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超超超訳 錦繍(宮本輝)

これでも母さんからの推薦図書「錦繍(宮本輝)」を超超超訳。

14通の往復書簡からなる本作は、地の文も台詞も一切ない。ただ文庫本270ページ分の手紙があるのみ。

往復書簡の主は、昔夫婦だった有馬靖明と勝沼亜紀。十年前、有馬の愛人由加子が無理心中を図ろうと有馬を刺して自殺。有馬は生き残ったが、新聞沙汰になり亜紀と離婚。

蔵王で偶然再開した二人。亜紀が有馬の住所を突き止め、手紙のやり取りがはじまる。

書簡の超超超訳(アイコン一個=手紙一通)

👰‍♀️「蔵王なんかであんたに会うとはびっくりや。あの事件以来十年ぶりやな。あんとき、由加子はゆきずりのホステス言うてたけど、ほんまは中学のときからの知り合いらしいな。あたし知っててんで」

👨‍🔧「ばれてたか。一時期、舞鶴におったときの同級生や。なれそめは、こうこうこれこれや」

👰‍♀️「そこまで書かれたら、逆に消化不良おこすから事件の日のいきさつまでちゃんと教えてや。あと、なんであの日蔵王におったんや。今どんな生活してるんかも知りたいわ」

👨‍🔧「もうええやん。もうこれ以上書きたないし、これ以上手紙送って欲しないわ」

👰‍♀️「あたしは書かんではおられんのや。嫉妬と愚痴と思ってくれて結構。あの事件以来、私はこうこうこれこれと過ごしてきたわ。長なったから今日はここまで。続く」

👰‍♀️「続き。こうこうこれこれで、結局再婚した。オトンが勝手に決めてきた縁談や。あー、書きたいことの半分も書けてないけど、子供帰ってくるから今日はここまでや」

👨‍🔧「受け取った時うざいと思ってしばらくおいてたけど、結局読んだわ。あんた変わったなー、ええ意味で。蔵王で見た身体の不自由なお子さんを育ててきたせいかな。今日はなんであの日蔵王におったか教えたるわ。こうこうこれこれや」

👰‍♀️「あんな長いのニ通も読んでくれて、返信までくれてマジ感謝(泣)。でも、あんたに対する強い憎悪もあんねん。うちの息子は先天的な能性マヒなんや。あんたと離婚にならへんかったら健康な子供産んでたのかなと思うと...。興奮して、何書いたらええかわからんわ」

👨‍🔧「オレのせい言われたら返す言葉ないわ。今日は、今つき合ってるパートナーのこと教えたるわ。こうこうこれこれや。」

👰‍♀️「最初は十年前のことメチャ気になっててんけどな。もうどうでもええようになってきたわ。今日は、あんたと別れてから再婚した旦那とのこと教えたるわ。こうこうこれこれや。結局、男は浮気すんねんな。あいつ好かんわ」

👨‍🔧「男の浮気は本能みたいなもんやな。こっちはパートナーの始めた事業に巻き込まれてこき使われてるわ。まあ、ヒモみたいなもんやからしゃあないねんけどな」

👰‍♀️「あんたもあたしも過去のことばっかし書いてきたけど、そろそろ未来に目を向けなあかんな。あんたのせいであたしが不幸になったと思っててんけどな、あたしと旦那の業やって気づいたわ」

👨‍🔧「最後の手紙や。前の手紙でパートナーの事業手伝ってるって書いたやん。あれ、なんか面白なってきてん。でかくしたいんや。幸せになってな。心から祈ってるわ」

👰‍♀️「最後の手紙や。オトンが旦那と別れろって言うてくれたわ。子供と一緒に強く生きていくわ。あんたも素敵なパートナーと幸せになってな。心から祈ってるわ」


過去にわだかまりを持つ男女がそれを昇華させ、過去→現在→未来とまなざしを移していく話。ありがちではあるが、対話ではなくて手紙での通信というのがあや。

最初の手紙は1月、最後の手紙は11月。途中、読むのをためらったり、書くのを躊躇したりしながら、一年近くかけて一連のコミュニケーションが完結する。

コミュニケーションとは情報の伝達だけを指すのではない。受け取った情報をのみこんで自分のものにするためのリードタイムがある。

いまどきのメールやSNSを通じたコミュニケーションでは、情報は伝達できたとしても、その内容の受容、態度の変容がついていっていないのだと思う。テンポが早すぎることと、情報の投げ手主体でコミュニケーションが進むことが原因だ。

コミュニケーションは受け手主体でないと上手くいかない。教育も、業務指示も、恋愛や人生のアドバイスもそう。投げ手側が、投げるタイミングをはかること、受け手の受容を待つことが大切だ。

そんなコミュニケーションを可能にする一つの手段が手紙なのだと、再認識させられる作品。


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