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シーソーシークワサー【05 ネルシャツワンピの人妻~ありがとうございました~】

 【シーソーシークワサー】

05 ネルシャツワンピの人妻~ありがとうございました~


 どこかでおおきなギアがまわる音が聞こえる。そう言えば、漁船以外の船に乗るのは久しぶりだった。波のうねりがダイレクトに伝わって来るでもないが、たしかに水の上だと感じる左右の揺れはフェリー独特のものだった。
乗船時、「2等」と「2等寝台」の違いを聞いたら、大広間で雑魚寝か、簡易ベッドかの違いらしかった。


「この時期、混んでないですからね、2等でも、1等でも、快適さは同じですよ。まぁ、2等寝台でも個室に近い状態ですから。人と顔を合わせたくないのでしたら、カーテン一枚のある2等寝台ですね」


 何度もそう聞かれて、嫌気が差している質問なのだろう。慣れた様子でそう答えた受付のおばさんの眉間のしわがそうも語った。


 本当に、人がいない。

 乗船客は、ワケアリの中年カップルらしき1組と、車ごと乗船してきた家族連れが数組、トラックの運転手、テンションが上がりきってスマホを離さない学生カップル、そして、それを眺めている俺、だ。それぞれを見渡せる範囲に、この船の客はいた。


 夜明けとともに出航する便なのだから、利用客も少ないのだろう。島から出た船の上の世界は、俺が今までいた場所とは、何もかもが違っていた。そそくさと寝台に移動し、カーテンを閉め、年期の入ったごわごわとした黄色い毛布一枚に包まると、さっきまで冴えていた頭がいやに落ち着いてきて、本当に独りになることがこんなに心地よいものなのかと、気付けば目を閉じていた。それでも、自然に寝つけるわけではない。


 耳の奥からは、また、別の誰かの声が聴こえてくる。ああ、あの人だったか。




 「ねぇ、はるみくん、今、他のこと考えてたでしょ?」


 あまりにもウンチクが長い人妻の話を聴いていたら、生半可な返事をしてしまい、感づかれたことがあった。その時にはもう、2位のアイツとは圧倒的な差が付いていて、NO.1の座は揺るがないものだったし、「女の子はこう扱えば客になる」みたいな俺なりのルーティンに入っていて、気を抜いていた時だった。

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