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【詩】出航

新しい国へ発つ船に乗り込んだ
旧友のことがふっと胸をよぎった
同乗する友も今彼のことを思ったらしい
何故だろう?

この暗い海の色は彼の瞳と同じ
そしてその底の底を見つめていると
爽やかな波音とは裏腹の
死と闇が潜んでいるのが分かる

幼き子も老いた人々も
輝ける頃と我々に羨望の眼差しを送るが
初めに知るのは苦い苦い悔いだ
彼も 友も 僕自身も

「楽しい旅を!」
「故郷の人によろしく!」
「また会う日まで!」
人々の笑い騒ぎの中
僕らは重々しく押し黙る
こちらの国を振り返れば遠くに険しき山々と砦
戦地に赴くかのような船出
僕らを結ぶのは恐れでも憤りでもなく
固い決意だ

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