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本のある日常

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書店員として働く私が、本のことについて書いたエッセイ集です。
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#本屋

【新刊案内】3冊目のZINE『本と抵抗』を刊行します

1冊目『本のある日常』、2冊目『本のある生活』に続き、このたび3冊目のZINE『本と抵抗』を刊行します。 既刊の2冊は正直驚くほどの反響があり、1冊目『本のある日常』は2刷、2冊目『本のある生活』は全国16の本屋さんで取り扱っていただいていただきました(2024/04/17現在)。 3冊目のZINE『本と抵抗』も「いいものができた」と感じているので、読んでいただけるとうれしいです! お知らせ 2024/05/23 文学フリマ東京38に出店し、3部作合計で59冊を販売す

一箱古本市で本を売る

一箱古本市を知っているだろうか。 本屋さんじゃない人でも、気軽に自分の本を売ることができるイベントだ。 本のフリーマーケットと言えば、想像しやすいかもしれない。 そんな一箱古本市に、私は今までで4回ほど参加している。 一箱古本市はとにかくお客さんとの距離が近い。 本棚を挟んで、すぐ目の前のお客さんが本を眺める。 おずおずと手を伸ばし、気になった本をパラパラとめくる。 そして、気に入れば、小銭を手渡しして本を買ってもらえる。 戸惑ったのは、お客さんに「この本おもしろかった?

ふだんは読まない本を読むという冒険

読書歴が長くなってくると、「自分が好きそうな本」というのが大体わかってくる。 そして、そうした本ばかり買って読むようになる。 たとえば私だったら、ちょっと暗めのエッセイや哲学、人文学などの人文書ばかり読んでいる。 だけど書店員をやっていると、ふだんは読まないような本を読む機会に恵まれる。 お店で売れている本はどうしても気になってしまうし、「これは売りたい」と思った本はできるだけ自分でも読むようにしている。 そんな自分の興味から少し外れたような本を読むと、毎回驚くのだが、わか

本の帯どうするか問題

長年私を悩ませている問題がある。 そう、本の帯をどうするか問題である。 もともと几帳面な性格もあり、本の帯が捨てられない。 ただ、その几帳面な性格ゆえに読んでいるときは帯が手に当たって気になる。 かといって、本から外して取っておくと、本棚の上に謎の本の帯がワシャワシャしているコーナーが出来上がる。 本の帯はけっきょくどうするのが正解なのか、いいかげんこの問題に結論を出したい。 まず、どうして本の帯を捨てられないのか。 それは、なにかもったいない感じがするからである。 本の帯

書店員だけど接客の正解がわからない

私は小さな本屋で働いている。 個人店の小さな本屋なので、お客さんとの距離が近い。 せっかくお客さんとの距離が近いんだから、会計の際に小粋な一言でも言って、お客さんにまた来てもらいたいと思う。 例えば、お客さんの買った本を見て「私もこの本好きなんですよ」とか言えば、話が弾むかもしれない。 ただ実際にやってみると、笑顔で返してくれる人もいたが、苦笑いをする人や無視する人もおり、落ち込んでしまった。 「話しかけ方がまずかったかな・・・」などお客さんが帰ってから反省会をすることもし

歴史小説の門を開ける

長年、歴史小説には苦手意識を持っていた。 漢字が多いし、文体も固い。 なにより、登場人物の名前がみんな似ていて、誰が誰だかわからなくなり、物語に全然入っていけない。 そんな私だが、最近夜な夜な「戦国無双」というゲームを楽しんでいる。 「戦国無双」は歴史上有名な武将を操り、敵をばったばったと切り倒していくアクションゲームである。 仕事終わりで疲れている夜に、自分が強い武将となって雑兵をなぎ倒すのがいいストレス解消になっているのだ。 武将になりきって戦っていると、登場するキャ

私が本を読める場所

私は家ではあまり本が読めない。 読もうとしても、YouTubeやアニメやら他のことに気が移ってしまう。 そんな私が集中して本を読めると思うのは、電車の中だ。 電車では読書以外にやることがない。 スマホは見れるが、電車内が明るくて画面が見づらいし、情報量が多くて脳も疲れてしまう。 でも目的の駅までボーッとしてるのも退屈。 そんな状況はまさに読書にぴったりなのである。 駅のホームで文庫本を読み始めるから、電車を待つ時間も苦にならない。 電車に乗ってからもあっという間で、集中し

