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切実なる決断のはなし。


「思いやりに正解はないのだ」


わたしは、先月より野菜を育てはじめた。
キッカケはたいそうなものではない。

趣味の多肉植物を探しにホームセンターへ出かけたとき、ふと目にとまり、育ててみようと思った。

ただそれだけである。

そのときはまだ、まさか野菜から人生の決断を迫られるなんて思ってもみなかった。

それは、ある朝4:00のこと。
わたしは仕事の都合で早起きすることが日課となっている。

そして、早朝の水やりがモーニングルーティンのひとつだ。

ベランダへ朝日を浴びて目を覚ますことを目的として始めたが、今となっては完全に野菜へ挨拶をするために会いに行っている。

その日もいつも通り挨拶しに行ったが、
いつもと様子がおかしい

何だか元気がないのだ。
そして返事もない。

おかしいと思ったら悲惨な光景が繰り広げられていた。

わたしの家族とも言える大切な「パプリカ」の腹部あたりに損壊が見られた。

現場は殺伐とした空気に溢れ、みな静まりかえっている。

完全にやられてしまった。辺りを見回すが、犯人の形跡はない。

これは緻密な計画的犯行である。

被害にあったのは、3個中の2個のパプリカである。
悲惨な姿に目も当てられない。グッタリとしていて目がうつろいでいる。

これ以上、こんな姿をさらすわけにはいかない。
わたしはとっさに実を摘んで、楽にしてあげた。

さぞかし昨夜や辛かったろう。
早々に気づいてやれなくて申し訳ない。

周りのナスやバジル、キャベツも怯えている。

いつもの活気溢れる顔とは、かけ離れている

無理もない。
わたしたちが同じ状況に遭遇したとき、
きっと同じ感情を持つことだろう。

旅立ってしまったパプリカのことをいつまでも、悔やんでいても仕方ない。

大切なのは、残された唯一のパプリカを考えてあげることだ。

こうして、パプリカとわたしによる人生の決断が始まった。



まず、大事なのは傷ついた心にソッと寄り添うこと。
そう思い、優しく手で実に触れてみた。

つ…冷たい

完全に心が冷え切っている。
気温が肌寒かったことは決して関係ない。

非常にまずい状態だ。

まるで、難航事故で大切な仲間を失い、一人だけ生き残ってしまったことによる絶望に堕ちっているかのようだ。

こいつ何を言っているのだろうか。
きっとそうお思いのことと察する。

しかし、そこまで野菜に寄り添ったことがあるのだろうか。

わたしは胸を張ってこう断言させてもらう。
触れれば伝わるのだ。」

実は無事だが、心が喪失している。
仲間の元へと旅立たい、そう気持ちが強くなっているに違いない。

ここでわたしは悩んだ。

■パプリカの気持ちを汲んで、一思いに楽にしてあげるか。

■命あることに意味があり、絶望の中生きる希望を信じさせてあげるか。


悩んだ末、後者を選ぶことにした。

現状、パプリカには辛い思いをさせてしまうが、
きっと生きていてよかったと思える日が来ることを祈って。

冒頭でも言ったが、思いやりに正解はないのだ。

パプリカからすれば、前者を選んで欲しかったのかも分からない。

人生とは、その答え合わせなのかもしれない。


この記事を読んでいただいた方に、
誤解を与えたくないので先に申し上げる。

わたしは決して寝ぼけていても疲れ切っているわけでもない。


そしてここだけの話。
わたしとあなただけの秘密。

その日、5歳の娘が
あのパプリカはどうやって食べようか」と笑顔で聞いてきたことは
まだパプリカには言えずにいるのであった。


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