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書店員のイチ押し小説 第1回 ページ薬局・尼子慎太さん

書店員さんが「イチ押し」だと思う本は、どんな本なのだろう?
毎日たくさんの作品に触れている「本」のプロたちに、カドブン編集部がイチ押し小説を聞いてみました!
記念すべき連載の第1回は、大阪で町の調剤薬局として親しまれながら、書店としても多種多様な本を取り揃えているページ薬局さん!
「人生を変えるような1ページと出会ってほしい。その想いを込めて『ページ薬局』と名付けました」という、薬局と書店という二つの顔を持つお店で働く尼子慎太さんに、イチ押しの本についてメールインタビューにて伺いました。

今回のゲスト
ページ薬局 尼子慎太さん

大阪府内に店舗を構えるページ薬局で、薬局と書店という二つの分野を担当している尼子さん。きっかけは、大学時代の先輩(現在の勤務先常務)に、「薬局と本屋を組み合わせたお店を作る予定なんだけど、興味ないか?」と誘われたからだそう。
地元で働けること、また本の販売という新しい仕事に興味を惹かれ、書店業務は未経験ながらも、1000冊規模の本を扱う店長として働くことになったそうです。

子供のころから本に触れていたものの、それまで書店員としての経験がなかった尼子さん。当初は他の書店やSNSの情報を分析して本を仕入れていたそうですが、ある日、前々から気になっていた『店長がバカすぎて』を読み始めたところ、あまりの面白さにすぐ読み切ってしまい、その経験から「小説って面白い!」とさまざまな作品を読むようになったとのこと。

「自分で売れそうな本を探して並べる楽しみ」から、「“本に興味がない人”をどのようにして本の世界に引きずり込むか」という考え方に切り替わった尼子さんは、現在精力的にさまざまな小説の推薦コメントを発表し、そのコメントが注目されて本の帯や新聞広告、2024年本屋大賞の発掘部門「超発掘本!」にも使用されています。
そんな尼子さんが今回おすすめしてくれる本は、どのような作品なのでしょうか?

――まずはページ薬局さんのお店の魅力を教えてください!
なんと、調剤薬局の待合室が本屋になっています。
1000冊ほどのバラエティに富んだ在庫があり、本屋として利用していただく方には勿論のこと、普段本を読まれない方にも本との偶然の出会いを提供できるところにやりがいがあります。

――確かに、薬局と書店という二つの特徴が組み合わさることで、今までにない偶然の出会いが生まれそうですね。店舗のなかで、尼子さんの担当されているジャンルはありますか?
当店で取り扱いのある全ジャンルを担当しています。

――好きな小説のジャンルはありますか?
割と幅広く興味はあるのですが、特にミステリーや人情物の要素を含む作品が好きです。

――尼子さんのイチ押し小説を教えてください!
『六人の噓つきな大学生』浅倉秋成(角川文庫)

恥ずかしながら、こっそりやっている「第一回尼子賞」(※)が今作でした。
(※「第一回尼子賞」:毎年12月に店頭で、尼子さんが個人的に全力で推したい・面白かった一冊をPOPで紹介する賞)
今年映画化も決まっているベストセラー作品ですが、軽くあらすじを説明すると、
IT企業の新卒採用に集まった男女6人に課せられた最終選考がなんと、「6人の中から内定者を1人決める」というとんでもないグループワークだった!!
そこに、「〇〇は人殺し」という匿名の告発文が出てきて…!?といった序盤から魅力てんこ盛りの就活ミステリーです!!

当時帯の文章で、著者の浅倉先生が「伏線の狙撃手」と称されていて、そんな大層な二つ名が……って気持ちで読み始めたのですが、最初から読む手が全く止まらず、緻密に張られた伏線の数々にラストは浅倉先生の狙撃銃でまんまとハチの巣になっていました。いや、これ狙撃ってレベル超えて乱れ打ちじゃん……
そんなツッコミをよそに、穴だらけの体に残る心地よさが本当に素敵で。
謎も読後感も100点満点の最高傑作だと思っています。

――熱いコメントと共にご紹介いただき、ありがとうございます! この作品はどんな方におすすめでしょうか?
・小説を普段読まない方(本当に読みやすい!)
・徹夜するほど面白い小説に出会いたい方
・人が殺されないミステリーをお求めの方
・就活の経験がある方
・むしろ面接する側だ、って方
・伏線のマシンガンで撃ち抜かれたい方
におすすめです。

――就活や面接という、多くの人が体験するライフイベントをきっかけとした作品なので、普段小説を読まない人でも楽しめるポイントがある作品ですね……!
そんな『六人の噓つきな大学生』の隣に置いておすすめしたい作品はありますか?

『詐欺師と詐欺師』川瀬七緒(中央公論新社)

こちらは就活生じゃなく、そのまま「嘘つき」を仕事にしてしまった人達の話ですね。
天才詐欺師である「藍」と、詐欺師というには生真面目すぎる「みちる」の凸凹バディがみちるの親への仇の復讐を目指す愉快なコンゲーム!
というのが、大まかなストーリーです。

とにかく主人公である藍がかっこよすぎて、詐欺を働く上での算術や思慮深さ、人を騙すための雑学の知識の豊富さ、焦りを表に出さない冷静さに、ピンチを切り抜ける洞察眼と、読んでいる内に気付けば人を騙す快楽に嵌ってしまうとんでもない本です。

また、倹約家のみちると浪費家である藍の、価値観が180度異なる2人のやりとりも最高に愉快! ぜひ、この最強バディのコンゲームを楽しんでくださいね。
……と、ここで紹介を終わりたいのですが。

老婆心ながら一言だけ、タイトル、『詐欺師と詐欺師』です。
大学生の嘘と、大人の嘘は、一味違う……?
小説の面白さが詰まった両作品、是非ネタバレなしで楽しんでください!

――素敵な作品をご紹介いただきありがとうございます! 学生の嘘と大人の嘘の違い。この2つに興味を惹かれた方は、ぜひ両方の作品とも手に取って楽しんでみてください!

ページ薬局
住所:大阪府豊中市蛍池東町2丁目3番6号 シャンティー今谷101
営業時間・定休日は公式ホームページをご確認ください。
公式ホームページ:https://page.friend-ltd.com/index.html


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