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【西館4階 K-137】11/12(日)デザフェス58に出展します!


架電家電と申します。
デザフェス58に初参加、短編集を1冊出品する予定です。

■日時:11月12日(日)11時~19時
■場所:東京流通センター第一展示場
■ブース位置:K-137 西館4F
■出展名:あまどい
■メンバー:架電家電、NAMMi


【出品予定の作品】

短編小説集
「片瀬江ノ島駅改札口前/ドーナツを見るとき」

去っていった人たちと、いずれ去ってゆくものたちのこと。
喪失をテーマにした2篇の物語。いずれも主人公が逃避でも克服でもない選択を見いだす作品です。


【試し読み】

以下、試し読みです。

片瀬江ノ島駅改札口前

 どうしてこんな事になったんだっけ。八月の正午、海辺の歩道を二人、縦に並んで歩く。すぐ隣を真っ赤なワゴン車が通り過ぎていった。流行りのJ-POPがビーチからかすかに響いてくる。

 最初は、私が幼い頃に行った潮干狩りの話をしていた。流されていったサンダル、あさりに混じったはまぐり。片手の大きいカニの話。カーシニゼーションって知ってる?って聞かれたから、私は知ってる!と、意気揚々と説明した。彼と競うように説明してしまったのだ。これが良くなかったんじゃないかと思う。

 その後から、少しずつ彼の機嫌が悪くなるのがわかった(人混みのせいもあるかもしれないけど)。海の家で塩焼きそばを一緒に食べてる時、「咀嚼している時に飲み物のコップに片手を添えるのはよくない」と指摘された。海の奥に変わった形のヨットが見えたので教えてあげたら、「人や物を指差すのは失礼だ」とも言われた。観光客が多い中、注意して歩いてるつもりだったのに、「子供じゃないんだから、ちゃんと前を見て歩け」だとか。あーあ、これは全部正しいことで、私はなかなか直すことができない。こうやって少しずつ、失望の貯金を貯めていかれるのだ。一度与えた失望は、彼の中で消えることはないだろう。汗がすっと胸の間を伝って、不快さに身じろいだ。

 私の二、三歩前をすたすた歩く彼の背中を見つめる。南国の草花の模様をしたアロハシャツ。今日に合わせて着てきたのかな。楽しみにしてくれていたのかもしれない。彼のこういう所は可愛くて、いいと思う。それにしても、なにを話せばいいだろう。不機嫌な人に対して、今更シャツの柄の事を話すのも、ごまかしているようで少し違う気がする。

 この人の機嫌を損ねるのはもう何度目かわからないけど、そのたび胸がそわそわして落ち着かない。どうしたら機嫌を直してくれるかって、そればかりが気になってしまう。反面、頭の片隅に「またか」という感情と、少しの悔しさが浮かび上がる。私、なんか悪い事をしたんだっけ。いつもみたいにセックスしたら普段通りに戻るんじゃないかな。私は、彼をばかにしている。心の奥底では、自分が与える側で、彼の考えることなんて全てわかると思っている。でもこれは、お互い様かもしれない。振り返ると、あまり綺麗とは言えない海が遠くに見えて、砂埃のせいなのか、フィルターがかかったみたいに少し霞んで見える。暑いし、みじめだし、本当はとっくに歩き疲れていて、それでいてこんな状況だから、どうしようもない。

 試しに、そっと立ち止まってみる。彼は気付かずにずんずんと前へ進むので、人混みに紛れて距離が開いてゆく。それがなんだかおもしろくて、歩いては立ち止まって、歩いては立ち止まって、を繰り返してみた。気づかない。まだ気づかない。そんなものだよね。思い切って、足音を立てないように反対方向を向く。そのまま私は地面を強く蹴って走り出した。
…(続く)


紹介は以上です。
ぜひお気軽にブースにお立ち寄りください!
お待ちしてます。

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