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【今月のベストレビュー】本が好き!×カドブン Vol.68 『一番の恋人』

書評でつながる読書コミュニティサイト「本が好き!」に寄せられた、対象のKADOKAWA作品のレビューの中から、毎月のベストレビューを発表します。
今月はあおいさんの『一番の恋人』(著:君嶋彼方)レビューが選ばれました!


愛した人にプロポーズをした。快諾してもらったのに彼女は僕を愛していない。 そんな彼女は社会がいう「普通」になれず苦しんでいた。 ただ2人を応援し、自分の何気ない日常がさらに愛おしく感じることができる作品

レビュアー:あおいさん

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

『君の顔では泣けない』を読み衝撃を受け、君嶋先生の新刊を楽しみにしている。
そして三作目となる今作は、最近よく多様性という言葉を耳にするがその当事者、そしてその外側にまで光が当てられていて深く考えながら読んだ。今までの作品に比べ読者の年齢層がさらに広がる作品になるのではないだろうか。

道沢一番には恋人の千凪がいる。
一番という名前は「何事にも一番になれるように」と父親がつけた名前だ。
一番の兄は勝利という名前だが、父親の期待に答えることが出来ず実家で暮らしている。
そんな一番は恋人の千凪を連れて実家を訪れ、その場の流れで結婚を申し込む。彼女は快諾してくれたはずだった。そこから千凪の思いとともに物語は思わぬ方向へ動き出す。

千凪は一番と出会う前にも彼氏がいたことがあった。でもその人を独占したいとか触れ合いたいという思いを抱いたことはない。そして性行為のたびに嫌悪感を押し殺し耐えていた。
プロポーズされた夜、千凪は「人を好きになれない、どうして」とスマホで検索をする。
そこで千凪は初めて「アロマンティック・アセクシャル」という言葉を目にする。千凪は恋愛感情も性的欲求も抱くことがない性質のアロマンティック・アセクシャルだったのだ。
それでも彼女は一番との結婚を選んだ。

千凪は一番のことが好きだ。でもそれは恋愛としての好きではない。
一番は千凪を愛していて、アロマンティック・アセクシャルだと言われても彼女と一緒いにたいと願い自分の性的欲求も抑えようとする。
結婚しても触れ合わない、子供を望まない、それは社会で理想とされる結婚という形なのだろうか。
その思いに苛まれそこから2人はすれ違っていく。

LGBTQといいう言葉は一般的に広まった。
私は『恋せぬふたり』という映像作品と小説でアロマンティック・アセクシャルという言葉を初めて知った。そして性的指向(Sexual Orientation)と性自認(Gender Identity)の頭文字をとったSOGIという言葉と考え方を知った。
自分の性自認を言いたくなければカミングアウトする必要もない。誰だって社会がいう「普通」に憧れる。でもその「普通」の枠に当てはまらなくて苦しんでいる人がいることを知るだけでもいいのではないだろうか。
多様性を受け入れようと社会は変わり始めている。だけど自分が理解できない人に対しての一番の父のような言葉を投げつける人もいる現状も描かれている。

もしあなたが愛した人が千凪のような人だったらどうするだろうか?
一番の両親のように親の立場で考えてみてもいいだろう。
誰かのいう「普通」に当てはまらなくて苦しい思いをしている人に、幸せを願う権利がないとは私は思えない。だからこそ2人が出した結論は納得し応援できるものだった。
装丁のカバーも印象的だが、カバーを外した表紙の写真がとても良い。自分が見た風景の写真を送り、何気ない日常の下らない会話ができる人がいることの幸せを感じる一枚だ。ぜひ読み終えてからカバーを外してじっくり眺めてほしい。
幸せな日常がずっと続くのかは誰にも分からない。だからこそ、何気ない日々をもっと大切にしたいと思った。

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書誌情報

あらすじ

『君の顔では泣けない』の著者が描く、恋愛を超える愛の物語
道沢一番という名前は、「何事にも一番になれるように」という父の願いで付けられた。
重荷に感じたこともあったが、父には感謝している。「男らしく生きろ」という父の期待に応えることで一番の人生はうまくいってきたからだ。
しかし二年の交際を経て恋人の千凪にプロポーズしたところ、彼女の返事は「好きだけど、愛したことは一度もない」だった――。
千凪はアロマンティック・アセクシャル(他人に恋愛感情も性的欲求も抱くことがない性質)で、長年、恋愛ができないが故に「普通」の人生を送れないことに悩み、もがいていたのだった。
千凪への思いを捨てられない一番と、普通になりたい千凪。恋愛感情では結ばれない二人にとっての愛の形とは。

書名:一番の恋人
著者:君嶋彼方
発売日:2024年05月31日
ISBNコード:9784041147900
定価:1,760円(本体1,600円+税)
総ページ数:256ページ
体裁:四六判並製 単行本
装丁:坂詰佳苗
写真:酒井貴弘

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