七夕のお願いごと〜39歳姉のこと〜
令和が始まった去年の5月、私の誕生日の日に姉はメールをくれた。
「お誕生日おめでとう。実は今8週目です。お医者さんから危ない状態だと言われているけど、やっと授かったので頑張って守り抜きたいと思う。」
ざっくりこんな感じのメールが届いた。
この時姉は38歳、結婚して13年。旦那さんは地方への転勤が多く、姉はバリキャリのため仕事を辞めずにずっと週末婚状態だった。
そのさらに2年前のこと。
年末に姉が
「子宮内膜症の手術を受けに入院する。
不妊の原因になってるみたいだから、これで授かりやすくなるかも!」
と、報告をくれた。
やっぱり赤ちゃん欲しかったんだね。
姉が30歳を過ぎたあたりのことだったと思う。姉より3歳年下の兄嫁は、当時子供が1人生まれていた。(現在は3人)
正月に実家に来て「せなちゃん(仮名)も早く産みなよ。」と、不用意に発言して場が凍りついたことを今でも忘れない。
兄嫁は短大を出て就職して2年程で結婚して子供を授かった。
社会人としての経験は少ないが、家庭にどっぷり浸かって幸せな人生なのかもしれない。
この時の姉は子どもが欲しくてもできなかったのか、キャリアの妨げになるから子どもが欲しくなかったのか、もしくはその両方で気持ちが揺れていたのか本当の気持ちはわからない。だけど、姉はこう答えた
「今は女性が活躍する時代だから私は仕事に生きたいの。ゆきちゃん(仮名)には関係のないことだよ。」
そのとおり。義姉には関係のないことだし、親族が集まる場で大胆にする発言ではない。
「そうかもしれないけど、子どものいる人生は幸せだよ。欲しいなら早くしたほうがいいと思って。私は○○家の長男の嫁として言ってるの!」
はぁ。こいつまだ言うかと思った。
そもそも幸せのカタチは人それぞれで、例えば1人で好きな時に好きなことができることに幸せを感じる人もいれば、大家族一家14人の漆原家みたいな賑やかさに幸せを感じる人もいる。自分の幸せの型に他人をはめ込んであれこれいうのは違う。
それに、もし姉が不妊で悩んでいると打ち明けた場合なんと助言するつもりだったのだろう。親族一同が集まるこの場で。
兄と3人でドライブに行ったり本当の姉妹みたいに思ったこともあったけど、この発言で私の中で兄嫁は一気に無理な人になってしまった。本人が話さない限り、血が繋がっている家族でさえ触れるのがご法度なタブーというものはある。
兄嫁は親族ではあるけど、所詮は他人なのだからズカズカ踏み込んでいい領域ではないと当時20歳くらいだった私でも思った。
男性陣はこの時みんな酔った振りして狸寝入りしていた。
触らぬ神に祟りなしである。
その場をどうやって収めたのかをよく覚えていないけど、修羅場の空気に耐えられないので、この正月以降私は親族の集まりに一切参加していない。
口にはしなかったけど、きっとこの時姉は深く深く傷ついたのだと思う。
兄嫁のこともよくは思ってはいないだろうけど、割り切って表面的な家族付き合いは続けている。
姉が妊娠した時
「お兄ちゃんには言わないで…」
と念を押された。
兄というより、兄嫁に知られたくないし干渉されたくないんだなと悟った。
兄も優しいし良い人ではあるけど、女心に疎いばかりに何気ない言葉で傷つけてしまいそうだから。
しかし、懐妊の報告をもらった3日後くらいの検診で、赤ちゃんがお腹の中で亡くなっていたと知らされた。
気持ちの整理がついていない中でキッチリ連絡をくれる所、真面目な姉らしい。
喜んでいたのを知っていた分、あまりにも残酷な知らせに
「残念だったね。とにかく、ゆっくり休んで」
と、声をかけるのが精一杯だった。
「ガッカリさせてごめんね。旦那さんの肩を借りて泣いたよ。」
そう言われたけどなんて返して良いか分からず、そのまま音信不通にしてしまった。何も言わないことが優しさのような気がした。
身内が言うのもなんだけど、姉はそこそこ美人だし頭が良く努力家で欲しいものは自分の力でなんでも手に入れてきたって感じの人。
結婚して10年以上。
高齢出産にあたる年齢で、やっと授かった命の火が消えてしまった時の気持ちを想像しただけで苦しくなった。
忙しい日々の中でその出来事は私の中でだんだん薄れていき、今年6/23の朝を迎えた。
母が「せなちゃんがね、9週目で出血して入院になっちゃってお見舞いに来てるから!実家のおばあちゃんのお世話お願い!」
と電話をしてきた。
妊娠を知らなかったけど…嘘でしょ。
またなの…。と、絶望した。
聞くと、姉は切迫流産で。
流産とつくからドキッとしてしまうけど、危険な状態にあって絶対安静だけど赤ちゃんは無事だったようだ。
良かった…。
その週には無事に退院して、つわりも少しおさまり仕事にも復帰した様子。
ニュースなんかではよく目にするけど、私の周りの人は結構トラブルなく出産してる人ばかりだった。
言わないだけかもしれないけど。
赤ちゃんは簡単にやってくるわけでも、育つわけでもないんだなと姉を見ていて感じるし、だからこそ軽い気持ちで発した言葉で傷つけないようにしたいと慎重になる。
デリケートな問題は特に、言わないだけで悩みを抱えてる人は結構いるもの。
話して発散したり解決の糸口が見つかることもあるけど、逆に傷つけられたり相手まで悩ませてしまうかもとしまい込む人もいる。
幸せそうに見えるあの人のインスタやFacebookで見えている世界が全てではないのだ。
とにかくまだ安定期じゃないけど、今度は無事に生まれて欲しい。
あ、そしたら姪甥合わせて4人になってお年玉の支出が増えるなぁーw
七夕の今夜、姉のお腹の中の赤ちゃんが無事に成長して出産できることを祈りながら軽く頭を抱える楓叔母さんであった。
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