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第4章:覇王、語る。パパ活による自身の救済について

「かえるくん、待っていたよ。今夜は性と聖と生について語ろうじゃないか」
 覇王はなぜか初対面のはずの僕の目を見ていった。

 覇王は僕と家康をテーブルに座るよう促す。覇王はおいしそうにビールを飲む。
「僕はパパ活の覇王と呼ばれています。かえるくん、パパ活をご存じですか?」
 覇王は僕に聞く。僕はパパ活の知識なんて何もなかった。
「パパ活は僕なりの愛の啓蒙です。目的はパパ活マーケットの効率化です。そこに道徳的な善悪は存在しません。善も悪も主観でしかない。僕は善悪の彼岸にいるのです。そこにあるのは価値中立の世界なんです。」
 覇王は僕と家康を交互に見ながら、ゆっくりと語りだした。
「マーケットの効率化?」
 家康は訳がわからないといった表情で覇王にその真意を問いただした。

「そうです。マーケットの効率化です。マーケット、市場の歪みを自身は活用しながら結果的にマーケットを効率化することで、マイノリティである若い女の子を救うんです。そう、相手を幸せにし笑顔にすることで、同時に自分自身を救済する手段こそパパ活なのです。これはカタチを変えた利他のムーブメントなのです」
 救済?救うとは何のことだろう、と僕は思った。

「分かりやすく説明しましょう。かつてパパ活は“援助交際”というネガティブな言葉で語られていました。そこはアンダーグラウンドの世界。プラットフォームは歌舞伎町や池袋の出会いカフェやデートクラブです。そんな場所をうろつく男性には変質者も潜在的に内包します。つまり女の子にとってリスクの高い場所なんです。もちろん男性にも様々なリスクが潜在します。それが近年、アプリのマッチング機能を活用しオーバーグラウンドでクリーンなものに変化しました。C to Cの流通革命。直販。テクノロジーの力で女の子のリスクを最小化できるのです」
 オナ禁主義者だか童貞の家康が食い入るように覇王を見つめる。

 覇王は続けた。
「この市場に参加している99%のパパはキモすぎるのです。そんな市場の歪みを活用するんです」
「ちょっと質問なんだが。そんなおいしいマーケットがあるなら、なぜそれを僕たちに教えるんだ?マーケットの歪みを独占するには参加プレイヤーが増えてしまったら困るんじゃないのか?」
 僕は率直な疑問を覇王に問いただしてみた。
「今の段階ではライバルが増えることよりも、市場が広がることのほうが僕にもメリットがあるんです。市場を効率化することで僕は女の子を幸せにしているのです。アンダーグラウンドの世界でリスクにさらされてきた女の子たちをね。早かれ遅かれ市場は効率化されてしまいます。効率化した市場では利益は消失します。そうなる前に僕は次の歪みのあるマーケットに参入します。僕は商人ですから。次なる女の子をハッピーにするために新たな旅に出るのです。僕なりの愛のカタチなんですよ」と覇王は雄弁に語りながら残りのビールをいっきに飲みほした。覇王はカッと目を見開いた。
 覇王は僕の目をまた見つめ言った。
「それに読者にテレビや雑誌、ネット検索なんかじゃ入手できない真の情報を提供したいんですよ。僕は商人ですから。相手を幸せにしてから自分が幸せになる。それが商人の矜持です」
「読者?」と僕は言った。

<読者>

 覇王は何を言っているんだろう。僕はしばし考えた。覇王の顔が紅潮してきたのを感じる。覇王の瞳孔が開く。
「かえる先輩、やばいっす。覇王さんの独演会モードのスイッチが入りそうっす」
 家康は僕に小声で耳打ちした。覇王もインターネットが生んだ時代の奇形児なのかもしれない。そのベクトルが秀吉や家康とはまた違うだけで。インターネットビジネスに巣食う人々は社会のはみ出し者が多い。掃き溜めの犬たち。僕がここでいうインターネットビジネスは狭義のインターネットビジネス、裏のインターネットビジネスの世界のことだ。アフィリエイト。情報商材。コンテンツ販売。情報起業家。セミナー運営者といった魑魅魍魎のような連中だ。こんな破廉恥な男を区役所の職員が見たらどう思うのだろう?

