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異語り 151 てるてる坊主

コトガタリ 151 テルテルボウズ

20代 女性

私は雨女です。
何か気合が入る行事の時には必ず雨が降る。
大人になって何事も平常心でいられることが増えたので少しマシにはなったけれど、ちょっと楽しみにするだけで雨が降ります。

子供の頃はそれはもうしょっちゅう降られました。
運動会も遠足も延期からの中止になることが多く、何度もガッカリしたものです。

小学校3年生になる頃には「どうせ雨だし」と半ば諦めるようななったおかげで
【朝は曇り】というの日も出てくるようになりました。

それでも昼まで持てば運がいい方で、結局は途中で降り出して中止になってしまいます。

さらには学校行事だけでなく家族レジャーでもことごとく雨が降るので、とうとう家族から「雨女なんじゃない?」と言われてしまいました。

自分のせいで雨が降る。
そう思うとものすごくショックでした。
そして、友達にバレたらどうしよう
と怖くなりました。

気が付いたら学校に通えなくなっていました。

親も友達も心配してくれたけれど、まさかその理由が「自分が行くと雨が降るから」とは言えず、じっと家に閉じこもっていました。

そんな私を見て「どうせなら一足早い夏休みと思っておばあちゃんの家に行こうか」と母が声をかけてくれました。
そしてまだ梅雨の明けきらない中
祖母の家に行くことになりました。


祖母の家と言っても特に田舎ではなく、そこそこの町の住宅街の中です。
でも周りに知っている人がいないので少しだけ気が楽でした。

祖母は純粋に孫が遊びに来たことが嬉しいらしく、あれやこれやと世話を焼いてくれます。
「お菓子食べるかい」「お絵描きするかい」「おもちゃを買いに行こうか」などなど、
母は眉をしかめていましたが、最近私が塞ぎ込んでいるのを知っていたので見ないふりをしてくれていました。


ある時「そうだは明日遊園地に行かない?」そう誘われました。
「あまり大きくはないんだけど、あなたのお母さんが子供の時にも行ったことがあるのよ」
遊園地と聞いて一瞬すごく嬉しかったのですが、すぐに雨女だったことを思い出し表情が曇ります。
祖母はそんな私の変化に気がついて優しく理由を尋ねてくれました。

「遊園地は嫌いかい?」
「……きらいじゃない」
「あんまり行きたくない?」
「……行きたい」
「じゃあ行こうか」
「…………でも」
言葉を詰まらせてしまってもゆっくりと待ってくれます。

「……雨が降るから」しばらく悩んで小さな声でそう答えました。

「ああ、そうかい。じゃあてるてる坊主を作ろうか」
てるてる坊主は何度か自分でも作ってみた事はあります。
ですが、そんなものが効いた試しはありません。
でも祖母は「ばあちゃんはのてるてる坊主は特別なのよ」と言って笑っていました。

そしてその日の夕方には可愛らしい二個のてるてる坊主を手渡されました。
青い花柄の布で出来たてるてる坊主と赤いストライプの柄の布で出来たてるてる坊主。
手のひらサイズのそれらが50センチぐらいの細いリボンで繋がっていました。

「このてるてる坊主はとても仲良しなの。だから、こうして一緒になるように吊しておけば晴れになる。でもこうやってずらして吊るすと雨が降るのよ」
祖母はリボンをつまんでてるてる坊主たちを添わせたり離したりして見せてくれました。

効果にはあまり期待していなかったけれども、見たこともない可愛らしいてるてる坊主に私は大喜びしました。



そしてそのてるてる坊主は本当によく効いたのです。

その次の日は見事に晴れ、遊園地を楽しむことができました。
さらに夏休みの間中、何度かてるてる坊主を頼りました。
そしててるてる坊主たちはしっかりと期待に応えてくれたのです。

もう雨で行事がつぶれない! 
そう自信がついたお陰で学校にも通えるようになりました。



高校生になってやっと私は自分が雨女だと人に言えるようになりました。
友人たちが雨が降る前提で計画を立ててくれたり、自分は晴れ女だからどっちが勝つか勝負ね。と楽しんでくれたおかげでもあります。

そしてその頃には祖母からもらったてるてる坊主はもうボロボロになっていました。
でも大事なてるてる坊主です。
せっかくなので新しく作ろうかと祖母に作り方を聞きにいきました。

「てるてる坊主? ティッシュを丸めて包んだらいいんじゃないの?」
祖母はあのてるてる坊主のことはすっかり忘れてしまっていました。
ボロボロになっていたてるてる坊主を見せて説明しても
「覚えてないわ。本当にばあちゃんが作ってた?」
と聞き返されてしまいました。

私にとっては魔法のてるてる坊主だったのですが、残念です。

さらに残念なことに写真なども残っていませんでした。


でも私の記憶の中にはしっかりと残っています。
もし自分に子供や孫ができて「自分は雨女だ」と悩んでいたら、あのてるてる坊主を作ってやろうと思っています。

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