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本のある日常

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書店員として働く私が、本のことについて書いたエッセイ集です。
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2023年8月の記事一覧

俺もジャンプを売る側になった

私がまだ小学生のころ、近所の個人商店でジャンプを買っていた。 田舎に住んでいたので、近所といっても自転車で30分はかかる。 ジャンプのためにチャリを飛ばし、夏の田んぼのあぜ道を、汗をかきながら走った。 そしてようやく店にたどり着くと、入りたてホヤホヤのジャンプを見つけて、すぐさまカウンターに向う。 田舎だからカウンターのおばちゃんとも家族ぐるみの仲である。 「いつもありがとうねえ」 そんなこと言われながら、お金を払い、ジャンプを受け取った。 そうしてまた、家でジャンプを読むた

本と触れ合う時間のない書店員

私はふだん、書店員として働いているが、正直あまり本と触れ合えていない。 もちろん、仕事中はほとんどずっと本を触っている。 レジ打ちや品出し、返品作業だってそうだ。 ただ、触ってはいても触れ合えてはいないのである。 書店員としての仕事はけっこう忙しい。 大量の本を棚に出したり、メールで出版社とやり取りしたり、お客さんの問い合わせに対処したり。 そんな中だと届いた本の内容もわからず、ただただ棚に並べるような仕事になってしまう。 そんなふうにしていると、棚がどこかよそよそしく、軽

書店で本が多すぎて選べない問題

先日、友達がこんなことを言っていた。 「本屋に行くんだけど、本が多すぎて選べない。目が滑ってしまう」 確かに、最近の本屋は売り場の大型化が進み、その中から自分好みの一冊を選ぶとなると途方に暮れてしまう。 ただ、私も書店員の端くれ。 その友人には、「エッセイの棚から興味のある本を選ぶ」という方法を提案しておいた。 本屋が広すぎて選べないなら、自分で見る棚の範囲を限定すればいいのだ。 「この棚から1冊は買うぞ」 そういう心持ちで見れば、記号にしか見えなかった背表紙の文字も、よう

餅は餅屋、本は本屋。ネットでも本屋で本を買う

本屋さんのネットショップで本を買うのにハマっている。 Amazonと違って送料がかかるし、本屋ごとに住所や支払い方法を入力しなければいけない。 それでも私は、本屋さんのネットショップで本を買う。 きっかけは、東京の有名な本屋である「Title」のネットショップを利用したことだ。 そのとき私は、『私の愛おしい場所』という本を探しており、個人出版のためAmazonや大手書店では売ってなかったのだが、Titleのネットショップで取り扱いがあったのだ。 正直、今まで利用したことはな

本という善良ぶった劇薬について

今年の7月に芥川賞を受賞した『ハンチバック』を読んだ。 のっけから性的な描写が登場し、面食らった。 読み終えるころに感じたのは、本という媒体における表現の自由さである。 昨今、「テレビがつまらない」という言葉をよく耳にする。 それは、テレビがマスメディアであり、できるだけ多くの人に見てもらわうことを前提として作られているからだと思う。 それはつまり、表現の幅を狭めることにつながる。 例えば、先に挙げた性的な描写など、今では深夜テレビでもお目にかかれなくなった。 それに比べ

毎日本屋に行ってしまう

毎日本屋に行ってしまう。 書店員なんだから、仕事の日は当然本屋に行く。 だけど、休日も気がついたら本屋に足が向かっている。 これについては自分でも不思議に思い、「どうして私は休日にまで本屋に行くんだろう」と真剣に考えたことがある。 そして、出た結論は「本との出会いを楽しみたいから」だった。 同じ本でも本屋によって、その本への”意味”が異なる。 ある本屋では大事な本が、ある店ではその他大勢の本として扱われる。 そしてそれは本のディスプレイに表れる。 大事に思われている本は平

ZINE『本のある日常』を作りました

私にとって初のZINEである『本のある日常』が完成し、このたび販売を開始しました。 内容は書店員である私が、本について考えたことを書き連ねたエッセイ集となっております。 noteで書いていたエッセイに大幅な加筆修正を行い、さらにあとがきとして「ZINE づくりで大変だったこと」を書きおろしました。 販売を開始してさっそく取り扱ってくれるお店が決まったり、購入してくださる方がいたりと、ワクワクと楽しい日々を過ごしております。 この記事では、そんな『本のある日常』を紹介してい

ブックオフの滞在時間が伸びていく

ここ2年ほどブックオフに通っているのだが、通う中で楽しみ方が変化してきた。 見る棚の範囲がどんどん増えてきているのだ。 最初は文庫本と単行本だけだった。 面白そうなエッセイを探すだけで満足だった。 それが次に雑誌を見るようになった。 わかりづらいかもしれないが、ブックオフには雑誌コーナーもあるのだ。 ここに意外なお宝が眠っていることがあるから侮れない。 お次はマンガコーナーである。 最初は文庫マンガと大判マンガだけだったが、最近はだだっ広い単行本のコーナーもチェックしている

夜の本屋を冒険する

休日の夜にどうしても寂しくなってしまうことがある。 そんなときは、散歩がてら家の近くのお店に行く。 幸い近所には夜遅くまでやっているコンビニやリサイクルショップなどがある。 その中でもお気に入りは本屋に行くことだ。 その本屋は格別に品揃えがいいというわけではない。 むしろ、店員のやる気のなさが棚に表れていて、品揃えは並以下である。 そんな本屋でも、近所にあって夜遅くまでやっているというだけで、愛着が湧いてくる。 あてどなく店内を回り、気になった本をパラパラとめ

借りた本はなんだか頭に入ってこない

私は彼女と同棲しているのだが、一緒に暮らしているとお互いに「えっ」と驚くようなことがある。 私にとってそれは、彼女が私の持っている本をわざわざ買うことだった。 家の本棚に刺さってるのに、家に帰れば読めるのに、である。 それはさすがにお金がもったいないと、レジに向かう彼女を止めるのだが、彼女は「あなたの本だと思うと、なんだか読めない」と言い、けっきょく買ってしまう。 そんなことがあったので、私も試しに彼女の本を借りて読んでみた。 そうすると、なるほど確かに自分で買った本とは読