 覇王は目が濡れているようだ。恍惚とした表情で語りだす。
「家康くん、君、童貞って言ってましたね。ならパパ活のノウハウを教えましょう。まず、なぜ素人でなければならないか。風俗嬢では駄目なのか。それは僕の無意識の本能が僕にそうさせるんです。リチャード・ドーキンスは読んだことはありますか?利己的な遺伝子、という本です。僕たちは遺伝子の乗り物なんですよ。遺伝子は僕という乗り物から次の沢山の乗り物へ増殖しながら転移したがってるんです。そして男性は原理的には世界中の女性に自らの遺伝子を拡散コピーすることができるんです。風俗嬢は沢山の男性と交わっています。僕の無意識の本能は僕の遺伝子が複製されることを望んでいます。沢山の男性と交わっている女性の膣内に射精しても僕の遺伝子の複製確率は低くなるのを、僕の本能は僕の表層意識にアラートのサインを出します。素人の女の子の膣内に射精せよ、って僕の無意識の本能は僕に命令するんです。あ、もちろん僕は紳士ですからパパ活で生の中出しなんてしないですよ。これはレトリックです。比喩。でも素人の女の子を求めてしまうメカニズムはこれなんです」

 覇王は続ける。
「相場は諭吉3人。それでふっかけてくる女性はブロックです。主導権はこちらにあり、プライシングをするのは私たち男性なのです。一般的な恋愛市場では男性が商品ですよね。動物界もそうですね。メスが性交するオスを選びます。でもパパ活市場では女性が商品なんです。もちろん買い手である我々男性の間でもちょっとした競争は必要です。でもそれはシンプル。キモくないこと。それだけで勝てるんです。家康くん、分かりますか?先ほども言いましたが99%のパパはキモすぎるのです。だから買い手同士の競争は緩やかです。そしてパパ活は女性にもメリットがあります。風俗で勤務する女性を想像してみてください。そこに来る客はデブ・ちび・ハゲ・不潔・歯槽膿漏・ワキガ・キモい・臭い・皮膚病。こんな客ばっかりです。でも風俗嬢は断る選択権がありません。自分で選んだ職業とはいえ、これは人権侵害レベルの問題ですよ。家康くん、分かりますか?でもパパ活なら、まず初めはお茶かお食事をして面談をしてから、その先の大人の関係へ進むことができます。女性にも選択権があります。そのワンクッションがあるおかげで、清純な一般女性がたくさん参入することができたのです。家康くん、分かりますか?これは、冗談で言ってるんじゃないですよ。風俗店では決して見ることのできない清純な女子大生やOLが、パパ活のマーケットには本当にたくさんいます。ルックスも吉原の高級ソープで採用されるレベルの女性ばかりですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

 覇王の独演は止まらない。
「家康くん、先日会った女の子とも豊穣なる愛の時間を過ごせましたよぉぉぉぉぉぉ。愛のない風俗の業務的なひとときよりも長い時間たっぷりと愛し合うことができるのですぅぅぅぅぅぅ」