本屋納めと本屋始め

本好きにとって、その年の最後に行く本屋と、新しい年になって最初に行く本屋はやはりちょっと特別である。 年末は「これが最後の本屋か」となぜか襟を正すような気持ちになるし、年始に本屋に行くのはワクワクする。 2023年、私の本屋納めは12月30日だった。 朝、吐く息が白くなる寒さの中、なじみの古本屋に向かう。 道中の公園では、何匹もの鴨が寒い川に浮かんで年を超そうとしている。 見るとやる気がなく川に流されている鴨もいる。 古本屋の道すがら、公園を散歩するのは気持ちがいい。 古

書店員の私が本を読むようになったきっかけ

当時、私は無職だった。 新卒で入った会社を辞め、会社という組織を信じられなくなっていた私は、どうにか一人で稼げるようになりたかった。 そんなときにあるYouTuberがすすめていた『お金持ちになれる黄金の羽の拾い方』という本を読んだ。 その本は簡単に言うと、会社員は税金が取られすぎているから自分で小さい会社を作った方がいい、という内容だったのだが、読み終わった後に感じたのは「本を読まないことはリスクだ」ということだった。 というのも、会社員をやっていたとき、そんなに都合よく

近所の本屋がつぶれた

私が今のアパートに引っ越してきたのは、1年ほど前のことだった。 新しい土地に来て、まずうれしかったのが「本」という看板を掲げる店が近所にあったことだ。 期待して入ってみると、お世辞にも品揃えはいいとはいえない。 でも家のすぐ近くにあって、夜遅くまで開いているその店は、すぐに私のお気に入りの場所になった。 週に1回は通い本を買った。 落ち着かない夜にその店に行けば、本に囲まれる空間があって安心した。 マンガの品揃えはよかったので、新刊が出ると足早にその店に通った。 私は書

2冊目のZINE『本のある生活』を作りました

私にとって2冊目となるZINE、『本のある生活』を作りました。 書店員の私が、日々の生活の中でどんなふうに本と付き合っているかを書いたエッセイ集です。 新たな試みとして、エッセイに加え、本と関わった日の日記を書いてみました。 日記を読むことで、本のある生活をより身近に感じてもらえればうれしいです。 おかげさまで1冊目のZINE『本のある日常』(タイトルが似ている)は予想以上に反響をいただきまして、重版もすることができました。 2冊目もそれに続いてくれればと思いながら、『本

本を買うという冒険

本屋でレジに立っていると、店に入ってからすぐに一冊の本を手にとってレジに向かってくるお客さんがいる。 そして、買った後は脇目も振らず店を出ていってしまう。 もちろん、本を買っていただけることはとてもありがたい。本当にありがたい。 ただ、事前にネットで得た情報を頼りに目当ての本だけを買って帰るのは、少しもったいないことかもしれない。 本屋の醍醐味は、自分が知らない本と出会えることだからだ。 本屋では、本のプロである書店員が、趣向を凝らして本をディスプレイしている。 その棚をじ

俺もジャンプを売る側になった

私がまだ小学生のころ、近所の個人商店でジャンプを買っていた。 田舎に住んでいたので、近所といっても自転車で30分はかかる。 ジャンプのためにチャリを飛ばし、夏の田んぼのあぜ道を、汗をかきながら走った。 そしてようやく店にたどり着くと、入りたてホヤホヤのジャンプを見つけて、すぐさまカウンターに向う。 田舎だからカウンターのおばちゃんとも家族ぐるみの仲である。 「いつもありがとうねえ」 そんなこと言われながら、お金を払い、ジャンプを受け取った。 そうしてまた、家でジャンプを読むた

本と触れ合う時間のない書店員

私はふだん、書店員として働いているが、正直あまり本と触れ合えていない。 もちろん、仕事中はほとんどずっと本を触っている。 レジ打ちや品出し、返品作業だってそうだ。 ただ、触ってはいても触れ合えてはいないのである。 書店員としての仕事はけっこう忙しい。 大量の本を棚に出したり、メールで出版社とやり取りしたり、お客さんの問い合わせに対処したり。 そんな中だと届いた本の内容もわからず、ただただ棚に並べるような仕事になってしまう。 そんなふうにしていると、棚がどこかよそよそしく、軽