30分と3分

ケータイ、メールはおろか、ポケベルさえなかった時代のロマンスの話だ。

おじさんのこういう話が、キモイと思う人はここで引き返すよう警告する。読んでからの苦情は受け付けない。


さて、

高校1年のとき、初めて彼女ができた。

テニス部のYちゃんだ。私はバレー部だった。

部活のランニング中、テニスコートで玉拾いするYちゃんに一目惚れし、私の方からアタックしたのだ。自分でも不思議な力が出た瞬間だった。

友達の力を借り、ラブレターを渡した。どうにか付き合うことになったものの、Yちゃんとは部活もクラスも別で、校内で話す機会をなかなか作れなかった。そこで、毎朝待ち合わせて一緒に登校することにしていた。

どちらも部活の朝練があったので、6時半にYちゃん家近くの公園で待ち合わせた。そこから学校までは自転車で10分かからない距離だが、自転車を押しながら30分歩いた。どちらも初恋で、話す言葉は多くなかったが、至福の早朝であった。

学校が近づくと、早くも別れの時間だ。昨晩書いた手紙を交換した。Yちゃんは、可愛らしい便箋を2~3枚重ね、ハート型に折った手紙を渡してくれた。学校のこと、家族のこと、テレビやラジオのこと、たわいない内容が、便箋いっぱいにびっしり書かれてあった。私も、毎日2枚分以上、書くことをひねり出した。ペン書きのため、間違えるたびに最初からやり直し、書き終えるまでに30分かかった。翌朝、四つ折りで渡した。

その後は、休み時間にたまたま会ったとき、目を合わせ、手をあげるくらい。LINEなどない。

バレー部の練習が終わる時間は毎日遅く、Yちゃんは先に下校した。

やっと部活が終わり、自転車に乗って下校する。その途中で、電話ボックスに立ち寄り、電話をした。居間の固定電話からかけるのは絶対に嫌だった。

テレフォンカードもあったが、通話は毎日10円、3分だけと決めていた。Yちゃんも家族を前にしているかも、と思うと、一層ドキドキして、長話しすることが出来なかったのだ。早口に話し、切った。切なかった。

進学校だったので、中間・期末テスト前の一週間だけは、勉強に集中するよう、どの部活も休みになった。この期間だけはYちゃんと一緒に下校することが出来た。登校時同様、自転車を押しながら30分かけ、家の近くの公園まで送っていった。

公園での別れ際3秒のことは、恥ずかしくて書けない。

励みになります。 大抵は悪ふざけに使います。