 家康に語っているようでいて、もはや家康すらも覇王に視界には入っていないようだ。
「先週のことですうぅぅぅ2年間パパをしていた女子大生と別れ次期本命に最有力候補のアキ子ちゃんとセックスしてきましたああああアキ子ちゃんは大学病院で看護師をしていますぅぅぅ25歳ですが童顔なので女子大生くらいにしか見えませんんんんそして若くてかわいいのに性格がとてもいいのですぅぅぅもちろんムチムチのいやらしすぎる身体の子ですぅぅぅ今の若い女性はなんて発育が良いんだぁぁぁ僕は戦後の厚生労働省の栄養摂取ガイドライン政策の正しさを確信しましたぁぁぁ官僚たちが三カ月に一度場末のピンサロで気分転換しながら国のガイドラインを作ってくれたおかげでこんなはちきれそうなおっぱいをもんだり吸ったりできるなんてぇぇぇシャワーに行かせ出てきたらムチムチの体を拭いてあげますうう拭き終わったら陰毛にやさしくキスをしますぅぅ若い女の子の秘密の蜜壺は宇宙のようですぅぅぅぅこの宇宙にもうすぐ僕の肉棒が飲み込まれるなんて想像しただけで僕は勃起してしまいましたぁぁぁピンク色の蜜壺を見つめていると頭がクラクラしてきて僕は言葉でアキ子ちゃんを責めますぅぅぅ「よく洗った?」「うん」「どこをよく洗ったの?」「言わない!」アキ子ちゃんはキスしながら抱きついてきて僕の背中をアダムタッチしてきますぅアダムタッチ知ってますよねぇぇぇ家康くん分かりますかぁぁぁぁ今の若い子はアダムタッチも学習しているんですぅぅぅ普段はセックスなんて興味がありませんみたいな顔をしておいて実はいやらしいことばっかり考えているんですよぉぉぉ僕はこのメス豚がと言いながらバックで突きたい衝動を抑えますぅぅぅ本当は今すぐにバックからパンパンと突きまくりたい衝動を抑えるのですぅぅぅアキ子ちゃんはときおり爪を立てて「ギィー」っと引っ掻いてきますぅアダム先生がDVDでたまに引っ掻くのも効果的と言っていましたが自分がやられるまでわかりませんでしたがゾクゾクするほど気持ちいいですううううう喘ぎ声も「あ~ん」とか「いや~ん」とかそういうのじゃなく、「あ゛あ゛あ゛~」「ゔぅぅぅう~ん゛」みたいな押し殺しても声が出ちゃうぅぅ我慢できなーいぃぃぃみたいな感じ方をしてくれるので攻め好きの僕は大変興奮いたしますぅぅ家康くん分かりますかぁぁぁぁヘソの穴を舐めると「あーん。そんなところ舐めないで~」と体を弓なりに反らせていますぅなんてやらしいんだぁぁ乳首は最後まで舐めないで焦らしますぅぅぅぅでも僕はアキ子ちゃんのいやらしすぎる体に我慢できずアキ子ちゃんの秘密の蜜壺に僕自身を深くゆっくりと挿入していくんですぅぅぅそんな時ですぅぅぅぅぅなんと正常位で突いていると「クビ締めてぇ!」なんてアキ子ちゃんが言うではないですかぁぁぁぁ僕は怯んだぁぁ家康くん分かりますかぁぁぁぁ大学病院で看護師がぁぁぁ日本の医療制度はどうなっているんだと僕は思いましたぁぁぁこんな看護師が増えたらぁぁぁ日本はパラダイスになってしまうぅぅぅ首絞められるのが好きなドM女がいるのは聞いていたしそこで怯むのは男として三流のレッテルを貼られてしまうのも知っていたぁぁでも怖かったぁぁぁぁぁなんということだぁぁ覇王と呼ばれるこの僕でさえ25歳のいやらしい看護師に右往左往させられているんですよぉぉぉちょっとクビを締めてみましたぁぁぁ「もっと強くー!!!」えぇぇぇぇぇこれ以上締めたら死ぬんじゃと僕は思いましたぁぁぁ「いやいや危ないでしょ!」「わたし看護婦だから大丈夫!落ちてもほっとけば意識戻るから!」「いや危ないよ」「もし気絶してもビンタしてくれればすぐ戻るからっ!」もう少し強めにクビを締めた彼女はそれでも足りないようで僕の手をつかみ力いっぱい自分の方に引き寄せたぁぁぁぁ人間って首絞めたくらいじゃ死なないんですねぇぇぇサスペンスドラマとかって嘘なんですねぇぇぇぜんぜんぜん死なないもんんんん家康くん分かりますかぁぁぁぁ両手でクビを締めながらピストンしづらいので肩をガブーっと強めに噛んで「あ゛あ゛ぁ~ん!!!」と絶叫させて腰の動きをトップスピードに乗せて何も要求させないようにしたぁぁぁアキ子ちゃんの蜜壺は温かくて僕は我慢ができなかったぁぁぁそしてすぐに射精したぁぁぁアキ子ちゃんには事前にピルを飲んでもらていたので思う存分に僕の精液を秘密の蜜壺の奥に放出したのですぅぅぅ僕の精液は世界中の女性の膣に放出されたがっているのですぅぅぅぅもう一度言いますがもちろん僕は紳士ですから避妊なしで生で中出しなんてしませんよぉぉぉぉ僕の深層心理はアキ子ちゃんの膣の奥に大量の精液を注ぎ込みたがってるのですぅぅぅぅ射精後も挿入したまま息を整え「アキ子、愛してる」と言い僕たちの愛のセクシャルヒーリングの時間は終わったのですぅぅぅ僕は女性を幸せにし笑顔にし同時に僕も救われたんですよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ家康くん分かりますかぁぁぁぁぁぁぁぁ性によって僕と女の子は初めて生のダイナミズムを味わえるんですぅぅぅぅぅぅ」

 もはや覇王の視界には誰も入っていないようだった。家康が小声でつぶやく。
「マジでやばいっす。覇王さん、ギンギンに勃起してますよ。こりゃ逃げた方がいいっす。だし、秀吉さんも待ってますしね」

 僕と家康が席を立とうとした瞬間、覇王は僕を見つめた。先ほどの熱弁モードが嘘のような冷たい目をしていた。覇王の瞳は緑色の輝きを奥に宿しているように僕には見えた。そして僕に言った。
「かえるくん、秀吉と組むそうですね。噂で聞いていますよ。このネットビジネスの世界は狭いんですよ。僕も情報商人ですから」
最後に覇王はゆっくりと言った。
「僕とかえるくんはまた会うことになるでしょう。困ったことがあったら連絡をください」
 僕は何と言えばいいのか分からず立ち尽くす。家康が場を切り上げようとする。
「じゃ、覇王さん。また。僕たち次の約束があって時間がないもので。失礼します」

 僕と家康は萩の湯を出る。ラブホテルのストリート街。夏を予感させる生ぬるい風。僕たちは秀吉の待つ信濃路に向かった。

【つづく】

※参考文献
「パパ活マーケットの真実/某ツイッタラー(未刊行)」
「実践イラスト版 スローセックス 完全マニュアル/アダム徳永」

本編は僕のリアル友人の田中社長(仮称)をモデルにした。田中社長(仮称)のパパ活・攻略法をベースに本編を書いた次第だ。社長の実際の活動内容は下記となる。


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