2019年2月26日(火)

午前中は吉田健一の【金沢】を読んでいてこれはかなりというかとてつもなく好きな小説かもしれないと思ってそれでゆっくり読もうと思った。外に出て中古の家具屋に行こうと思って行くその道中に別の照明器具を中心としてインテリアが結構揃っているフェアトレードとかやってますみたいな店があってそっちの方がよかった。金が入ったら照明と謎の置物を買いに行くと思うが、謎の置物の方向性を決めかねていて大した知識もないから、うまい具合に歴史的な背景を鑑みた統一感のある方向性に持って行く自信がなく、だいたいそういう時は「統一しないという統一」という方針が採用されるのが常だった。午後と呼べる時間になって三月末の公募のどれかに出す予定の小説のラストシーンを書き始めたら書き終わった、もっと午後一杯使うんじゃないかと思ったがそんなに書くことがなかった。あと一ヶ月で粛々と推敲していくらしい。

それが十四時三十八分のことで喫茶店から出て映画でも観るかという機運に珍しくなって中央線に乗った、新宿に着くまでに程よい時間から始まる映画を探した、選ばれたのは十五時からやっている【バジュランギおじさんと、小さな迷子】だった。ジャストな時間とバシャバンギランドというポケモンの構築名みたいな名前に惹かれた、人生初のインド映画になった、十四時半くらいの私はまさか今日映画を観ることになるとは全く思っていなくてその上それがインド映画だったので笑う。映画館に行って席を決めて会計しようしてカード使えますかと当然使えるだろうと思って訊いたところ使えませんとのことだった、現金の手持ちが1,840円くらいで本当にぎりぎりだった。結局のところマジで良くて、しきりに涙が出てきた。筋自体はだいぶ分かりやすくて都合よく事が運びすぎるのだがそれを上回って効率よく涙腺を刺激してくる映画だった。この手の美徳がわかりやすい映画も感覚的に面白いと思えれば面白いし、何で良いと思っているのか自分でもわからんけどとても良いと思える映画、筆頭はジャームッシュなのだがとにかくそういう映画、大して映画を観る人間じゃないけれどもどちらも楽しめる人間で嬉しい。噂に違わず本当に何回も踊っていて、最初の踊りはここで踊らずしていつ踊る、みたいなタイミングだったが二回目のそれはいやここで踊るんかい、という感じだった。インド映画のダンスシーンは【STEINS;GATE】のOPに合わせられたMADでしか観たことがなかった、シュタゲの動画のことはこれを書いている今思い出した、今見ても面白い。たぶんこれはインドとパキスタンという想像力の足らない私にとってはかなり他人事という距離感でいられたからこそ「愛」や「人柄」を武器に展開していく物語に対して偏屈にならずに楽しさを享受できたのかもしれない。宗教対立も印パ情勢も全然知らない、印パという言い方もこの映画の字幕で知った、パに相当する漢字はないのか。映画百本観るより、インドに一回行った方がいい。吉田が、健一じゃなくて靖直のほうの吉田が言っていた、インド映画を一本観た私はどうなるのか。Wikiによると製作に9億ルピー掛けられたとのことだった、とにかく人も多いし自然も雄大だしその雄大な自然を移動していくロードムービーだから、それくらい掛かっても仕方ない、それに見合う出来だと思った、9億ルピーが日本円にしていくらかは知らない。

それで電車には乗りたくないような気分だったから新宿から歩いて帰った、大久保通りをひたすら西に進んだ。沿道のスーパーの前で母娘がいた、ママはお友達と喧嘩したまま一日が終わるのは嫌なんだけどなー、と母親が言った。追い抜いていったバスの行き先に「中野駅・野方駅」と表示されていた、何度も通っている道だがその表示に初めて気づいた、野方駅では行き先として弱いということだろうか。適当な場所で右に曲がって北上して早稲田通りに出た、逃走中の撮影中ですか、と訊きたくなるような出で立ちの男とすれ違った。逃走中の撮影中ですか。いや違います、仕事終わって、今から家に帰ります。あ、お疲れ様です。

#日記 #エッセイ #コラム #小説 #創作

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