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三蔵法師を探偵役に、殺意と陰謀の大パノラマを描く―『西遊八十一案 大唐泥犂獄』

 唐王朝建国から間もない武徳四年、益州(四川)の空慧寺で、一人の老僧が僧衣をまとった何者かに斬り殺される。次いで武徳六年、長安と山西の太原を結ぶ要衝の街・河東道霍邑県で、県令の崔珏(さいかく)が、ある僧との面会後、首を吊って謎の死を遂げる。
 二代目皇帝の太宗が即位し、年号も改まった貞観三年、この霍邑県に胡人のお供を連れた一人の僧がやってくる。天竺へと旅立つ前の若き玄奘三蔵である。しかし、県令夫人は玄奘を一目見るや、理由も告げず、すぐこの街から立ち去るよう忠告する。実は、玄奘の次兄は行方不明となっており、霍邑県へやって来たのはその真相を探るためだった。事情を知った県令は、崔珏謀殺嫌疑のかかった僧の似顔絵を玄奘に見せるが、なんとその顔は他ならぬ彼の兄だった。
 県令の好意で家に招かれる玄奘。その時、彼を目がけ、一本の矢が空を切って飛んでくる! あやうく難を逃れた玄奘だが、その日から幾度も命を狙われる。彼を狙うのは誰か、なぜ彼を狙うのか?そして玄奘がやってきてからというもの、街では次から次へと不可解な事件が発生する。
 やがて、さまざまな思惑の入り乱れるこの霍邑の地に、太宗皇帝が訪れることが伝えられる。ところが、玄奘の滞在する興唐寺で、皇帝暗殺計画が隠密裡に動いていることが判明する……

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 元ネタはご存じ『西遊記』だが、地方都市の小さな事件を出発点に、予想もしなかった事件がつるべ打ちのように連続して起こり、物語はどんどんスケールアップしていく。大唐帝国の仏教界に渦巻く陰謀、名刹に潜む幾多の謎、難事件に挑む「探偵」玄奘、彼の命を狙う殺し屋のツンデレ美少女、謎めいた美貌の県令夫人、暗躍するスパイ……。魅力的な登場人物、張り巡らされた伏線に意表を突くどんでん返しの連続、そしてクライマックスには江戸川乱歩も真っ青の大パノラマが展開する。
 『西遊記』ものではあるが、妖怪や方術は登場しない。しかし、ミステリファンであれば、密室内の人間消失や、よみがえる死者などの超自然的な事件に固唾を呑み、それらがことごとく合理的に解決される展開に、カタルシスを覚えるに違いない。歴史小説やライトノベルが好きな読者にも、是非、読んで欲しい作品である。

緒方茗苞【おがた・めいほう】
大学院の同窓生で、中国の思想と通俗文芸を研究する二人のユニット。ミステリ、歴史小説と、それぞれ守備範囲はことなる。ともに昼は関西圏の大学で中国語や漢文を教え、夜は三匹の猫をお供に酒食を楽しむ。中国江南や台湾へ研究の名目で出かけつつ、その実態は小籠包をはじめとするB級グルメ巡りだという話も。
ペンネームは猫たちの名前から。もちろん二人とも筋金入りの「猫奴」。仕事が辛い日も、家に帰ってこの子たちを撫でれば幸せな気持ちに。

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