異語り 060 焼き芋
コトガタリ 060 ヤキイモ
昔、友達に誘われて焼き芋をしたことがある。
友達の家は広い砂利敷の空き地の奥にあった。
その空き地が友達の家のものだったのか、ただ管理を任されていただけなのかは知らないけれど、秋になるとその空き地はたっぷりの落ち葉が積もる。
いつも友達のおじいさんかおばあさんが落ち葉を掃き集めていた。
空き地の周りはぐるりと木が植わっていたので、いくつもの小山ができるくらい結構な量の枯れ葉が集まる。
子どもにとっては最高の遊び場でもあった。
「すごいね、こんなにあったらベッドも作れるんじゃない」
「袋に詰めたらクッションになりそう」
「それより、焼き芋ってやってみたいよね」
「毎年やってるよ、今度やるときおいでよ」
落ち葉を集めて焼き芋を作るというのは、本で読んだことはあったが実際にやったことはなかった。他の友達も同じようで、みんなで超期待して約束の日を決めた。
焼き芋当日、それぞれ自分の分の芋は家から持ってきた。
さすがに「子供だけでの火遊びはさせられない」とおばあちゃんが付き添ってくれることになった。
濡らした新聞紙を芋に巻き、その上からアルミホイルで包む。消火用の水の入ったバケツも用意しておばあちゃんを待っていると、おばあちゃんは大量の芋を抱えて家から出てきた。
あれ、自分たちの分はあるんだけどな、お家の人の分かな?
「ちょっと手伝ってくれるかい」
言われるがまま追加の十数本の芋を新聞紙とアルミホイルで包んだ。
「あんたん家いっぱい食べるんだね」
誰かがぽつりと零した言葉に
「えっ、だって半分ぐらい失敗してあるじゃない」
と、すごく不思議そうな顔で返された。
「ええ、そんなに失敗するもんなの!」
「うわ、予備なんて持ってきてないや」
「大丈夫、いっぱいあるから」
みんな焼き芋がそんなに難しいものだとは知らなかったから、ちょっと不安に沈んでしまう。
「さーて、火がついたよー」
おばあちゃんの声に振り返ると、落ち葉の山が燃えていた。
「お芋は下の方に入れなね、ほれこれでつつけばいいから」
50センチほどの枝をもって手招きしている。
時々パチンと爆ぜる火に少々ビビりながら、みんなで順番に芋をつつき入れた。
「あんまり火が小さくなりすぎんように、ちょっとずつ葉っぱを足してくんだよ」
「いっぺんに入れると消えちゃうんだよ」
おばあちゃんに次いで友達も得意げに言葉をたした。
ただ焼けるのを待っているなんてことは子供には難しく、結局ほとんどおばあちゃんに火の番を任せながら空き地で遊んでいたと思う。
小1時間ほど過ぎた頃、
「ほーれ、そろそろ焼けたぞ」
おばあちゃんは炎が収まり白い煙が上がるだけになった灰の山から、コロコロとホイルに包まれた芋をほじくり出していた。
「熱いから気をつけて」
ウキウキ気分でホイルをはがし、新聞紙を剥ぐ。
ぶしゅわぁっ!
焦げ臭いような、ほこり臭いような匂いと、黒い煙が吹き出した。
「うわぁ!」
中身は期待していたモノとは違い、干からびたゴボウのようなしわしわで黒い塊があった。
「いやー」
自分の他にも2人から悲鳴のような声が上がる。
「あや、喰われちまってるね、ほれこっちにしな」
おばあちゃんはサッと芋を取り替えると、黒い塊を火にくべてしまった。
次にもらった今はちゃんと美味しい焼き芋だった。
「ほらね、結構失敗するんだよ」
いつものことらしい友達の落ち着いた様子と、焼きたての芋のおいしさに、黒い芋の存在はすぐに忘れてしまった。
大人になり、何度か焼き芋をする機会もあった。
でも、あの時以来あんな失敗はしたことはない。
(ちょっと焦げたり、まだ中が固かったり、その程度のフォロー可能な範囲はあった)
そういえば、あの時おばあちゃんは「失敗した」ではなく、「喰われた」と言っていた気がする。
何に?
これだけ失態が続くとこっそりフェードアウトしたくなってくる。(若い頃なら確実に逃げ出していたかも)でもまあ、歳の分だけ面の皮も厚くなったので、しれっと続けていこうかな。 義務じゃなく趣味! まだ書きたいモノもあるのし、せめて百話くらいは書きたいし。 ゆるゆるだるだるな作者ですが、生暖かい目でお付き合いいただけると幸せです。
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