2019年10月29日(火)

帰り道、トランクを開けっ放しにして走っている銀色のワゴン車が私のすぐ横を通り過ぎていった。水色の大きなクーラーボックスとかビニール傘とか工具箱とかが、剥き出しのまま置かれていた。危ないとも思ったけれど、それよりも意外と気づかないんだなとか、荷物も落ちないんだなとか、そういう方向で感心していた。車はそのまま、少し先に見える交差点を減速しながら左に曲がって大通りに抜けていった。突然、あたりが灰色に包まれた。路線バスが、尋常じゃない量の煙を吐き出しながら走っていた。一難去ってまた一難という諺を思い出した。灰色というより、ほとんど黒色と言ってよかった。一応バス通りだったけれど、片側一車線で歩道も狭くて、そこを走るバスや少し大きいトラックは窮屈そうに見えた。対向車やガードレールにぶつからないのがすごいと思った。沿道にはマンションとか雑居ビルとかが並んでいたから、全体が日陰になっていた。ただでさえ薄暗いのに、そのうえ分厚い煙に覆われていた。走行音には異変がないのが、逆に不安だった。バスに乗っている人は、気づいているのだろうか。あんなに煙出してていいんだっけ、と私の前を自転車を押しながら歩いていた女の人が立ち止まって言った、私は、だめだと思います、と言った。女の人の自転車は、どうして車輪が回るのだろうかと不思議に思うくらい錆びていたけれど、黒いプラスチックの前籠だけは新しい感じがした。ぱんぱんに膨らんだ買い物袋が押し込まれていた。葱の先端の青い部分が飛び出ていた。女の人は、たぶん三十歳くらいだと思ったけれど、自信はない。野菜とか傷んだらどうしてくれようか、女の人が前籠を見ながら言った。心底どうでもよさそうな口調だった。それから二人して黙ったまま並んで歩いて、交差点で別れた。私は横断歩道を渡って右に折れて、女の人は左に進んだ。

という架空の日記を拵える、という出来事があった。panpanyaの【いんちき日記術】方式を過去に適用した形である。つまり取り立てて記すべき何かが生じた、というわけではありませんでした。

#日記 #エッセイ #コラム #小説 #創作

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