑ってる。ロボピを見るとき、誰もが自然に笑顔になった。

膨大な量の映像の最後に文字が映し出された。

「タクサンノ エガオヲ アリガトウ。アイサレテ ボクハ シアワセデシタ。」

お父さんは「笑顔の数に応じて言葉が出て来る仕組みなのかな。」と言ってたけど目がちょっと赤かった。お母さんも涙ぐんでる。私も泣いた。妹だけが訳もわからずきゃっきゃと笑っていた。

我が家の家族写真には、私、お父さん、お母さん、妹、そしてロボピが写っている。私はきっとロボピのことを忘れないだろう、大人になっても。








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